■目次■
第1章 わが国の製造業にとってなぜ今コンカレントエンジニアリングが必要なのか
1−1 何故コンカレントエンジニアリング
相変わらず厳しい環境が続く製造業
商品開発力強化の決め手
インフラから入る悪しき体質
コンカレントエンジニアリングと3次元CAD
既に効果を出し始めたコンカレント設計導入
今更コンカレント設計は不要でもコンカレント設計に
コンカレント設計により目に見えた効果
コンカレント設計をデータ管理面から支えるPDM
米国流コンカレントエンジニアリングによる設計の流れ
1−2 コンカレントエンジニアリングの誕生
苦境に陥った米国製造業
シークエンジニアリングの問題点
質の高さを誇った米国製造業のマニュアルだったが
筆者自身が体験した米国製造業の技術
技術の高さと裏腹にお粗末な物作り
1−3 わが国には昔からあったコンカレントエンジニアリング
1−4 TQCに代わる製品開発部署の新しい物差し
わが国のTQCがコンカレントエンジニアリングのルーツ
そしてTQC離れ
TQCに代わる新しい物差し
1−5 メンバーの質が左右するコンカレント設計実現
自己完結できる技術力が要件
コンカレント設計実現に必要な設計者の間の”和”
日本流コンカレント設計はどのようにして巧く流れたか
個人ベースが強い米国流コンカレントエンジニアリング
コンカレントエンジニアリングに合わせ進化する3次元CAD、PDM
1−6 米国におけるコンカレントエンジニアリングの捉え方
第2章 コンカレントエンジニアリングを強力にバックアップするCAEやEOA
2−1 コンカレント設計を担う設計者の必要条件
一人でも不的確な設計者がいると巧く行かないコンカレント設計
2−2 優秀な設計者をより効率よく活躍させる道具とは
優秀な設計者の無駄な時間を潰そう
2−3 より短く、より高く、より安くをかなえるCAEシミュレーションツール
わが国でのCAEの始まり
CAEの活用効果と注意点
2−4 CAEツールは”両刃の剣”使い方を誤ると…
拘束条件が僅かに違うだけでこれだけ答えが違う
道具の本質を知らずして漫然と使うな
2−5 CAEはよく切れる”ハサミ”
設計の品質と設計者の生産性を画期的に上げる
先送り・モグラ叩きの無い、前倒しの設計サイクル
高度な解析手法も設計ツールとして利用出来る環境
2−6 膨大な技術資料・報告文書作成工数低減に向け
技術資料作成や報告文書作成などの工数もポイント
パソコン・電子メールで減らないその工数
相変わらず手間のかかる文書探し
2−7 すべての始まり”形”は3次元
データの一元化も重要
コミュニケーションツールとしての3次元CAD
第3章 設計の自動化ツールから、コンカレント設計を実現するツールに変貌した3次元CAD
3−1 チーム設計に必要なコミュニケーションツール
共通の認識で初めて出来る問題探索・ディスカッション
3−2 重複した単純作業排除による効率のよいチーム設計
設計データの一貫性を実現する3次元CAD
3−3 3次元CADブームの落とし穴
何のために3次元CADを導入するのかがあやふや
2次元とは違う3次元CAD導入
極めて甘い3次元CAD導入計画
3−4 CAMツールとしての3次元CADとの混同
コンカレント設計で使う3次元CADはCAMツールではない
2次元データを3次元に変換するプログラムは合理的ではない
3次元CADの選択基準は設計の道具としての使いやすさ
3−5 明確な目的を持った3次元CAD導入でコンカレント設計実現へ
データの一貫性が持つメリット
もっと変わって欲しい3次元CAD
今の3次元CADではまだだめだ
3−6 とは言っても3次元CADが役立つ場面は?
コンカレント設計に3次元CADは必要なのだが
3次元CADを導入しても効果が期待出来ない又は障害になる製品
第4章 コンカレントエンジニアリングを促進させるラピッドプロトタイピング
4−1 すぐ手に取ってみられる設計イメージ
4−2 机上の試行錯誤を実態として認識
4−3 鋳物試作の大幅期間短縮へ
4−4 実用試験までへの適応を可能とする切削型ラピットプロトタイピング
第5章 コンカレントエンジニアリング効率を向上させる管理手段PDM
5−1 設計本位でなかった設計の情報化
設計を取り巻くこれまでの情報管理
設計に必要な情報とは
PDMの構築
緊密な情報共有と重複した作業排除で必須となるPDM
設計にとって都合の良い管理システムを
あくまでも設計者達の使いやすさを最優先に
簡単にインターフェイスで結べるERP(EnterpriseResourcePlanning)
インフラ先行では巧く行かない製品開発部署の高度情報化
ERPからPDMでは迷惑なだけの設計者
5−2 コンカレント設計の為のPDMシステム構築時の注意点
注意点1:PDMの目的を明確に
注意点2:PDM構築は製品開発の都合を最優先
注意点3:PDMはあくまでもコンカレント設計を実現するための道具
5−3 技術情報有効活用設計付帯業務効率化も含めたPDM構築を
忘れてはならない技術情報有効活用
イントラネットを用いた、技術情報管理・検索・閲覧・情報交換システムの提案
第6章 コンカレント設計実現に向けての環境整備
6−1 コンカレント設計の実状
6−2 導入の必要性を確実に把握
筆者の行った現状診断の例
突然降って湧いた「コンカレントエンジニアリング」の導入
短絡的に結びつけられた”手戻り”=”コンカレント設計”が必要
原因は客先とのコミュニケーションミス
3次元を用いたプレゼンテーションで的確な意思の疎通を
予期せぬ副産物的効果
6−3 物まね横並びは通用しないコンカレント設計導入
他社の成功事例は不十分な情報開示と思え
他社事例はくせ者であることを知れ
6−4 扱う製品・企業文化で異なるコンカレント設計展開
コンカレント設計はあくまでも手法、公式ではない
6−5 計画立案に不可欠な突っ込んだ現状確認
彼方此方で始めようとするおかしなコンカレント設計
コンカレント設計の当事者はそれが決まるまでは聾桟敷
コンカレント設計はあくまで開発部門の都合に重点を置いて
きっかけは何であれ本質的な設計業務の改革へ
6−6 設計初期段階での充実した質の高い設計を
仮想試験・仮想試作質により"モグラ叩きのない設計"と"手戻りのない設計"を実現
TQCの良き文化が残る製造業は3次元CADなどの活用手法との割り切ったコンカレント設計もある
6−7 設計業務の改革には突っ込んだ現状確認が必須
6−8 計画立案に不可欠な人的資源の冷静な把握
6−9 その他環境整備における注意点
まとめ
「コンカレントエンジニアリングによる設計の改革術」
はじめに
平成に入り、バブル経済が崩壊しようとしている頃、コンカレントエンジニアリングという言葉が巷に聞こえ始めた。しかしまだバブル景気の名残に浸っていた製造業は、これらの動きに深く興味を示すこともなく、わずかに設計工学などを専門とする研究者たちがこれらに関する米国の書物を翻訳し、学会などに発表する程度であったと記憶する。
ところがバブルがはじけ、景気が下り坂を一気に転げ落ち始めると、それまであまり省みられることのなかった製品開発部署の生産性向上の切り札として、この新しい手法? に飛びついた製造業は少なくなかった。しかし、この新しい手法“コンカレントエンジニアリング”は、そのプロジェクトに加わる設計者たちに極めて高い資質を要求していた。このため、その設計形態だけを同時進行の形に直してもどうにもならない場合が少なくなかった。設計者間のコミュニケーションが巧くいかなかったり、滞りの原因を彼方此方でつくる設計者がいたりで、なかなかその成果が出てこなかったのである。
また当時は、少し規模の大きな書店に行くと、どこの書店でも目のつきやすいところに「コンカレント」の文字が並んでいた。しかし、どこでもなかなか巧くいかない「コンカレントエンジニアリング」はすぐ飽きられてしまったようだ。昨今では、「コンカレント」の文字を見かけることも少なくなったのではなかろうか。
筆者は、1996年、日刊工業新聞社が当時発行していた会員雑誌“CALS NEWS”に、全6回の連載で「コンカレントエンジニアリングのすすめ」と題しての寄稿を行った。その時点までに、筆者が取り組んだコンカレント設計実現への思い・考え方・失敗談・成功談や注意事項などをまとめたものである。しかし、マイナーな雑誌であったこともあり、その反響も大したことはなかった。
それから4年、相変わらず製造業のおかれた環境は厳しいままだが、筆者が手がける幾つもの「設計改革」は、定量的な成果を示し始めた。「コンカレント設計」を軸においた「設計改革」は、極めて大きな成果を残し始め、その商品開発期間を半減、いやそれ以上にさせた例もある。また開発工数の半減や大幅な設計品質の向上にも幾つもの成功例を残した。
ここ2年ほどは、各種雑誌でこれらの成果の一部を断片的に紹介してきた。しかし、これらで紹介した情報は、雑誌の紙面の制約もあり、断片的で舌足らずな情報である。これから「コンカレント設計」に取り組もうとする人達への情報提供としてはあまりにも途切れ途切れであり、また少なすぎる。
幸いにして、筆者が経営する技術士事務所の1999年度の売り上げは、前半で例年度の売り上げを達成してしまった。この余裕もあり、ここで一念発起して本書をまとめることにした。
本書が、これから「コンカレント設計」や、CAD/CAM/CAEなどの設計支援ツールを活用し、その「設計改革」を実現しようと積極的なチャレンジを試みる読者諸氏の参考書として役立てば幸いである。
平成12年1月24日付け朝日新聞夕刊の経済面コラム13面「経済気象台」に、「グローバル化とは、日本化のことだ」という一文が載った。まさに筆者が本書で述べている1980年代の日本企業の状況と、いまの状況を端的に述べている。
一方、本書の中で筆者は、一般的に製造業のグローバル化だと思われているコンカレントエンジニアリングの導入活用は、決して欧米勝ち組企業に倣うのではなく、1980年代の日本企業の姿勢に戻るだけの話だということを盛んに語っている。まさに、先に紹介した一文と相通ずるところである。
2000年5月 筆者
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