CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

我が国製造業の実力を持ってすれば、円高50円でも怖くない


    なぜなら我が国製造業が持つ技術がなければ、中国や韓国の製造業は、稼げる
    輸出商品をつくることができないからだ。 (最終回)


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まとめ


私は、常々我が国製造業のあるべき姿、即ち21世紀を勝ち抜いて行ける製造業のあるべき姿を、次のように定義している。

「21世紀を勝ち抜く製造業に課せられた使命は、そのものづくりを通じ、社会正義に反することなく、適正な利益を上げ、株主に適正な配当を行う事にある。利益の分配に際しては、その利益を得るために身を粉にして働いた従業員に対しても、応分の還元(分け前)がなされることは当然だ。さらに納税の義務は基より、企業活動を行って行く上で、協調関係にある社会への適正還元も忘れてはならない。

そしてこれらの責務を各製造業が果たすためには、“旬で、よく売れ、稼げる商品”を常に開発し続ける必要がある。要するに全世界の顧客ニーズにマッチした、安全で高品質且つ適正価格な製品を、より短期間且つ低コストに開発できる実力を持ち、常に安定した商品開発と製品供給を実現することだ。

その結果、我が国製造業が潤い、株主が潤い、従業員が潤い、関係者が潤い、国民全体が潤う構図を実現する事が、我が国製造業が目指すべき姿と言える。なお全世界の顧客ニーズにマッチした商品とは、場合によっては、全世界共通と言うこともあるかも知れないが、原則的には、世界の各地域、各国が持つ、それぞれのニーズに、的確且つこまめに対応できた商品を意味する。

さらに、ますます厳しさを増すグローバル競争の中で、我が国製造業が勝ち抜くためには、強靱な体力(開発力・生産力・販売力)を付ける事が必須だ。世界中の顧客に、喜んで購入・使用してもらえる、高性能・高品質・低価格な製品を、投入し続け、しっかり稼ぎ続けることができる体力である。

このためには、生み出した適正利益の中から、将来(5年〜15年先)を目指した、的確な先行投資(先端技術の仕込み・優秀な人材の確保育成・工場用地や先端設備などの確保など)を行うとともに、ともすれば崩壊しようとしている自分たちの足下(商品・製品開発力の低下=設計力の低下)を、しっかり固めることが最優先で求められている。

また従業員の雇用形態についての私の考え方は、終身雇用を是とする。特に知的作業の集合体である商品設計・開発・さらには物作りの勘所は、それらを担う人材如何でその体力に大きく差が生ずるからだ。

しかし、業績貢献と連動しない年功序列には、賛同できない。少なくとも“働かない人間”“仕事を作り出す人間”“周囲の仕事の足を引っ張る人間は、”利益追求を目的とする民間企業としては不要な人間(人材ではない)である。このような人間にまで、闇雲に応分以上の賃金を与え続けたり、在社年数だけでポジションを与えるような、愚かな習慣は容認しない。」

そして以上のような企業体質に、我が国製造業が変革して行くためには、何を為さなければならないか、どのような手法手段を用いればよいのかを、この十年来、本ホームページを始め、様々なメディアを通じて呼びかけてきた。

また一方、人材面での取組みに関しては、「21世紀を勝ち抜ける我が国製造業の必須要件は、運命を共にしてくれる優秀な人材の確保」というタイトルで、本年5月7日より6回連載で、その考え方を述べてきた。

この主張を掲載した主たるきっかけは、長引く不況はじめ様々な原因で、その低下が著しい我が国製造業の人材力を、その確保・育成策を含め、根本から見直して貰う目的だ。しかし、ともすれば人間としての信頼度を蔑ろにし、その頭脳の明晰さのみに着目しての、中国人留学生大量採用を行う傾向に、危うさを覚え警鐘を鳴らす意味もあった。中国マーケット進出のために、その要員確保を目的とした、中国人留学生採用は否定しない。しかし将来の自社を担って貰うことを期待する人材としては、様々な難点があることを本連載では指摘した。

当然人口13億の中国には、単純計算でも我が国に比べて10倍の優秀な人材がいるはずだ。またこの20年来中国政府は、大学を急増させ、積極的な基礎教育充実を行ってきた。さらに富裕層における教育熱は、一人っ子政策ともからみ、韓国のそれにも勝るかも知れない。結果、頭脳明晰且つ学力優秀な人間が、大量に供給されることになった訳である。

しかし現代社会における企業活動、特に商品開発は、個人プレーで簡単に回るような代物ではない。共通の目的意識を持った複数の人材が、協力・協調をしあって、初めて良い仕事に結びつく。前世紀には許された、個人プレーで時間を掛け、じっくり熟成して行くような、商品開発形態では、とても時流に追いついて行けないからだ。

ところが、私がこれまで手がけてきた、中国人スタッフを交えた様々な取組みにおいて、“共通の目的意識を持った複数の人材が協力・協調をしあって”が巧く行かなかった。彼らが巧みに日本語を喋り、日本人スタッフを凌駕する高度な工学知識を持っていても、目的意識にずれがあり、協調・協力・責任意識に難点があった場合には、混乱が生ずるのみで、組織としての成果に、効率よく結びつくことにはならなかったからだ。

冷静に彼らを観察したとき、既に周知のことかも知れないが、彼らに感ずる共通の目的は、まず第一に、日本企業の持つ固有技術や継承技術の取得であり、次はそれを売りに、如何に高く自分をステップアップさせて行くかである。

また彼らの殆どは、自分の非を認めない人種だ。衆人環視の下その誤りを指摘されても、ある程度キャリアを積んでいると、彼らは堂々と居直るか、逆ギレをするか、責任転嫁をし、延々と言訳を続ける。設計検討会の場面で、論理的に破綻し、工学的にも齟齬のある設計案に固執して、検討会を駄目にしてしまった場面に、何度か遭遇した。ある場面では、関係者が腫れ物に触るように、該当者を注意できずにいたため、私が無意味な議論を中断させたこともある。かといって、彼らをこのような場面から外すと、「差別だ!」云々と言う、別の問題を引き起こすため厄介だ。

と言うことで、このような有様では、彼らを交えた、“共通の目的意識を持った複数の人材が協力・協調をしあって”の商品開発は、不可能であると私は判断している。そして、いくら頭脳明晰でも、彼らは役に立たないと言うことも踏まえ、私の「21世紀を勝ち抜ける我が国製造業の必須要件は、運命を共にしてくれる優秀な人材の確保」と言う、6回の連載に至ったわけである。

また本ホームページを始め各所で、このような問題に対処すべく、「フロントローディング設計」「設計思考展開」手法をなど、中国からの頭脳明晰人間よりは数段落ちる、普通の我が国エンジニア達が、チームプレーで、より質の高い商品開発を、最大効率で行うための、手法や取組み方法を発信している。

しかし、我が国製造業がいくら頑張っても、孤立無援の状態で、円高圧力を始め、さらに厳しさを増す国際マーケットを、乗り切れる状況ではなくなっている。中国の為替管理、韓国のFTA戦略、米国主導のTPPなどは、我が国製造業にとっては、いずれも強いマイナス要因だ。

しかし本稿で述べたように、我が国製造業には、底辺で支える中小下請け企業を含め、極めて高い物づくり能力がある。だがこれまでの政策では、これらを有機的に生かす施策が、全くと言って取られてこなかった。一方中国や韓国など世界各国は、国を挙げての自国産業育成策を積極的に講じてきた。これでは余りにも我が国製造業は不利だ。

我が国製造業に、その自助努力だけでこの厳しい環境を勝ち抜けと言うのは酷だ。しかも社会保険の不備のつけや、雇用不安に対するつけまでをも、愚かな役人共は、被せようとしている。とんでもない話だ。

さらに、本来なら真剣に我が国製造業の育成助成を考えるべき、米倉某など財界中枢からは、小泉・竹中路線の延長上にある、ますます我が国の製造業を弱らせるような要求しか出てこない。

そもそも20年前のバブル崩壊は、地道に物づくりを行う製造業があずかり知らぬ、銀行や役人が引き起こした大失策だ。

その後大挙して生産拠点を中国に持って行ったのも、実は商社などの物づくりを行わない輩が裏で蠢いており、さらに対中外交上の強い要請もあったはずだ。

長期的な視野に立てずに、一瞬の利益を求める商社や、うかつに乗せられた一部製造業は、国内の雇用や下請け企業を切捨てて、大挙してその生産拠点を中国に移動した。その結果、国内では、雇用の悪化や、人件費や社会保険負担を削減する目的での“偽装派遣”が横行し、大混乱を引き起こした。これでは、いつになっても国内景気が上向くわけがない。

現在、菅政権の公約である法人税減税は、その実現に向けての取組みが行われている。しかし上記したような厳しい状況下にある製造業を、単に法人税を引き下げだけで、助成することは無理だ。そもそも、雇用確保など社会的な影響を考えた、良心的な経営を行っている所は、利益をそれ程出せずに、支払う法人税は元々少なく、減税の御利益などないに等しい。さらに苦況に喘いでいるところは、納税さえできず、減税など全く御利益がない。メリットを受けるのは、自己の利益だけを求め、下請け切りや雇用悪化を招き、我が国経済の低迷を続けさせてきた張本人達だけだ。

また「法人税が高いと優良企業が日本を出て行ってしまう」と言う主張がある。しかし日本脱出を目論む企業は、元々我が国に対する帰属意識が低く、自分たちの社会的な使命など念頭にない。法人税減税によりメリットを受けるのは、このような悪辣企業達だけだ。

この際、その財源も覚束ない法人税減税などはやめ、本稿で提唱したような、効果がある産業育成助成策を、早急に講ずべきである。