我が国の物づくり力を底辺で支える、金型以外の中小下請け企業への戦略的な支援も同様だ。農業への個別保証や子供手当より、我が国浮沈のトグルを握っている彼らを儲けさせ、しっかり成長させ、我が国物づくりの下支えをしっかりして貰うようにすることが、まず最優先に取組むべき事と考える。
現状では、納入先毎、機種毎に、部品仕様や寸法の差違があり、このままでは余り現実的ではなく、相応の工夫はいるのだが、画期的な下請け中小企業の支援方法がある。
例えば、発注元の生産計画に合わせ、五月雨式に受注している部品類を、官・民が一体となって、計画発注を行う仕組みを講ずることだ。少なくとも年度ベース程度で。
これは、我が国物づくりを、下支えしている彼らに、十分に儲けてもらうことに第一の目的がある。さらに絶えず変動する人員確保や金策などに、神経を奪われることなく、質の高い物づくりに没頭して貰うことが、次の目的だ。
仮に私が担当大臣なら、これら中小企業が、充分に利益を出せる価格で、一度国が計画的に買い上げ、国際競争力のある価格で、アッセンブリーメーカに販売する仕組みを講ずる。まさに食管制度の工業版だ。
当然、各の部品を使用する製品の売れ行き次第で、膨大な不良在庫が発生することもあろう。しかしここも業界一体となった標準化・共有化・流用性向上などの工夫次第で、この不良在庫も最小限に抑えることができると考える。我が国の工業エンジニア達には、この程度の課題は、朝飯前で片付けることができる、充分すぎる知見があるはずだ。
ひたすら国債で借金を重ね、景気刺激策と称して無益な箱物を作り続けたり、子供手当のようなばらまきをするより、力を持った中小製造企業の親父達を儲けさせた方が、よっぽど景気刺激策になる。最初に述べたように、大手製造業は稼いでいるはずだが、その利益は、景気上向きの材料には使われていない。社員にもろくに分け前を出していないようだ。そして国内中小企業を、いじめにいじめ、彼らを萎縮させ、さらには絶望させ、景気を悪くする方に引っ張っている。
ところが上記施策を講じた場合には、間違いなく多くの“親父達”は、散財を行うだろう。また腕のある職人達は、分け前をしっかり貰い、その一部は、積極的な消費に回るはずだ。
先が読める経営計画が、何処の中小企業(当然力のある)でもたてられることになると、当然のこととして、腕のある職人達は、引っ張りだこになる。“親父達”が分け前をケチっていたのでは、腕の良い職人達に、よそに移られ、自分が儲けられなくなるからだ。
結果、“金”が回るようになる。当然税収も増え、食管法の工業版に対する財源など、あっと言う間に回収できるはずだ。
さらに、このような施策で作られた、国際価格競争力を持った我が国製品は、その高品質で世界マーケットを席巻できるだろう。当然輸送に不向きな製品や、相手方の産業育成政策の制約を受ける場合には、品質を落さない限度での部品調達も含め、現地生産はやむを得ない。しかし、上記したような施策を講じ、我が国からしか調達できないな品目を、増やしておけば、様々な面で我が国製造業は有利な立場に立てる。
そして、このような取組みが網羅的に実現できたときには、例え1ドル50円であっても、我が国製造業は困らないはずだ。
まず輸入する原材料や燃料、食料品などは、円高のメリットで安く調達できる。さらに衣料品などの軽工業品も廉価で購入できる。このためまず国内消費生活には、余りお金のかからない状況が生じ、勢い余ったお金は、高価な消費財に向くか、貯蓄に向くかの何れかとなる。
一方、上記したような好景気を生み出すことで、社会保障を始めとした政治と制度の安定が図れたら、国民は安心して豊かな生活を追うようになる。浮いたお金が、貯蓄には余り回らず、消費に向くと言うことだ。こうなればしめた物で、税収は一気に倍増し、馬鹿な役人共が、自己の利益だけを追うよな背信行為を行わなければ、これまで溜まってきた借金も、一気に消し去ることになる。
当然「では貿易収支はどうなんだ?」「円高でも日本製品は、世界マーケットで競争力を持つのか?」などの疑問と異論が出ることは承知している。
まず貿易収支だが、論理的には、同じ量と質の輸入を行った場合には、円高分支出が減少することになる。また同じ質と量の輸出を行った場合には、円勘定だと同額となる。結果円高になればなるほど、大幅な収益が出ることになる。
当然円高で、我が国製品の価格競争力が低下し、商品力そのものが低下してしまった場合には、輸出が大幅に低下して、大幅な入超に陥り、大赤字と言うこともあるだろう。しかしこの場合にも若干のタイムラグはあるが、輸出製品を製造するための原材料や燃料などの輸入は、それに比例して減少することになるので、それ程極端な入超に陥ることはないだろう。
しかし私の提案は、一度買い上げた国内製造部品を、国際市場価格に沿った価格で、アッセンブリーメーカなどに卸せと言っている。即ち国内アッセンブリーメーカが製造する製品は、自社に投じた人件費と設備費以外は、輸出対象製品のコストアップ要因が押さえられていると言うことだ。
ここまでの支援が為されていれば、元々実力を持った我が国製造業なら、間違いなく、他国製品に比べ圧倒的な商品力を持った製品を、開発・生産できるだろう。
しかも私は、我が国でしかできないような製造装置や製造技術は、巧くやって(パテントを始め様々な策を講じ)囲い込めと述べている。我が国製品を購入するか、我が国で作られた部品を使用していない限り、実現できない性能や機能を備えた製品を、ラインアップ化することによる徹底した機能差別化だ。
これに徹底した対象マーケット把握と、徹底したフィジビリティースタディーを実施すれば、間違いなく、高価格でも圧倒的な商品力を持った商品を、世界各地のマーケットに投入可能な筈である。