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「設計者の頭の中を整理する「設計思考展開」入門」

タイトル: 「設計者の頭の中を整理する『設計思考展開』入門」
著者: 有泉 徹
出版社: 日刊工業新聞社
価格: 2,310円(本体価格2,200円)

目次 前書き
   
■目次■
   
はじめに
   
第1章 設計者の頭の中を整理する
   
1 設計思考展開の必要性
   
(1) 並の設計者を戦力化
   
(2) 設計者の頭の中をのぞく手段
   
(3) 設計思考展開が生まれたきっかけ
   
2 設計の目的を漏れなく明確にして知恵を絞る
   
3 設計の自動化や技術継承ツール構築の基盤とする
   
4 設計思考展開の御利益
   
5 「フロントローディング設計」とは何か
   
(1) 「フロントローディング設計」の効果
   
(2) 「フロントローディング設計」の実例
   
6 「フロントローディング設計」実現への準備
   
(1) アプローチ1:現物から特性&傾向を読み取る→統計的手法(例:実験計画法)  
   
(2) アプローチ2:目的の機械を設計する設計者の設計思考を明確化し体系化する→DPD(設計思考展開)
   
(3) アプローチ3:目的の機械が持つメカ挙動を論理的に予測する→CAEなどのシミュレーション技術
   
7 設計思考展開は設計の目的を明確にする
   
8 設計思考展開が活用できる範囲
   
9 新しい発想を生み出す
   
第2章 漏れのない設計、先手をうった設計を行う
   
1 モデルチェンジ型商品開発
   
(1) 汎用機械製品のDPD活用例
   
(2) DPD活用の利点
   
2 設計意図を包括した設計標準
   
3 技術の棚卸し
   
(1) 急激に縮小したわが国製造業の基礎研究体制
   
(2) 技術の優位性をいかに確保するか
   
(3) 技術の棚卸しとは
   
4 業務の効率化のために設計思考展開を活用せよ
   
5 設計者の頭の中で思考展開
   
6 DPDの展開要領
   
7 部品レベルのDPD
   
第3章 新規投入型商品開発で新発想を生み出す手順
   
1 設計の目的・範囲・制約事項を明確に位置づける
   
2 設計の目的に対しての実現手段・現実要件の拾い出し
   
3 拾い出した実現手段・現実要件に対して、手段・要件の具体化
   
4 全要件、方式案が編み出せるレベルまでの、手段の具体化
   
5 機能要素ごとの具体的な方式考案
   
6 機能要素ごとの具体的な方式案のメリット・デメリット抽出
   
7 最適な組み合わせ方式案の選定と開発仕様の決定
   
第4章 モデルチェンジ型商品開発で的確な設計品質をモノにする手順
   
1 設計思考展開活用の流れ
   
(1) ニーズや問題点の事前予測
   
(2) モデルチェンジが他商品開発へのDPD適用の流れ
   
2 収集した情報の活用
   
(1) 徹底的にFSを行う
   
(2) DPDの活用で着実にFSを進める
   
(3) コストや生産性検証のFS
   
3 詳細設計段階の設計思考展開活用
   
(1) 漏れや誤りを犯さないためのDPD活用
   
(2) DPD活用の留意点
   
4 部品設計段階の設計思考展開活用
   
5 情報の収集・整理・分析の判断基準
   
(1) 情報の収集・整理・分析の判断基準
   
(2) 情報からの予測・把握
   
6 FS(フィジビリティスタディ)の流れ
   
(1) 押さえるべき仕様(計画仕様)の決定(DPD展開縦方向の要件抽出・押さえるべき仕様の網羅)
   
(2) 技術に関する吟味
   
(3) 利益を生む製造原価確保への確認・検討・考案
   
(4) QCDがバランス良く本当に作れる製品への確認・検討・考案
   
(5) 押さえるべき仕様(計画仕様)の吟味
   
7 対象商品のあるべき姿の追い込み
   
(1) 押さえるべき仕様(計画仕様)の確定
   
(2) 計画仕様に対する押さえ所およびメカニズムの確定
   
(3) 従来機種から仕様変更個所における実現策を考案
   
8 装置・サブAssy・部品単位の詳細設計仕様の確定
   
第5章 トラブルシューティング(問題解決)への設計思考展開適用
   
1 問題解決のためのアプローチへの活用
   
(1) 事故現状の把握段階
   
(2) 事故原因の究明段階
   
(3) 推定原因の裏付け
   
2 事故原因の振り分けと対策担当決定
   
3 設計思考展開のルールやポイント
「設計者の頭の中を整理する『設計思考展開』入門」
■はじめに■

企業組織としての製造業の存在意義は、社会正義に反することなく、適正な利益を上げ、株主に適正な配当を行う事にある。当然、利益を上げるために身を粉にして働く従業員に対しても、応分の還元(分け前)がなされなければならない。また、企業活動を行っていく上で、協調関係にある社会への適正還元も忘れてはならない。

ゆえに、これらの責務を果たすために製造業は、“旬でよく売れる商品”を常に開発し、市場投入を行い、市場から正当な利潤を上げ、株主・従業員・社会への適正還元を行ない続ける必要がある。

要するに、これからの我が国製造業は、全世界の顧客ニーズにマッチした、安全で高品質かつ適正価格の製品を、より短期間且つ低コストに開発できる実力を持ち、常に安定した商品開発と製品供給を行なうことが、その使命である。その結果、我が国製造業が潤い、株主が潤い、従業員が潤い、関係者が潤い、国民全体が潤う構図が、我が国製造業が担うべき究極の社会的使命である。

世界の工場と言われ、飛ぶ鳥をも落とす勢いだった1970年代から80年前半にかけての我が国製造業は、すぐにでも、このゴールに到達できそうな勢いであったが、バブル崩壊と共に儚くもこの期待は霧散した。

社会が安定し、“ハングリー精神”なる言葉が過去の遺物と化した20年ほど前から、モノ作り現場を避ける若者たちが増加傾向にある。増加傾向どころか製造業にとっては、壊滅的な人材供給難に直面している。そしてこの様な現状におかれた、我が国製造業の基盤を支える人々は、物作り現場の崩壊が遠からず訪れるのでは無いかと言う危機感さえをも常に強く抱いている。

豊富に人材供給がされていたかつての商品開発現場は、その組織の中の数%にしか過ぎない“スーパーエンジニア”達に全てを託してきた。直感と感性に全てを委ねても、優秀な“スーパーエンジニア”達は、“旬でよく売る商品”の関門をクリアー出来ていたのだ。

しかし、物作り現場を避ける若者たちが増え、バブル崩壊で強まったベテランエンジニアに対する迫害とも言える理不尽な仕打ちの数々は、製造業が“旬でよく売れる商品”を常に開発し続けるためには、極めて厳しい状況を生み出した。すなわち、直感と感性で“旬でよく売る商品”を生み出せる“スーパーエンジニア”が急激に減少してしまったのである。

“スーパーエンジニア”が減少すると何が問題かだが、その答えは明白だ。例えば筆者が提唱するフロントローディング設計を行なう場面でも、頭の整理されたエンジニアなら、即ち“スーパーエンジニア”なら、筆者が要求するような面倒くさい手順を踏まなくても、その経験則で起こるであろう問題点を事前予測して、的確に手だてを打った商品開発が出来る。要するに“スーパーエンジニア”なら、開発過程で起こるであろう多くのリスクを事前予測し、問題が起こる前に回避して、“旬でよく売れる商品”開発に結びつけることが出来た。

では新しい人材の確保も難しく、ベテランの“スーパーエンジニア”は減ってしまった製造業が何をすればよいのかであるが、その答えは明白だ。

未だ終身雇用の文化が残る我が国では、ヘッドハンティングなどを用いた外部人材の取り込みは、巷で語られるほど簡単な話ではない。人材そのものが不足している現状から容易に人材確保できない上に、せっかく確保した人材が生え抜きの古株社員に潰されてしまう問題があるからだ。

そうすると既有エンジニアの有効活用しかないと言う結論になる。しかし彼らには、“スーパーエンジニア”の様な能力がないと言う矛盾が立ちはだかる。

そして本書で紹介する設計思考展開(DPD)は、このような並のエンジニアに、“スーパーエンジニア”に勝る役割を果たしてもらおうと言う手法だ。これまでは、重要な役割を担わすには難のあった設計者達を、有効な戦力として活用でき、その設計組織を、“旬でよく売れる商品”を常に開発できる設計組織に変革させる手法である。

(2005年初夏 筆者)
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