CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

フロントローディング設計の極意を教えてください


■質問■

<前略>

弊社でもフロントローディング設計に取組み、既に3年余りが経とうとしております。

しかし開発業務の慢性的な忙しさもあり、一向にフロントローディングの効果が出てきません。フロントローディングの最大の目的であります、開発期間中における手戻りの減少や、量産開始以降における設計変更件数の削減に一向に貢献してこない有様です。

先生が機械設計に連載されておられたフロントローディングの考え方も積極的に取り入れ、設計初期段階の徹底した詰めや雛形モデル作りなどを行おうとするのですが、これまでのやり方に慣れたベテラン設計者達がそれらをいやがり、結局は先生がおっしゃられる「作って、壊して、考えよう」を性懲りもなく繰り返しております。

また課長クラスの成果管理目標にフロントローディングの実現を要求するのですが、開発納期を盾に「そんな面倒くさいことをしていたのでは、要求された納期にとても間に合わない。部長の裁量で納期を遅らせて頂けるなら良いですが」などと堂々と居直る猛者も居る始末です。

弊社の状況が、先生が例に挙げておられるB社のような状況で、目前に成果が見える状況なら、恐らく課長達もこれほどまでに逆らわないのでしょうけれど、製品の難しさは恐らくA社並で、技術のレベルはA社に遠く及ばない状況の我が社としては、彼らの気持ちも分らないわけではありません。

そこで先生に質問ですが、弊社のような状況から、短期間でフロントローディング設計が実現できるような、画期的なフロントローディング設計アプローチの極意はありませんでしょうか。

<後略>

■回答■

ありません。

設計という行為は、科学的な行為です。物理の法則・機械の原理原則に叶った設計法案を積み重ね、目的・狙いの機械を作り出す行為です。

そして私の提唱するフロントローディング設計とは、その開発途上で物理の法則や機械の原理原則から逸脱することなく、且つ適正なコストで高品質に安定した生産ができ、さらにお客様に喜んで購入頂け稼げる製品を最大効率・最短期間で生み出す事をねらっております。

このため的確な商品企画(開発仕様決め)、徹底した構想設計の詰め(一切の手戻り・後戻りの根絶)、開発初期段階からの徹底したコンカレント開発(適正コストの実現・垂直立ち上げの実現・顧客クレームの根絶)を要求しているわけです。

そしてこれらを遍く実現するためには、付け焼き刃ではない本当の実力(企業力)を付けないと、コンスタントにフロントローディング設計を実現し続けることは不可能です。

ですからB社の様に実力を持っていた製造業ならともかく、実力が劣る製造業は、地道な積み上げの一歩々がないと、フロントローディング設計実現は無理とお考え下さい。企業力という意味では、我が国有数の実力を備えていたA社でさえ、最初の成果を出すまでに4年、コンスタントにフロントローディング設計を実現できるまでに10年の歳月を掛けております。

と言うことで、貴社で本当にフロントローディング設計を実現したいのなら、極意など無く、地道な積み上げの一歩々が必要であることを理解する必要があると考えます。

参考に、今夏弊社顧客に出した暑中見舞いの一文を転記致します。



「特筆すべきは七年以上前からご支援申し上げている先で、やっと画期的な数字が出始めた所がございます。この支援先に対しては、私自身頓挫もやむをえないと殆どあきらめていたのですが、関係される皆さんの頑張りにより予想外の成果へと至りました。
 昔の人は良いことを言った物です「石の上にも三年・・」。やはり改革という取組には極めて大きな忍耐と弛みない努力が必須です。これまで改革を試みて頓挫された皆さんは是非参考にしてください。」



追伸)

老婆心ながら、貴社においてフロントローディング設計が巧く進められない理由には、次の問題点があるのではないかと危惧致します。

これまで各所で見かけたフロントローディング設計への取組が失敗した事例の多くは、自分達が抱える問題点を冷静に把握・分析することなく、顕在化している事象面だけに目を奪われただけの、極めて場当たり的で能書き的な取組がほとんどでした。

その結果、的はずれな取組を行い、無駄な時間を費やしていた例は枚挙に暇がありません。

フロントローディング設計は、設計業務改革を成し遂げる一つの手段であり、その結果稼げる事業体質に自己を変革させる目的の取組です。

このためには、製品開発に関わるメンバーのみならず、それ以外のマーケッティング〜物作り・販売・メンテナンスまで含めた事業に関わるあらゆるメンバーが、主体的に行動して、より質の高い製品をより短期間で開発できる”力”を身につけ、それを武器に厳しいビジネス戦争を勝ち抜くことができる体質に自己を変革させる必要があります。

あらゆる場面で言えることですが、一般に”自己変革”を行うためには、自己の悪い点とその悪さ加減を的確に把握して、問題の大き度合いに応じた優先順位を付け、自己改革を行ってゆくアプローチが一般的です。

そしてこのアプローチは、フロントローディング設計でも同じです。自分たちがこれまで行ってきた商品開発・製品開発において、「その開発期間を滞らせてきた原因は何か」、「開発品質が向上しない原因は何か」、「垂直立ち上げが叶わない理由は何か」、「利益を出せるコスト設計が叶わない理由は何か」、「商品が飛ぶようにに売れない原因は何か」等を冷静且つ根拠を持って特定する事がまず必須となります。

その上で、それぞれの悪さ度合いを明確にし、確実に自分たちにできる取組方法で根気よく改革をはかってゆくことが肝要なわけです。

貴社では今回のフロントローディング設計への取組で、上記視点での現状把握・分析作業や、確実に自分たちにできる取組計画立案などを緻密に行っておりますか?

もし行っておらないなら、今からでも遅くありません。私どもの「現状診断」を受診されることをお勧めいたします。



参考)

質問者がフロントローディング設計取組に際して参考にされた私の連載とは、日刊工業新聞社 機械設計誌 連載(2005年7月〜2007年3月)「グローバル競争を勝ち抜く “攻め”の設計改革講座」です。現在同書籍が入手可能かどうかは分りませんが、ご興味のある方はご入手の上お目通し下さい.