我が国には、液晶製造装置に限らず、世界が追従できない様々な物づくり技術がある。極めて質の高い中小下請け企業群(私の知り合いなどは、嫌気がさして次々と廃業しているが)や、既に浸食されつつある金型製造技術もこれにあたる。
私は、各所で警鐘をならしているのだが、これらの価値を理解できない、特に家電系のメーカは、積極的にその部品調達や金型開発・製作の中国移転を進めた。そして最近は、これがあらゆる業種に蔓延するようになった。その結果、国内の力を持った下請け企業や、金型メーカの苦境は皆さんすでにご承知の事と思う。
並の金型メーカなどは、既に一掃されてしまった感があるが、まだ高度な技術を要求される金型は、国内の優良メーカに委ねられている。しかし彼らとて、ともすれば原価割れを起こすような、難しい金型ばかりでは、商売にならない。彼らが無理をせずに生き残り、その技術を温存しつつさらに向上して行くためには、それ相応の利益が必須だ。この部分でも官民一体となった取組みが早急に求められる。
そして、いつになっても景気回復へのマインドが高まらないことや、雇用が相変わらず不調なことも、かなりのウエイトで、ここに(中小下請け企業が瀕死状態にあること)その原因があると私は考えている。我が国の景気を早急に回復させるためにも、ここへの重点施策は必須と考える。
一方ここ数年、全く出遅れだが、学や官主導で、金型技術の流出を防ぎ、優良金型メーカを温存しようとする動きがある。しかし私に言わせれば、あの程度の施策では、焼け石に水でしかない。彼らは、基本的には学・官はもとより、大手メーカのサラリーマン達とは、基本的な立ち位置が違う。親父達は、そのリスクを背負って、商売に掛けている。主力の従業員達は、「いずれは俺の腕一本で食ってみせる」と言う心意気を持っている。余談だが、だから一人一人が役に立つ。
このような観点から見たとき、やはり金型屋の親父が、ベンツを自慢げに乗り回せる状況を復活させなければ駄目だ。優秀な人材確保、技術向上への努力などへの道義付けなども、彼らが大きなメリットを感ずる“何か”がなければ、その努力への支えにはなるまい。いずれにしろ現在打ち出されているような的はずれな施策では、底辺の現場ではいずり回っている、彼らの心には響かない。「俺も頑張れば近い将来親父のようにベンツに乗って札びらが切れる!」、このような環境を、少なくとも底辺を支える彼らには、作ってやる必要があると考える。
私の考える施策とは、全国の金型を一カ所で集中受発注できるような非営利法人を、金型協同組合の形で設け、営利抜きで金型発注者・受注者いずれにもメリットが出るよう、その仲介業務を行わせることだ。
金型を必要とする国内製造業からは、海外製に対して、価格的に充分対抗できる価格で、金型の受注を行い、金型を製造する金型メーカには、充分利益の出る金額で金型設計・製作発注を行おうと言うことだ。当然この取組みの結果、現在の金型価格相場では、大きな損を生ずる。この損の部分を国からの補助で埋める訳だ。
このような目論見を実現するためには、多くの異論反論が生ずるだろう。「何で産業界にだけ税金の投入を行うのか」と言う不満も、各所からわき起こるに違いない。詳しくは、金型以外の中小企業支援策を述べた後、決して血税の無駄使いではない、マクロ的なメリットを述べる。ここでは、この数十年“農業安保”の名目で行ってきた各種施策と比べたとき、その対象が第1次産業か2次産業化の違いだけにしか過ぎない話だと言うことだけを挙げておく。
我が国の高度成長を支え豊かな国にしてきたのは、間違いなく第2次産業を中心とする“物づくり力”だ。資源の乏しい我が国が、今後も豊かであり続けるためには、この“物づくり力”の保護育成を積極的に行って行くことが必須であり急務である。
これまで取り上げた液晶製造装置や金型に限らず、強い戦略性を持った国の施策が必須であり急務であると考える。だが現実は、私に言わせれば、これまで全く無策であり、今後の展望も全く見えてこない。政治家や官僚、さらには自己保身しかまともに考えられない、財界のお偉方には、猛省を求めたい。