2 バブル崩壊後行われた員数合わせのリストラの結果、製造業として重要な固有技術を属人的に持つ、
中高年設計者や技術者達を離職に追い込だことにより生じた、継承技術の断絶、機械の原理原則の不在。
上で私が定義したと同様な“製造業の本分”をわきまえ、バブル時代も無謀な水ぶくれを犯さず、確実に将来のための布石を打っていた製造業も少なからずある。バブル崩壊後の大混乱時も、一人のリストラを行うこともなく、失われた10年と揶揄される苦しい時期を、経営者・社員・株主が一丸となって耐え抜き、2000年代に入いると業績を躍進させるとともに、着実に製造業力を蓄える努力を行ってきた製造業がある。しかしこれらはほんの一握りの製造業である。バブル崩壊からしばらくして、殆どの製造業では無節操な員数減らしが始まった。
しかも景気回復後、又次に来るだろう不況期など将来を見据えた員数減らしではなく、無能な経営層が自己の責任を覆い隠す目的での“リストラ(=リストラクチャリング=事業の再構築)”という言葉を借りた、不況時の経理側面からだけの単なる雇用調整である。
その結果、多くの設計現場では、本来なら将来足手まといになる資質の低い若手設計者など、その給与の低さ故目もくれず、給与の高いベテラン設計者に狙いを絞った退職強要が横行した。そうして多くの製造業の設計現場から、設計マネージャーとしては資質がないが、サラリーマンとしては世渡りが下手だが、設計者としては極めて高いレベルにあるベテラン設計者達が大勢設計現場から追われる事になった。
ここで問題なのは、離職を余儀なくされた退職者だけではない。製造部門や資材・検査などのものづくりや製品開発に関わる部門、営業や営業技術のような商品開発に関わる部門への異動なら、私がこれまで行ってきた施策を講ずるに当たって問題ないのだが、全く事業に関わらない、関連会社などへの移動は、それぞれのベテラン設計者達が持つ固有技術を、捨て去ったに等しい行為であった。
そして多くの製造業で、“継承技術の断絶”、“機械の原理原則の不在”の問題が引き起こされることになった。それぞれが何故問題なのかは、それぞれリンクページを参照頂きたいのだが、かつて全世界を驚愕させた我が国製造業の“強い製造業力”を根底から奪い去ることにつながるからである。
3 輸出依存のすっきりしない景気回復状況と、将来を見据えた経営ができない駄目経営者達は、“強い製造業力”
を蓄える手を打つこともなく、偽装請負、現業派遣で“製造現場のモラール低下“による品質問題多発を引き
起こし、設計派遣は設計現場の設計根幹業務を派遣製図工に奪われている事実。
その是非はともかくとして、急激に工場稼働が低下したときのリスクを考え、正規雇用を増やさず制度上許された工場労働者の派遣を利用して、その契約期限満了で契約を更新しない行為に関して、製造業が非難される理由はない。制度が拙いのなら制度を安易に作った輩が非難され、血祭りに上げられてしかるべきで、製造業が非難の矢面に立たされる昨今の事態は、本末転倒も甚だしい。
私の記憶では、この制度が強行採決された2003年時点で、この問題点を指摘したマスコミは記憶にない。にもかかわらずお門違いの非難合戦であり、人ごとのように問題回避を後送りする現政府に強い異論を発しないのは如何なる理由か。
しかしこの雇用の調整弁としての工場労働者の派遣活用は、私にいわせれば、製造業に取っては“麻薬”以外の何物でもない。長い目を持った、製造業の根幹的体力強化を図らずして、副作用が出ることを自覚せず、一時しのぎの痛み止めにこの麻薬を安易に多用していることに他ならない。そしてその結果、様々な問題が我が国の製造業の各所に生じている。
生じた問題点の中で私がもっとも深刻に受け止めているポイントは、品質問題多発の現実である。私がこれまで関わってきた製造業の多くで、以前なら考えられない様な、まるで1970年代の米国製造業を彷彿させるような品質問題が多発している事実がある。当時の米国製造業労働者のモラールの低さを揶揄する逸話に「買った某米車のドア中でガタゴトうるさい音がするので、ドアとリムをはずして見ると、中からコカコーラの瓶が出てきた」という話だ。
2000年以降、同様な状況に陥っている製造現場が多発しており、これらの品質問題を抱える製品が市場に出てしまい、膨大な市場クレーム費を費さざるを得ない例、問題のある製品の流出を防ぐため、検査や補修に膨大な費用を費やしている例など、拾い上げたら枚挙に暇がない状況がある。
そしてこの品質問題の多発は、仮に最適な商品(製品)開発が叶ったとしても、商品の質を低下させることになり、その商品の市場競争力などの商品力を奪ってしまうことになる。また本来なら生み出されたであろう利益を、品質問題が食いつぶしてしまうことになる。まさに製造業力を低下させる最大の元凶であり、まんまと米国の”年次改革要望書“の罠にはまった現象といえる。
さらに製造現場での派遣労働者の多用は、熟練工の減少(製造現場によっては不在に近い状況)を必然的に招き、品質低下のみならずワーカー1人あたりの生産性を大幅に低下させている。一時帰休という制度を用いるなら熟練工の散逸は防げるが、今問題になっている製造現場での派遣を、安易に雇用の調整弁として用いている経営姿勢では絶対に無理だ。
ではどうすれば良いかだが、これまで列記した商品(製品)開発に関連する設計業務などの問題点は、後で纏めてその解決方法を述べるが、本件は以下のような対策手段しかなかろう。
かつて製造現場末端までの終身雇用の制度が我が国の強い製造業力を支えてきた。QCサークルに代表されるような草の根的全社モラール底上げ活動は、終身雇用という制度が前提にあって初めて、仮に残業手当が付かなくても全員参加で一生懸命な取組が叶ったはずだ。製造現場での派遣労働者の多用という麻薬を手放した今、心ある製造業は、一度20年来の自分たちの取組を総括するとともに、温故知新の考え方に立って将来の自分たちの姿を真剣に見つめ直すべきだと考える。
ただし私が終身雇用という制度を評価しているからといって、旧泰然とした古い製造業や役所などに良く見られる、一律に近い年功序列の考え方には反対だ。やはり企業が稼ぎ出した利益の分け前は、その利益を生み出すために貢献した貢献度で分配されなければ、特に優秀な人材を腐らせるし、役に立たないその他多くの足手まといにムダな費用を費やすことになる。
新入社員が育ってゆく過程の初期段階では、年功と貢献度が比例する形でも良いだろう。しかしある段階から一律横並びは当然あり得ないし、課長になるまで同期入社同士では、その年収が10%程度しか差が付かないなどという制度を取っていたら、やはり今の時流には乗り切れまい。
能力主義の評価制度、成果主義の評価制度などこの20年来新しい人事評価制度を採用してきた製造業は少なくない。しかし本当にこれらの制度がうまくいっているかもしっかり見つめ直すべきである。私がこれまで診断を行った何処の製造業でも、これらの制度がうまくいっているとは思えないからである。このあたりの私の考え方は日刊工業新聞社の「機械設計」誌で行った連載の中で、一部触れているので参照願いたい(2007年3月号108ページ)。
二番目の問題点は、昨年の年頭所感で触れた「 “偽”設計者、“偽”設計行為の蔓延」の問題だ。詳しくはリンク先を参照頂きたいのだが、バブル期の水ぶくれ、バブル崩壊による固有技術を属人的に持っていたベテラン設計者達の放逐、そして本節で取り上げた回復期へと、徐々に病魔が蝕んできた極めて拙い現象であり、少なくとも体力を温存できている製造業は、即刻手を打たなければならない問題点だと考える。
実は昨年秋以降、列記した問題点解消と同類の質問が相次ぎ、本ホームページで紹介してきた。以下の記するページを参照頂くと、ここで列記した様々な問題点の解消方法や今後取り組むべき方向性に関する私の考え方が示してあるので、ご興味をもたれた方は是非参考にして頂きたい(一部弊社ウエブ会員の方しか読めないページや図があるが、会員外の方々はご容赦頂きたい)。
また2004年以降毎年年初に掲載してきた私の年頭所感も列記するので参照頂きたい。
列記した問題点を解消するためのヒントを含むページ
08/12/26不況期に稼げる商品はどうすれば開発できる?
08/12/19具体的にどの様なご支援を頂けるのですか?・・・「雇用調整のリストラではなく本当の意味
での体質強化のリストラを行いたい」の続き
08/12/12雇用調整のリストラではなく本当の意味での体質強化のリストラを行いたい
08/12/05CADオペレータ削減に対する効果的な対処方は?
08/11/21設計技術力低下解消や技術継承の失敗回復には設計思考展開は効果があるか?
08/11/14早急にフロントローディング開発体制を整えたい(1年以内に何とかならないか?)
08/10/31開発着手段階からのFS徹底で円高90円は難なくクリアーできる(フロントローディングで
コストの作り込み、開発ムダの徹底排除、品質ムダ(クレーム費)の徹底排除により)
08/10/17ベテラン設計者のノウハウやスキルを的確且つ効率よくに若手設計者の設計に反映する手段は
08/10/10ベテラン設計者が3次元CADを使ってくれないので計画図の流用設計ができない
08/09/05短期間でフロントローディング設計体制を実現するには? 過去に実績は?
08/08/29日本流コンカレント設計はどうして巧く流れたのか?
08/08/22経営トップから開発工数を半減しろと言われておりますが即効性のある対策手段はありませんでしょうか?
08/08/01フロントローディング設計の極意を教えてください
08/07/04“効率よく開発を行うための秘策”は?
08/06/20設計改革の成否に企業力の差は影響しないのか?(続き)
08/06/13設計改革の成否に企業力の差は影響しないのか?
2005年以降の年頭所感
2008年 “偽”設計者、“偽”設計行為の蔓延
2007年 製造業の本分は、常に“旬でよく売れる商品”を開発し続けて、これで稼ぎ続けることである
2006年 “喉元過ぎれば熱さも忘れ”では負け組転落が必定(前編)!
2006年 “喉元過ぎれば熱さも忘れ”では負け組転落が必定(後編)!
2005年 年頭所感(前編)見せかけの成果誇示や辻褄合わせなどしているときではない!今年こそ実効ある
開発業務改革・設計改革を成し遂げなければ、ワールドワイドでの負け組企業に陥ることは必定である!
2005年 年頭所感(中編)見せかけの成果誇示や辻褄合わせなどしているときではない!今年こそ実効ある
開発業務改革・設計改革を成し遂げなければ、ワールドワイドでの負け組企業に陥ることは必定である!
2005年 年頭所感(後編)見せかけの成果誇示や辻褄合わせなどしているときではない!今年こそ実効ある
開発業務改革・設計改革を成し遂げなければ、ワールドワイドでの負け組企業に陥ることは必定である!
2004年 この一年を振り返って