■目次■
はじめに
第1章 本当のCAEとは
1−1 CAEの誕生とその進化
有限要素プログラムの進化
その他CAEプログラムの誕生
わが国の製造業におけるCAEツール活用の歴史
1−2 CAEを取り巻く設計ツールの変化
2次元CADの進化
新しい3次元CADの誕生
1−3 CAEを取り巻くコンピュータ環境の変化
1−4 仮想試作・仮想実験実現を目指したCAE
CAEが提唱されたばかりの頃
CAEの活用効果と注意点
1−5 昔から行われていた仮想試験・仮想試作
構想設計作業の中身
知らずに行われてきた仮想試作・仮想試験
1−6 今もその文化は生き続けているのか
設計をしていない設計者
1−7 解析技術者のために特化されてしまったCAE
CAE利用の現実は
CAEが敬遠されたわけ
第2章 CAEは設計に役立っているのか
2−1 CAEの役立ち度合い
役に立っているのはたったの5%
ある程度使えているのは如何ほどか
8年前から進歩はあったのか?
2−2 巧く使われている例1…成功パターン1
・・電卓や表計算と同等に使いこなされているCAE
”考え”、”描き”、”見て”、”判断する”道具として
究極の割り切りが使いこなしの”こつ”
必要とあれば高度な解析まで使いこなす設計者
設計者を的確且つタイムリーに支援する体制
2−3 巧く使われている例2…成功パターン2
・・タイムリーな設計判断ツールとして活用されるCAE
設計者と解析技術者が完全協調でCAE活用
未知の世界に1人で放り込まれた解析技術者
元解析技術者はプロジェクトリーダーの”電卓代わり”?
元解析技術者への評価もプロジェクトの成果次第
設計プロジェクト専任の解析技術者ではだめ
2−4 巧く使われている例3…成功パターン3
・・設計の基幹ツールとして位置づけられたCAE
ルールで強制したCAE利用
新入社員時に厳しいCAE教育を実施
2−5 巧く使えていない例1…失敗パターン1
・・大枚を投じてCAEツールを拡充してきたのだけれど
未だにおおらかな会社もある
追究すべき精度と、見逃しの比率はトレードオフの関係
”精度””精度”と馬鹿の一つ覚えでわめく設計者は即刻クビに
設計で必要な”当たりを付ける解析”
荷重や拘束などの条件は厳密に…おかしな輩に騙されるな
”設計者が解らない言葉”を喋り”設計の言葉”を理解出来ない人種
自分達では使いたくても使えない諦め
しかし多くは構造改革に取り組んだ
2−6 巧く使えていない例2…失敗パターン2
・・これまでのCAE活用方法は間違っていたのでは?
パラメトリック化された解析支援ツールは設計の道具ではない
パラメトリック解析支援ツールを用いた自動設計は時代遅れ?
設計で構造解析のきっかけをを作ったRASNA
インフラ先行では巧く行かないCAE活用
設計でMechanicaを使う時の注意点
2−7 2章の纏め
巧く使えている例の1番目
巧く使えている例の2番目
巧く使えている例の3番目
巧く活用出来ている評価パーセンテージでのそれぞれの割合
第3章 設計者にとってのCAEとは
3−1 設計者が駆使する3つのモデル
設計のモデルとは
試作・実験のモデルとは
解析のモデルとは
初歩的な解析のモデル
筆者の言う解析のモデル
CAEは腕の良い設計者が駆使してきた解析のモデルと同じ
”考える”、”描く”、”見る”、”調べる”、”判断する”…のサークル
経験の浅い製品開発ほど”調べる””判断する”は必要
たかがCAEツールを使いこなせない訳がない
3−2 設計者にとってのCAEとは
設計初期段階の解析モデル
短時間に目的に即した精度で結果を得られることが必須要件
3−3 構想設計段階でCAE活用を成功させるには
何のために3次元CADを導入するのかがあやふや
本筋で述べる設計者の対象範囲
構想設計者の役割
構想設計者に求められる要件
構想設計者の行動
攻めの活用”解析主導型製品開発”
あらゆる問題を事前に予測
CAEを用いて”充分な確認”を
CAEを使いこなすには、その割り切りがポイント
諸悪の根元は「後で手直しをすれば良い」
3−4 構想設計段階でCAEを成功するには
ポイント1 ”レスポンスの早さ”
ポイント2 ”信頼性の高い結果”
ポイント3 ”容易に使える”
ポイント4 ”的確なアドバイスを受けられる環境”
解析アルゴリズム側からの解りやすいフォローも重要
ポイント5 ”利用環境の整備”−オペレータを使うのもその使い方次第ではOK
ポイント6 ”解析モデルを検証する手段の確立”
ポイント7 ”解析インフラストラクチャの整備”
余裕を持ったハード台数・ハード性能
ポイント8 ”高度な数値シミュレーションも設計者自身で”
高度な数値シミュレーションツールも使いやすくなった
3−5 構想設計段階でCAEが使いこなせる設計者の要件
必ずしも、設計者全てがCAEツールを使いこなす必要はない
要件1 ”自分自身でモデル化が出来る設計者”
要件2 ”その為に必要な教育体制”
要件3 ”自分自身で結果の評価が出来る事”
第4章 究極の設計品質向上・開発リードタイム短縮を目指して
4−1 ”仮想試作”・”仮想試験”の実現へ
4−2 良い設計はなぜ出来る
柔軟な発想に基づく商品開発を
自分の扱っている製品をよく知っているか?
今の設計者は本当に設計をしているのか?
CAD導入で途絶えてしまった技術継承の機会
柔軟な発想や新しい着想ができそれが具体化出来る能力
”良い設計”は企業としての総合力
4−3 まずい設計はなぜ起きる
配慮不足な設計
企業力がないためのまずい設計
外的要因による検討不足
受注型製品の開発
4−4 設計で起こるミス
設計ミスとは
公差ミスは、単なる設計ミスではない
物作りを知らなくて起こすミス
4−5 CAEでの確認を行わなかったミス
手抜きミスか設計者の能力不足
基本設計ミス
仕様決定ミス
次元の高いミス、次元の低いミスとは
次元の高いミスは設計能力の限界
配慮不足な設計は本当に設計ミスか?
現場を知らない設計者
検討不足な設計と”勘”
的確な判断で防ぐ検討不足
失敗を肥やしとして”検討不足な設計””配慮不足な設計”を防ぐ
思い上がりが生む”検討不足な設計””配慮不足な設計”
CAEは”検討不足な設計””配慮不足な設計”を防ぐ切り札
ベテラン設計者の持つKKDとCAEを巧く組み合わせて使え
CAEを初めて用い、開発期間を半減
4−6 設計の初期段階での素性の良い製品の作り込み
4−7 構想を繰り返し試行錯誤
4−8 スケルトンモデルで素性の良い製品作りを
変形強度の問題には
振動の問題には
機械の基本性能は機構(運動)解析ツールを活用して充分な追い込みを
機構・運動問題へのアプローチ例
4−9 最適なパッケージングを求めて
4−10 試作確認の出来ない検討・確認項目への適用
4−11 大物金型等(樹脂成形)の早期CAE検討によるコンカレント設計実現へ
4−12 大物金型等(板金成形)の早期CAE検討によるコンカレント設計実現へ
4−13 大物金型・鋳型等(鋳造)の早期CAE検討によるコンカレント設計実現へ
4−14 シミュレーションの妥当性評価も踏まえた試作・試験
4−15 詳細モデルでの最終確認・VA/VE最後のチャンス
4−16 モデル化技術と結果評価技術が全て
闇雲に”メッシュを切れば”ではだめ
4−17 中核設計技術者に対する集中教育の試み
4−18 CAE何でも相談室開設例
「CAEによる設計の改革術」
はじめに
我が国の製造業がCAEの基幹ツールである、有限要素法を用いた構造解析を始めたのは早かった。30年近く前から、試作や実験が現実的に不可能に近い、航空機や造船等の設計作業に用いられていた。また試験が出来ない、宇宙開発や原子力開発の世界でも、設計対象物に起こるであろう問題予測の道具として、用いられていた。
また一般の製造業においても、機械の強度や振動、伝熱や熱変形、電場や磁場等、高度な設計品質が求められる場面で盛んに用いられるようになっていた。
例えば、従来の材料力学や構造力学手法では、解析の対象となる機械構造を、極めてシンプルな梁モデルや板モデルに置き換え、応力やたわみの、ラフな値を求めるのが精一杯であった。このため機械構造が持つ正確な品質は、試作後の耐久試験や、歪みゲージによる試験まで待たなければならなかった。ところが有限要素法構造解析を用いると、設計段階でその品質予測が可能になる。そのモデル化次第では、極めて高精度な構造のたわみ値や、局部の形状に依存ずる応力値などが、たやすく得られるのだ。手計算に比べ、圧倒的に、正確に早く解が得られることができる、大きなメリットがあった。
このため、機械の強度や振動、伝熱や熱変形、電場や磁場等のような問題を抱える製造業は、これらを原因として起きる、各種トラブルの、解決ツールとして次々と採用を行った。大手製造業各社に、技術電算部・課など呼ばれる部署が次々と作られたのがこのころである。早いところでは、20年近く経つだろう。
また、筆者自身がこの有限要素法構造解析を駆使し、建設機械の転倒時乗員保護構造(ROPS)の国産認定第1号品開発に成功してから、既に20数余年が経っている。
このようにして、我が国の製造業に取り入れられてきたCAEは、その導入の経緯もあり、ともすれば、解析専門家が扱う、極めて高度な技術を要するツールとして扱われてきた。そのためどうしても、専門家に委託する形での活用方法が多くなる。設計が終了し“試作試験が行われる前に、品質的に不安な部分の品質確認に用いる試作・試験の前倒し的活用”がその1つだ。試作・試験やフィールド出荷後に発生した、トラブルの原因究明や対策案検討を行う“トラブルシューティングとしての活用”もまたその1つである。そして現在でも、このような使われ方が、多くの製造業の主流を占めている。
CAE関係のソフトを提供している日本MSCが最近そのユーザー企業に行った、CAE活用内容を問うアンケート調査結果がある。それによれば、構想設計段階での判断ツールとしての利用が5%、試作出図後の設計結果の確認用途としての利用が33%、トラブルシューティング用途が27%、研究開発用途が32%との結果が出ている。この数字は、まさに筆者が持つ現状認識と全く一致するものであり、上で述べた筆者の見解を、裏付けている。
1981年、米国SDRC社により提唱されたCAEの考え方は”一般的な製造業でも、その製品開発の初期段階から、コンピュータを用いた仮想試作・仮想試験を十分に行い、できるだけ少ない試作回数で、素性の良い、高品質な製品開発を行う必要がある。”というものであった。この考え方が提唱され、間もなく20年経とうとしている。しかし、世の中の実態は、寂しいものである。特に我が国の製造業におけるCAE活用の実態は、まだまだ限られた用途での活用と言わざるを得ない状況である。
1992年、筆者はこのCAEを提唱したSDRCの日本支社が主催するユーザー会で、「CAEは設計に役立っているのか」というタイトルで講演を行った。「皆さんは、製品の設計作業において、その品質を作り込むために最も重要になる、構想設計段階での、設計判断のツールとして、CAEを活用していますか?全く活用できていないのではないのですか?」という問いかけである。この講演は大きな反響を呼び、公演後行われた2時間余りの懇親会では、筆者の前に行列ができ、折角のパーティー料理に、全く手が付けられなかったことを記憶している。
余談になるが、技術士事務所を開業して日の浅い筆者にとって、この講演での反響は、天の助けにも近い出来事であった。それまでクライアントの確保に四苦八苦しいた状況が一変し、現在の安定への、基盤作りの出発点となっている。
それから8年、両手・両足を越える数の製造業の皆さんと、設計の上流段階でのCAE活用、設計の判断ツールとしてのCAE活用、設計の生産性を上げるツールとしてのCAE活用、設計の品質を極限まで上げるツールとしてのCAE活用等を、幾多の試行錯誤をも行いながらチャレンジを続けている。
本書では、このような筆者の、これまでのチャレンジの結果を、中間報告の形で記すものである。このため本書では、旧来の概念に当てはまる範疇のCAEを語るつもりは全くない。本書のタイトルにもあるように、設計の改革の結びつく活用の方法、設計そのものの生産性を上げていく,もしくは設計の品質を上げて行くCAEの活用方法と、それを実現するために必要な考え方について述べていく。
本書は、大きく4つの章で構成する。まず第1章では「本当のCAEとは」と題し、CAEの誕生とその進化の歴史、周辺技術の変遷、なぜ仮想試作・仮想試験実現が必要で、CAEはどのように役立つのか等を取り上げる。第2章では、8年前に筆者の行った問題提起「CAEは設計に役立っているのか」を受け、電卓や表計算と同等に使いこなされるCAE、タイムリーな設計判断ツールとして活用されるCAE、設計の基幹ツールとして位置づけられたCAE、など巧く使われているケースをまず取り上げる。さらに、大枚を投じてCAEツールを拡充してきたのだけれど巧く生きていない例等を現状にアップデートした形で解説する。第3章は「設計者にとってのCAEとは」と題し、製品開発部署での設計者の役割とCAEの関係、構想設計段階でCAE活用を成功させるにはどうすればよいのか、構想設計段階でCAEが使いこなせる設計者に要求されるものは何か等について述べる。第4章では「究極の設計品質向上・開発リードタイム短縮を目指して」と題し、第3章より設計行為に近い部分からの話題を取り上げる。そして最後に事例として、実際に設計技術者に対して行った集中教育の試み例と、「CAE何でも相談室」解説例を取り上げる。
2000年4月 著者
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