CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所



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「商品設計者のための『射出成形金型入門』」

タイトル: 「商品設計者のための『射出成形金型入門』」
著者: 有泉 徹
出版社: 日刊工業新聞社
価格: 2,310円(本体価格2,200円)

目次 前書き
   
■目次■
   
はじめに
   
第1章 プラスチック入門
   
1.1 プラスチック成形とは
   
1.1.1 生活をとりまくプラスチック製品
   
1.1.2 プラスチックの歴史
   
1.2 プラスチックとは
   
1.2.1 プラスチックの原材料
   
1.2.2 プラスチックの化学構造
   
1.2.3 高分子化合物はどのように作られるか
   
1.2.4 熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂
   
1.2.5 結晶性樹脂と非結晶性樹脂
   
1.3 プラスチック成型法の種類
   
第2章 射出成形のメカニズム
   
2.1 商品設計者と射出成形金型
   
2.1.1 きわめて簡単な射出成形の原理
   
2.1.2 射出成形の正否をにぎる金型
   
2.1.3 金型メーカーの納期・価格は適正か
   
2.1.4 商品設計者が知っておくべき知識とは
   
2.2 射出成形の工程
   
2.2.1 成形が行われるメカニズム
   
(1)型締め工程
   
(2)樹脂の流し込み
   
2.2.2 樹脂が流れる仕組み
   
第3章 射出成形金型の仕組み
   
3.1 射出成形金型の基本構造
   
3.1.1 成形品を抜きやすくする
   
(1)アンダーカット処理
   
(2)抜き勾配
   
(3)商品設計と金型設計の間におこるジレンマ
   
3.1.2 商品設計者自身がパーティング面を想定して部品設計を行え!
   
3.2 金型の種類
   
3.2.1 2プレート金型
   
3.2.2 3プレート金型
   
3.2.3 スプルーレス金型
   
3.3 射出成形金型を構成する重要な部位と機構
   
3.3.1 ゲートの種類とその特徴
   
(1)ジェッティング
   
(2)フローマーク
   
3.3.2 成形品の押出し(ノックアウト)方法
   
3.3.3 金型冷却
   
3.3.4 金型の入れ子構造
   
3.3.5 多数個取り
   
第4章 射出成形金型はどのような流れで作られるか
   
4.1 金型設計の流れ
   
4.1.1 仕様確認・構想設計
   
4.1.2 適合スペースの選択(金型概略構造の決定)
   
4.1.3 金型細部構造の決定
   
4.1.4 スライド構造の決定
   
4.1.5 押出し方式の決定
   
4.1.6 冷却経路の決定
   
4.1.7 金型全体の調整
   
4.1.8 金型設計終了最終確認
   
4.2 金型製作の流れ
   
4.2.1 CAMデータ生成
   
4.2.2 材料手配・標準部品手配
   
4.2.3 金型ベース部加工
   
4.2.4 粗加工
   
4.2.5 仕上げ加工(機械加工)
   
4.2.6 仕上げ加工(放電加工)
   
4.2.7 仕上げ作業(磨き加工・手作業)
   
4.2.8 金型検査(測定)
   
4.2.9 組立
   
4.2.10 トライ
   
第5章 品質の良い成形品をより早く作るための条件
   
5.1 商品設計者と金型メーカーの関係
   
5.2 射出成形品の品質と開発期間を支配する3つの要素
   
(1)成形品の設計内容の検証と金型開発の効率化
   
(2)成型材料の選択
   
(3)成形機の選択
   
5.2.1 成形条件の考え方
   
5.3 成形品の設計内容を徹底検証する
   
5.3.1 DPD(設計思考展開)により設計意図を明確化する
   
5.3.2 必要以上に複雑な金型にならないようにする
   
5.3.3 DPDの使い方
   
第6章 金型が作りやすい商品設計とは何か
   
6.1 フロントローディング設計と設計目的の明確化
   
6.1.1 設計の手戻りを根絶する
   
(1)”甘い詰め”による手戻りへの対処
   
(2)”的はずれ”による手戻りへの対処
   
(3)”モグラたたき”として現れる手戻りへの対処
   
6.2 樹脂製品設計において”設計の目的”を明確にしなければならない理由
   
6.2.1 設計目的を明確化しないと何が起るか
   
6.2.2 金型設計者との意思の疎通をはかる
   
6.2.3 筐体やフレーム部分の金型開発期間の大幅短縮例
   
6.3 なぜ商品設計者が金型に配慮した設計をしなければならないのか
   
6.4 金型に配慮した商品設計とは何か
   
6.4.1 商品(成形部品)設計側からみておさえておくべきポイント
   
(1)成形部品の用途・要件を明確化する
   
(2)成形部品の出来上がり寸法を確保する
   
(3)成形部品の出来上がり強度を確保する
   
(4)成形部品の出来上がり外観を確保する
   
6.4.2 金型が要求される基本性能に配慮する
   
(1)樹脂の流れやすい形状とする
   
(2)金型の耐久性に配慮する
   
6.5 いかに成形部品のコストを下げるか
   
6.5.1 金型部品点数を極力削減する
   
6.5.2 できる限りの形状単純化
   
6.5.3 アンダーカットを極力削減する
   
6.5.4 2次加工工程を極力削減する
   
6.5.5 インサート構造を極力削減する
   
第7章 よりよい成形品を得るために
   
7.1 金型と成形品の寸法
   
7.1.1 実際の成形品変形例
   
(1)収縮率が一様な箱型形状
   
(2)収縮率が一様でない箱型形状(一部の厚みが異なる)
   
7.2 抜き勾配の目的と効果
   
7.2.1 抜き勾配の役割
   
7.2.2 商品設計時における抜き勾配の付け方
   
7.3 成形欠陥を未然に防ぐ
   
7.3.1 そりを防ぐ
   
(1)積極的なそり対策
   
(2)消極的なそり対策
   
7.3.2 ひけ・ボイドを防ぐ
   
コラム 肉厚形状とひけ・ボイド
   
(1)商品設計段階でひけを事前に防ぐには
   
(2)充填不良を防ぐ
   
(3)より理論的に樹脂の流れを検証しよう
   
7.3.3 バリ・ウエルドラインを防ぐ
   
(1)バリ発生のメカニズムと設計上の注意点
   
(2)ウエルドライン発生のメカニズムと設計上の注意点
   
7.3.4 その他の不良に対する設計側のアクション
   
復習問題回答
「商品設計者のための『射出成形金型入門』」
はじめに ――― なぜ設計者が射出成形金型を知らなければならないのか

昨今の工業製品にはあらゆる箇所に樹脂部品が使われている。安定した大量生産が可能なこと、金属部品に比べその加工が割安なこと、複数の部品を一体化した構造が作りやすいこと、軽いことなど数々の利点があり、ここ20年の間に驚くほどその利用個所が増えてきた。そしてその樹脂部品を作成するには、何らかの成形という加工工程が伴い、その樹脂の種類や用途により多様な成形方法がある。

現在、世の中で最も用いられている樹脂に、熱可塑性樹脂と呼ばれる部類の樹脂がある。熱を加えると溶融し、冷やすと固まる性格をもつ樹脂である。大きいものでは車のバンパーやインスツルメント・パネル(インパネ)に始まり、テレビなど家電製品の筐体、小さいものでは携帯電話の筐体まで、さまざまな機構部品に用いられている種類の樹脂である。また、その樹脂素材の機械的特性は車のバンパーなどのように柔らかいものや、日用品に用いられる比較的もろいものから、機構部品や軸受けなどに用いられる金属材料にも代替されるものまで、きわめて広い範囲をこの熱可塑性樹脂はカバーしている。

そして、ほとんどの熱可塑性樹脂製品(部品)は、射出成形と呼ばれる成形方法を用い成形される。ペレット状の樹脂素材を熱で溶融し、それに圧力をかけて金型の中に射出注入し、冷やして固まったところを金型の中から取り出す成形方法である。

ところが、この射出成形という加工法は案外むずかしい加工方法で、これまで多くの設計者や成形技術者を悩ませてきた。たとえば樹脂を射出注入する圧力が十分でないと、樹脂が金型の中を十分にまわりきれずに中途半端な不良品しか取り出せないようなことが起こる。また、射出注入する圧力が妥当でも、金型中の樹脂のまわり方が悪いと、流れの先端部分が固まり始めた状態で、複数の流れが出会うような状況が起こる事がある。これが「ウエルドライン」と呼ばれる、樹脂同士がしっかりと結びつかない欠陥個所(強度的に極めて弱い部分)である。また樹脂部品の形状が複雑に入り組み、極めて薄い板厚や厚い板厚が不規則に入り交じっているような状態では、樹脂が十分に流れない現象、ウエルドラインの発生、さらにはそりやひけなどの成形欠陥が複合して現れることになる。

通常、樹脂部品を用いた新商品開発においては、試作金型を作成し試作評価用の部品確保を図る。最近では3次元CADデータを基にキャビティ・コア部分(固定型・可動型)を直接切削加工してきわめて短い期間に試作金型を調達するケースも出てきた。3次元CADで製品形状ができているため、抜き勾配やアンダーカットの処理だけしてやれば、容易にキャビティ・コア用NC切削データが生成できるからだ。

ところが、このような取組みを行ったとき、従来だと試作型設計段階で必ずチェックなされていた、金型設計者や成形技術者の製品形状に対するチェックが入らない場合が出てくる。これまでだと板厚のバランスが悪くて流れにくい製品形状や、ウエルドラインの出やすい形状などは、前もってこれらの技術者から指摘され、試作金型段階で製品形状への折り込みが少なからず出来た。このようなチェックが無くなった場面では、試作金型段階で充填不良が出たり、致命的なウエルドラインが出たりするといった新たな問題が生じるようになってきたのである。

また、このような取り組を行っていない場合で、同じような問題が起きているケースがある。金型設計者や成形技術者の意識低下と技術力低下によるものだ。長引く不況による成形メーカや金型メーカの体力低下もその大きな原因であろうが、一部のこれら技術者のスキル低下は目を覆いたくなるものがある。10年前に計測したファーストトライ時の指摘不具合件数に比べ、昨今の指摘不具合件数が一桁増加してしまっている例さえ最近見かけた。

このような状況下で、樹脂部品を用いた商品開発を行っている設計者が選択しなければならない道は自ずと見えてくる。従来だと、金型設計者や成形技術者に頼っていた試作型設計段階での製品形状に対するチェックを、自らの手で行うことである。より効率の良い商品開発をめざしたとき、より滞りの無い商品開発をめざしたとき、商品開発設計者自身がその商品形状を決める段階で、その成形性までをも十分に考慮した設計を行わなければならないということである。

そして、これらの必要性に迫られた設計者達は、自分自信でプラスチック成形に関する知識を学び、自身の設計に役立てようと思い立つ。しかしここで、また一つの大きな壁に突き当たることになる。射出成形や金型に関して記された書籍・資料類はそのほとんどが金型設計者や射出成形技術者向けに書かれたもので、商品設計者に取って必要な情報を、必ずしも十分に得られる代物ではなかった。

そこで本書では、筆者が20年以上にわたって、数多くの樹脂成形に関わる製造業におけるコンサルティングを通じて得た経験をもとに、基本的な金型設計や成形技術の経験をもたない商品設計者が、これらの問題に対処するために必要な、最低限のプラスチック成形に関する知識や設計アプローチ方法を、商品設計者の立場から解説する。

より良い商品開発を実現しようとする過程では、より真剣に、開発の短期間化、高品質化をめざせばめざすほど、金型設計者や成形技術者達との激しい議論は避けて通れない。金型に関する十分な知識がなければ、この様な場面で金型技術者や成形技術者との対等の議論はできない。したがって、彼らと対等に渡り合うためには、十分に太刀打ちできるレベルでの、理論的根拠に基づいた金型や成形技術に関する知識が必須となる。

本書ではこの様な場面で、商品設計者が理論武装を行うための知識の供給も意図している。そのため、本書を金型設計の入門書的な意味合いでご覧頂く読者には、必ずしも平易とはいえない部分があることを了承頂きたい。

2003年10月 筆者
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