CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

2006年、年頭所感 (後編)

“喉元過ぎれば熱さも忘れ”では負け組転落が必定!


私はこの十数年150件(社数では無く事業部署数)を優に超える製造業の現状診断を行ってきた。当初は、3次元CADやCAE、PDM等のIT設計支援ツールを有効活用して設計改革を行う目的での診断だった。しかしこの診断は時を追う毎に、商品開発改革を目的とした診断へと範囲を広げ、さらに現在では“稼げる事業改革”を目的とした診断へと、徐々にその範囲を広げてきた。製造業にとって設計改革も重要だが、単に設計部署の業務プロセスや業務の質に対する改革を行っても、製造業における事業単位で見たときには、単なる部分最適化にしか過ぎず、事業収益という観点で見たとき、殆ど効果が出ないことに気づいたからだ。

そしてこの中の一部の製造業は、筆者の繰り出す苦行とも言える数々の改革要求に良く応え、その改革が定着できたか否かは兎も角として、間違いなくワールドワードマーケットや内需マーケットで、21世紀を勝ち抜くことが出来るであろう、贅肉を取り去り体力を付けた組織と、強力な商品開発力を物にした。私が言う各業界での勝ち組企業の域に、これらの製造業は到達できたと言える。

一方、先に挙げた150を超える診断先でも、この路線に乗れない製造業はたくさんあった。私から提示した診断結果を受け入れようとしなかったところ(「俺たちはこんなに悪い状況にあるはずが無い!」など)。改革をスタートさせようとしたが、事業幹部が面従腹背の状態で、その計画段階で私から改革への取組中止を申し入れたところ。改革への取組を始めたが、関係者が一枚岩になれず、総論賛成各論反対で一向に取組が進まず、改革スタート1〜2年で私から改革中止を申し入れたところ。等、その6割以上は、改革未着手のままや、改革に失敗した状態にあるのが実態である。

しかし決して安く無い弊社の診断を受診しただけでも、さしたる危機意識も抱かず漫然とその日暮らしをしている製造業や、四半期単位の収益に対する辻褄合わせだけに、その精力の大半を費やしている製造業よりは、危機意識があるだけでも、雲泥の差があると言っても良いのだが。

ちなみにこの150件は、我が国を代表する蒼々たる製造業が殆どだ。弊社の決して安くない診断料金に対して、その結果を受け入れるか否かは兎も角として、対価をお支払い頂ける事だけでも、対象になる製造業は絞り込まれてくる。さらにバブル崩壊以降、苦しいとは言え、診断費用を捻出できる業績規模の製造業に限定される事からも類推頂けよう。

さて、冒頭で、2006年の景気動向は、製造業にとっては概ね明るい方向性が見えていると述べた。そして恐らく筆者の診断を受けたのだが、改革が未着手の状態や、改革への取組を中止した製造業にも、間違いなく何らかの追い風も吹くだろう。近視眼的には労せずして事業の経営環境が大幅に好転する可能性もある。

しかしだからといって、今後改革への取組を避け続けていたのでは、21世紀を勝ち抜く製造業には成れまい。何故ならあなた方は、私が指摘した数々の問題点(病気)を抱え、一刻も早く手を打たなければ(治療しなければ)、何れは取り返しの着かない重症患者に陥ることが必定だからだ。その悪さは、既に私の診断結果で明らかにされている。

景況が上向くことで、その悪さ加減が緩和されるかもしれないが、それはあくまでも周辺環境により、緩和されただけの話であり、自身の体力が強くなったわけではない。また景況が悪化したとき、上で述べた後発の強力なライバル達が間近に迫ってきたとき、今の皆さんの体力では、たちまち負け組に陥ることは必定だろう。敵は、これまで遭遇したことのない手強い相手のはずである。

このあたりを冷静に振り返り、少しでも余裕が出たときに、先に向けての体力強化、すなわち改革に真剣に取り組むべきだと、私は考える。


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私から提示した診断結果を受け入れようとしなかった製造業の皆さん。私は貴社の文化に染まらない且つ何の柵もない冷静な目で貴社の現状を見聞し、淡々とその問題点を掘り起こして、問題点と改革案を提示致しました。「俺たちはこんなに悪い状況にあるはずが無い!」「コンサル等という人種は仕事ほしさに大げさに悪さを挙げ募るのだよ!」などと報告会でさんざん罵倒頂きましたが、プロの目として決して読み違いはないはずです。ましてや仕事ほしさなど、私共の規模ではそんなに躍起になって仕事を確保する必要もありません。此処10年来殆どオーバーフロー状態で仕事をこなしておりますので。

私からの診断報告は、何の誇張もない私の素直な見解です。掛け値なしの皆さんの状況です。仮に皆さんが、皆さんと同じような状況にある他社に対する私の診断作業に同席して、私の出す見解を聞いたとき、100%は無くても9割方は私の見解に恐らく同意するはずです。今一度冷静に私の報告書を読み直し、今後どの様に進むべきかを良くお考えください。


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改革をスタートさせようとしたが、事業幹部が面従腹背の状態で、その計画段階で私から改革への取組中止を申し入れた製造業の皆さん。その日暮らしの辻褄合わせは巧くいっていますか?ツケが貯まりすぎてどこかで爆発するのではないでしょうか?

計画段階で私が中止を申し入れた理由は、その時点で十分にご説明したと思います。“稼げる事業改革”を実現するためには、事業に関わる全てのメンバーがそれぞれの意識を変えることから始まります。そして事業幹部が率先して改革を引っ張って行かない限り、改革への取組は途中で頓挫することは、必定です。

皆さん独自で私の指摘を受けての取組を行って居られるのであれば良いのですが、おそらくは、診断時点と変わらない状況のまま時計が止まって居るのではないでしょうか?

手遅れにならない内に、事業幹部の皆さんにご引退頂くか、しっかり説得して理解させ改革への着手をスタートすべきです。


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改革への取組を始めたが、関係者が一枚岩になれず、総論賛成各論反対で一向に取組が進まず、改革スタート1〜2年で私から改革中止を申し入れ、改革への取組が頓挫してしまった皆さん。

改革は受け身で臨んでは、巧く進みません。このケースの多くの場合、私からの要求に対して余りに受け身過ぎませんでしたか?皆さんが自発的に行動を起こして始めて改革は動きます。

また改革は、既成概念の殻を打ち砕くことから始まります。関係者の口から「家のやり方こうなんです」という発言が、論理的な根拠も示されず発せられる限り、改革は進みません。何故なら“家の常識”が世の中の非常識であることが、驚くほど多くの製造業に見受けられるからです。そしてこの既成概念が改革の障害になっているケースが私の経験では驚くほど多かった事実があります。私から発せられる、皆さんの常識から見たら突飛に思われる提案を、「非現実的だ!」の一言で、検討を行おうともせずに葬り去ろうとする姿勢も、既成概念の殻を打ち破ろうとする意思の無さの表れです。

さらに改革は、事業幹部自らが率先して、事業に関わる全メンバーが一丸となって改革に取り組まない限り、その改革は失敗に終わります。フロントローディング設計やクロスファンクションプロジェクト、設計思考展開(DPD)はあくまでも改革を手助・実現する手段や手法にしか過ぎません。改革が伴わないこれらの導入は、極めて効果が限られます。

皆さんのケースの場合、その多くが、改革を進めようとする一部の人たちが、屋根に上がってはしごを外された状態で、進むも引くもままならない状況に陥っていました。そして失敗の原因は、屋根に上がった人たちの力不足と私の指導不足だと責任転嫁されたと思います。だから私から中止の申し入れをしたわけですが。

“稼げる事業改革”を実現するためには、事業に関わる全てのメンバーが、既成概念の殻を打ち破ることも含め、それぞれの意識を変えることから始まります。そして事業幹部が率先して改革を引っ張って行かない限り、改革への取組は途中で頓挫することは、必定です。

皆さんの事業関係者や事業幹部は残念ながら、改革と口では唱える物、実態としては知らん顔を決め込んだり、改革とは異なるミッションを丸投げして、巧く進まない所を論っておりました。中には改革を潰すとまで言い切る一部事業幹部も居ったはずです。これでは改革失敗の道筋を歩む訳です。

その後皆さんは、恐らく中止時点と変わらない状況のまま時計が止まって居るとおもいます。手遅れにならない内に、事業幹部の皆さんにご引退頂くか、しっかり説得して理解させ改革への取組の再着手をスタートすべきです。