昨今、機械系CAD/CAM/CAEの世界では、3次元設計という言葉がいろいろの意味で使われ、異なる立場の人達がそれぞれ自分の都合のよいように解釈をしながら、大きな期待を持ち、数々の模索を行っている。
一方、米国系企業を中心としたCAD開発会社はコンカレントエンジニアリングなどのニューテクノロジー? を謳い文句に積極的なビジネスを仕掛けている。
本書では21世紀を目指した製品開発、製品設計のあり方と、そのために必要となる道具として本当は何が必要なのか、「21世紀を目指した設計の改革」と「何故今3次元CADへの取組みが必要なのか?」を、筆者が数年かけて先進的な大手製造業とともに行ってきた3次元化への取組みの成功事例、失敗事例などを踏まえながら述べていく。
本論に入る前に、本書の全体構成について述べる。
まず、3次元設計を考えるうえで必要になる四つのキーポイントについて明確にする。
第一に、多種多様な製造業において、多種多様な製品開発を行う道具として今やいずれの製造業においても2次元CADは必要不可欠なものであるということである。しかし、たとえ同じ道具を使っていたとしても、対象になる製品の複雑さや、設計アプローチの違いでその使われ方は異なり、またその設計プロセスのどの部分を担うかでもCADに対する期待度や役割が異なってくる。
1章の1節では、その辺りをまず明確にしたい。
第二に、CAD有効活用を考える上で、コンピュータの進化を無視することはできない。コンピュータの進化と併せて、それに付随する形でCAD/CAM/CAEの技術も進化してきた。CAD/CAM/CAEの技術がどのように変わってきたのかという歴史的な流れと事実を知ることは、これからのCAD/CAM/CAEがとのように発展していくかを予測するうえで重要である。
1章の2節ではその辺りをCAD/CAM/CAEを核に、その周辺における技術の進化がどうであったかを振り返る。
第三は、同様に設計手法という視点から歴史を振り返ってみる。
1章の3節では、古くは古代建造物に代表される古代文明からルネッサンス、産業革命を経て現在までの技術の進化と設計支援ツールの変遷がどうであったかを2000年代の予測を含め振り返ってみる。
第四に、今までは当たり前になっている2次元CADであるが、その誕生と実用化は設計業務に大きな変化をもたらし、その生産性向上に大きく寄与したと言われている。しかしその2次元CADにもいろいろと問題は残っており、これが今巻き起こっている3次元CADブームのきっかけとなっている。できないものは仕方がないと問題視していないむきもあるようだが、問題は山積みしており1章の4節ではこれらの問題点の把握を行う。
特に4節では若い優秀なエンジニアの供給不足と技術継承の断絶という問題を踏まえ、少ない人材供給の中でいかに効率よく製品開発を行うかという観点での2次元CADの分析を行う。
1章の5節では、以上四つのキーポイントを踏まえ何故3次元CADが必要なのか、21世紀を目指した設計の改革はいかにあるべきかの提案を行う。
次に2章ではCAD/CAM/CAEの世界で何が変わろうとしているのか、ということを三つの側面でとらえてみた。
一番目として2章の1節では、CADの素性に注目する。
毎年、日刊工業新聞社が年初にCAD/CAM/CAEの導入調査をしており、今年も2月にその調査結果が出ている。その導入ランキングでいろいろなCADが挙がっているが、そのデータを使いそれぞれのCADがどのような目的で誕生し、どのような変遷を経て、今どのような状態にあるかを具体的な商品名を挙げながら紹介する。
二番目として2章の2節では、実際にCAD/CAMを使っているユーザーの立場から、どのような考え方で新しいCAD/CAMにチャレンジしているかを紹介する。
ただし、筆者は技術士という仕事柄で守秘義務を課せられており、また顧客との契約項目にも厳重な守秘義務が記されているため、筆者が直接顧客に行った3次元CAD活用コンサルティングの具体例をご紹介するわけにはいかない。しかし、顧客以外で3次元CAD活用へのアプローチがかなり進んでいると思われる製造業において公にされた話があり、この話2件を基に筆者の経験を解説として織り込みながら具体例として取り上げる。
三番目として2章の3節では、CAD/CAMのソフトウェアを提供する側、作る側はどのような観点でそのCADを作っているのかという話を紹介する。これから既存のCADを見直すというときに、そのCADの将来性を判断するための情報として役立つ話になろう。
3章は製造業が3次元CAD実用化にあたり、今何に取り組めば良いのかという具体的方法について説明する。
米国系の3次元CADの開発元は、コンカレントエンジニアリングとデザインオートメーションをそのセールステーマとして3次元CAD販売展開をしている。「自分たちの商品だけがコンカレントエンジニアリングを実現する本当のCADツールです…」「自分たちの商品だけがデザインオートメーションを実現する本当のCADツールです…」という売り方をしている。
これに乗せられ新しい設計システムの導入としてのコンカレント開発や、コンカレントエンジニアリングを実現するツールとして3次元CADを位置付けている製造業を多く見かける。
また無謀にも、設計の自動化に積極的にチャレンジする製造業も多くはないが、存在する。筆者は長い目で見た時、これらの取組みは決して無駄な、無謀な取組みとは考えないが、発展途上期にある現状の3次元CADに多くを期待することの難しさがあり、冷静に現実を踏まえながらのチャレンジが必須であると考える。
3章の1節〜3節では筆者が経験したこの辺りの問題点と対応について、3つのケースに分けて紹介をする。
3章の4節では、具体的に3次元CADに実用化を展開していく中で、筆者が行った設計プロセスの改革や、うまく使わせる、あるいは無理やり使わせる手段を紹介する。
“3次元CADは役立つ”“良いものである”だから使わなければならないと分かっても、環境が整わなければ使う側(設計者)には使ってもらえない。3章の5節では使い易く、旨く使える環境作りの例を紹介する。
3次元CADの導入活用を始めたときに、既存の2次元CADとの住み分け、分担の問題が必ず発生する。3章の6節では、この辺りの問題に関して筆者が持つガイドラインを紹介する。
このページのトップへ