CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

我が国製造業の実力を持ってすれば、円高50円でも怖くない


    なぜなら我が国製造業が持つ技術がなければ、中国や韓国の製造業は、稼げる
    輸出商品をつくることができないからだ。 (その6)


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早急なるTPP参加と、積極的なFTA締結を!

これにより影響を受ける農林水産業は、我が国の産業界が得意とする“ムダ撲滅”“最適化”への改革改善と、ユーザーニーズに的確に対応できる大規模企業組織での再構築を。


元々資源が少ない我が国は、戦後急速に向上させた物づくり力を持って、その糧を得て行くしかない宿命にある。このためには長期的な視野を持った、戦略的な布石と施策が、広い範囲で、産業界の隅々まで、止めなく行われることが必須だ。

高度成長の時代までは、その評価は分かれるが、官僚主導で第2次産業を中心に、我が国の産業育成を引っ張ってきた。しかしその彼らの成功体験が仇となったためか、特にバブル崩壊以降は、はっきり言って、役に立った施策が行われているとは、言い難い状況にある。

しかも国民の税金を、湯水の如く無為な施策に投下した上にである。やはりこれからは、上記したような、本当に役に立つ、我が国の産業界が、本当に稼げる施策を、常に一歩先を読みながら、立案・遂行できる“官”に変貌していって欲しい物だ。

一方、いつの時代でも、第2次産業を中心とする育成強化策は、ともすれば1次産業を担う関係者からは、強い反発を受ける。例えば関税撤廃などを狙うTPP参加などは、既得権益を守ろうとする農業団体などに取っては、とんでもない話以外の何物でもない。しかもこれが食糧自給率という、食糧安保の問題と絡められ、特に保守層の間では「絶対に許すことのできない国際妥協」「輸出産業偏重の愚策」との強い批判となる。現にTPP参加検討を宣言した、管政権を迷走させようとしている。

しかしこのTPP参加、または各国との2国間FTA締結は、我が国が今後の糧を得るために、最もあてにしなければならない、2次産業を中心とする産業界が、ハンディーなしで、世界市場で戦うための必須条件だ。にもかかわらず、これらの騒ぎを起こしているのは、既得権益を死守しようとしている“農業マフィア達”だ。“真の農業”を蔑ろにし、我が国全体の将来を一顧だにすることなく、自己の権益にのみに目がくらんだ、極めて愚かな行為と言っても過言ではない。自身の周辺に農業関係者が多くおり、農業の現場の実態を熟知している私にとっては、“農業マフィア達”の嘘は通じない。

例えば、かつて日米貿易摩擦のしわ寄せを受けた、柑橘類の自由化は、どのような現状をもたらしているか見てみたらよい。まじめに、蜜柑などの柑橘類栽培を行っている農家の殆どは、高品質・多様且つ安全な商品を、市場に供給することにより、極めて強い経営体質に変貌している。

ちなみに我が家では、レモンも、オレンジも、グレープフルーツでさえも、国産品しか購入しない。なぜなら、明らかに国産品の方が美味しいし安全だからだ。確かに価格では、2倍はあたりまえの状況だが、我が家の価値観では、この価格差を考えても、国産品に軍配を上げている。私自身は、決して、絶対的な国産品愛好主義者ではないのだが、トータルのコストパフォーマンスを、冷静に計算した結果の選択であることを申し添えておく。

サクランボに代表される、その他の果樹農家も同様だ。さらには、大都市近郊の野菜農家、ブランド米産地の米作り農家、ブランド牛・豚など酪農農家など、広い作物分野で様々な成功事例がある。そしてこれらの殆どは、農協を頼りにしない、ユーザーニーズを的確に捉えた、近代的なビジネススタイルに変貌できている。これまで箸の上げ下ろしまで差配されてきた、“農業マフィア達”の支配から脱却をし、自分で考え、自分のビジネスとして、農業経営を捉えた成功事例だと考える。一部には、地域の農協組織ぐるみで成功に導いている例もあるが、これらは、組織ぐるみで“農業マフィア達”の支配から、脱却・変革ができた例と捉えるべきだろう。

そしてこれらの現実を冷静に診たとき、上で述べたTPP参加が「我が国農業を崩壊させる」「食料安保を損なう」と言う論拠にはなり得ない。なぜなら柑橘類の貿易自由化に見れるよう、やる気のある、しっかりした経営ができる柑橘類栽培家は、生き残り、発展し、消費者の強い信頼を勝ち得て、確固たる基盤を築いた。先に挙げた果樹・野菜・米・肉など、高品質(美味しい)・安全を求める我が国の消費者がいる限り、真面目にやっている農業経営者達が、淘汰されることはないはずだ。

ところがこれまで、自民党と農業官僚は、食管法と減反政策という、途方もない愚策で、我が国農業を崩壊寸前にまで追い込んできた。八郎潟開拓農民の例に代表されるように、マインドの高い農業経営者達を、犯罪者扱いするか、補助金漬けにして、やる気をなくさせるかの何れかに追い込んだ。農協を中心とした農産物の流通制度や、農業機材の購入ルート、農業設備に関わる融資施策も、借金漬けなどの様々な問題を生じさせ、我が国農業の弱体化の一因となった。

ちなみに余談だが、諫早の干拓事業などは、国民の血税を、有明海に湯水の如くつぎ込んだ、歴史に残る、典型的な愚かな農業政策だ。明らかに既得権益を守ろうとする輩と、その利権に群がる政治家を筆頭とする魑魅魍魎どもが、既に歴史的には、価値を失ったとも思える愚かな農業政策を、続けさせてきた原動力であることが判る。そしてこの問題は、諫早の干拓に限ったことではない。

本題に戻り、一方農業に従事している大多数は、無策な農業行政や、利権をあさる魑魅魍魎どもの跋扈に、農業に対する先行きに強い不安を感じてきた。そしてどう考えても将来性に欠ける農業を、当然のこととして、自分の子に無理に継がそうとは考えない。また興味を持って跡継ぎを考えた若者が、直面する事実(資金力や様々な規制など)を、我がこととして真剣に見たとき、どう考えても、農業に夢を見出せないと言う結論に至ってしまう現実がある。

その結果、農業従事者の高齢化が進み、さらにはその高齢者達が農作業を止めるに至っては、水田を中心に全国各地には、耕作放棄地が急増してしまった事実がある。

一方、長引く不況を受け、地場の土建業者などが農業進出を目論んできた例がある。実は中小に限らず、余剰人員の雇用対策を含め、本格的な農業進出を考えた大手製造業もある。

しかし、中小の土建業が、細々と耕作委託の形で日銭を稼いでいる限りは、特に問題は生じないのだが、本格的に取組もうとすると、農地法などの様々な障害が立ちはだかる現実がある。農水省は、参入障害ではない、借地でやればよいと言うが、その借り入れに対して様々な制約があり、大抵はその初期段階でギブアップした例を見てきた。

さらにこれらの難関を突破できても、自己所有地でない不便さは大きい。例えば、20馬力以下のサイズのトラックタでないと、取り回しの悪い水田を、100馬力以上クラスの大型機対応に区画整理をしようとしても、自己保有地でないと、様々な権利と利権が絡んで、一筋縄では行かない。我が国の産業界が築いてきた、“ムダ撲滅”“最適化”への改革改善が、その突端で雁字搦めになってしまう訳だ。

これ以外にも、様々な障害がある。しかし本稿は、法人の農業参入障害の問題点を、語る目的ではないので、この程度で止める。しかし、これらの障害となる法律や規制を、“第1次産業の再構築”“農業安保の確立”を軸に置き、“得意とする物づくりで糧を得、緩やかな成長を続けながら、豊かで不安のない社会を構築する”と言う我が国の将来像と睨み合わせながら、その根底からの見直しを図るべきであると考える。

いずれにしろその規模の大小はあるが、我が国の農林水産業は、その事業の最適化と利益追求を大前提とする、企業形態で再構築して行くしかないと考える。できるだけ大規模で、我が国産業界が得意とする“ムダ撲滅”“最適化”への改革改善と、ユーザーニーズに的確に対応できる形態でだ。

第1次産業従事者の急激な減少、多様化するユーザーニーズに対する柔軟な対応、海外生産者からの輸出圧力など、いずれを取っても零細な個人農家などでは対応できない。既得権益の上に胡座をかいた、既成(寄生)農業団体も無理だ。できるなら疾っくにできているはずだからだ。どう考えても、物づくりでその力を養ってきた製造業を中心とする企業群に、1次産業の再構築を頼らざるを得まい。

しかし、当然のことだが、このような役割から、この20年間、国内の適正雇用を蔑ろにし、物づくりを底辺で支える中小下請け企業を見捨て、自己の利益のみの追求を行なってきたような体質の企業は、排除しなければならないが。

なお唐突に、“得意とする物づくりで糧を得、緩やかな成長を続けながら、豊かで不安のない社会を構築する”と言う、私の考える我が国の将来像を提示したが、本稿の根底には、この考えかたや、来週の纏めで触れるが、私が考える“我が国製造業のあるべき姿”があることを、申し添えておく。



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