最近製造業の景気が上向いてきたためか、これまでお付き合いの無かったような製造業からの、診断の依頼やコンサルの引き合いが多い。私としては、喜ばしい限りの話だが、これらの製造業と接していて戸惑いを覚えることが少なくない。
これらの製造業もバブル崩壊前は、それぞれの業種でトップクラスの売上成績を上げ、飛ぶ鳥をも落とす勢いで、全世界で稼ぎまくっていた。しかし売上至上主義であったり、緻密な計数管理がなされておらなかったり、本業以外の儲け話にのめり込んだりしており、バブル崩壊とともに、一気に谷底に突き落とされた経験を持つ生き延び組だ。
製造業の本分は、“旬でよく売れる商品”を常に開発し続けて、これで稼ぎ続ける事だ。要するに全世界の顧客ニーズにマッチした、安全で高品質且つ適正価格の製品を、より短期間且つ低コストに開発して、常に安定した製品供給が叶うことが、製造業に求められる要件であり、製造業の本分のはずだ。
ところが、先に挙げた製造業と接したときに、大きな戸惑いを覚えるのは、彼等の多くが、まともな商品開発を行えない状況に陥っていることである。
例えば、その創業以来綿々と引き継いできたはずの固有技術が、図面の形でしか残っておらず、自分たちの手がける機械の原理原則を誰も解らない状況下で、闇雲な開発作業を行っている例。
この十年来新規技術の開発を全く行わず(行うことが出来ず)、蛸が自らの足を食らうが如く、其れまで蓄積していた仕込み技術を出し尽くして、ビジネス競争から離脱せざるを得ない状況になっている例。
かつてはその優秀な商品性で、海外メーカからOEM供給要求で大いに稼いでいた状況から、その技術的な特徴が失せ、値段を値切られ利益を出すこともままならない、単なるサプライヤーに落ちってしまっている例など、私が戸惑いを覚える例を挙げたら枚挙に暇がない。そしてこれらの製造業の過去15年を追うと、ほぼ同様な経営の失敗を犯している。
その失敗とは、まさに上で挙げた“蛸が自らの足を喰らうが如く”すなわち、バブル崩壊とともに急激に厳しい経営環境に面したときに、将来を充分に見据えた上での、如何に今を凌ぐかの戦略が立てられず、“蛸壺に籠もり、邪魔者は追い出し、身を潜めながら自分の足を徐々に喰らい、現在まで生き延びてきた”と入っても過言ではない経営を行ってきたことだ。
もう少し具体的に言うと、リストラ一つとってもその取組方で、上で挙げた経営失敗組と、成功組で大きく分かれる。自分たちの10年後20年後を的確に見定める事が出来ている製造業では、表には出さなくても、退職されては拙い人間、辞めて欲しい人間、どうでも良い人間を、それぞれの部門長レベルに丸投げするのではなく、社全体の意思として持ち、明確に振り分けて行動した。辞めていった人間は、部長には気に入られていても、社にとって不要とされた人間達だ。社にとって必要と目された人材を辞めさせようとして、逆に自分が辞めさせられた部長もいた。
しかし経営失敗組のリストラのやり方はどうだろう、一律部門に頭数の割り当てがあり、とにかく辞めさせやすい人間と、自分と反りが合わない人間から辞めさせてた製造業が少なくない。そしてこのようなケースでは、若手中堅を中心に、サッサと手を挙げ残って欲しい人材が辞めていってしまう結末になったはずである。
これでは、“旬でよく売れる商品”を常に開発し続ける事が出来る人材がいなくなっても止むを得まい。
しかし、戦略的にリストラを行う事が出来た製造業でも、経営失敗組に陥ったケースがある。リストラ以降、爪に火をともすが如くの日々を積み重ね、使う金もない、人もいない状況で、新技術の仕込みが全く疎かになっていた製造業だ。
全世界の競合メーカが、同じ状況に陥っているのであれば、上記のような状態でも、助かったかもしれない、しかし現実は甘くはない、先行する競合メーカは、次々と新しい技術を物にして、商品に落とし込んでいる。要するに差をどんどん付けられている状況だ。現在の乗用車メーカの戦いを見てもらうと、この例は理解頂けるだろう。
余談だが、一時期持て囃された日産のゴーン改革も、新技術という面では、明らかにトヨタ、ホンダに大きく差を付けられている。私などの見方では、ゴーン改革も、たぶん失敗組だろうという判断だ。
さて、これらの経営失敗組の今後だが、折角今日まで生きながらえてきたのだが、このまま行ったら恐らく茨の道が待っているだろう。一日も早く、何が何でも製造業の本分、すなわち「“旬でよく売れる商品”を常に開発し続ける事が出来る力」を確実な自分たちの物として持たなければダメだ。悠長な事は言っている暇が無い。
どうすればよいかは、自分の頭で考えなさいと言うことになります。当然私にご相談頂ければ、少なくとも今の悪さ具合、今後如何に進むべきかのアドバイスは出来るでしょう。さらに急速に良くなる見込みがありそうな製造業の皆さんには、具体的な改革・体力強化の支援を行わせていていただきます。