CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

我が国製造業の実力を持ってすれば、円高50円でも怖くない


    なぜなら我が国製造業が持つ技術がなければ、中国や韓国の製造業は、稼げる
    輸出商品をつくることができないからだ。 (その3)


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今の我が国製造業の苦境(国際ビジネスでの)は、円高などが主たる原因ではない。官民が一体となった10年後20年後を睨んだ戦略的ビジネス展開の欠如が原因だ!
世界の富裕層が欲しくなる徹底した高品質・高収益商品の追求と、マーケットニーズを的確に反映した中・低価格商品の戦略的投入・展開が急務!


ではまず話を、完敗した感がある家電・AV・携帯業界の、中国を始めとする新興マーケットの話に戻す。

我が国のこれら業界がこれらのマーケットに持ち込んだ製品を、彼らはガラパゴス製品と揶揄した。日本と言う孤立した独自マーケットで育った、無用長物満載の的はずれ商品だと言うことだ。国内では販売を終了した型落ち製品でさえもだ。

確かにガラパゴスと揶揄されたこれらの製品は、マーケットニーズという観点を除き、プロダクトアウト的な視点で見たときには、その技術面や性能面では圧倒的な、他に追従を許さない強力さを持っていた。

しかし、中国を始め東アジアやアフリカなどの新興マーケットは、高機能高品質の域を極めた、我が国製造業が生み出すガラパゴス製品を必要としなかった。マーケットが必要としない機能が満載で、値段が高かったらあたりまえのことだが、購買層の触手が動くわけがない。なぜなら昭和40年代の我が国製品を、今風に飾り付けてやれば、充分彼らのニーズを満足できたからだ。

しかしこのマーケットニーズを、的確に把握できない我が国製造業(特に家電・AVメーカ)は、このマーケットが脈動を始めた当初、一世代前の我が国製品を、殆どそのまま市場に送り込むような愚を犯した。当然の事だが、彼らが求めていた物は、年代落ちの売れ残りではなく、自分たちのニーズにぴったりと合った、機能と価格を持った商品だ。その結果、我が国のこれら製品は、一部の富裕ユーザーを除いて、大きなマーケットを確保することもできずに敗退することになった。

ところが、韓国勢は、この部分での戦略が大きく違った。どのような手立てを使ったかの全ては把握できていないが、かなり泥臭い努力を重ねそのマーケットを調べ、欧米向けに出していた“安かろう”“わるかろう”の延長上にある製品を、極めて廉価にマーケットに投入したのである。そしてこれらのマーケットは、彼らに席巻される結果となった。

中国マーケットにおける携帯電話も同じだ。我が国の携帯電話メーカは、シンプルな、電話機能だけを求めるユーザーニーズを、的確に把握できなかった。確かに我が国で大量に盗難された盗品が、中国で飛ぶように売れている事実からも、電話機能以外の機能を満載した、携帯電話のニーズも少なからずはあったはずだ。しかしこのマーケットは、携帯電話黎明期の中国マーケット全体から見たら、極めてニッチなマーケットであったに違いない。そしてノキアや韓国勢のボロもうけを、指をくわえて見ているしかない結果に終わったのである。

それだけではない。例えば国産メーカが苦戦を強いられている液晶パネルにおいて、そのパネルを製造する装置は、米国の一社と中国製のコピー製品を除いては、殆どが我が国メーカの製品である。高機能を要求される様々な電子機器や電子部品も、重要部分には、その殆どに我が国メーカの製品が用いられている。そしてここでも、我が国AVメーカの戦略性の無さが顕在化している。

液晶テレビが本格化する前、今から10年前には、韓国や台湾勢は積極的に液晶製造のための投資を行っていた。政府の援助を受け、当時の我が国では考えられないような設備投資を行っていた。

一方、我が国製造業は、バブル崩壊で設備投資を減速させ、液晶製造から次々と撤退して行った。やむをえず国内の設備メーカは、韓国などにその活路を求めなければならず、中には赤字覚悟で彼らの設備投資に付合っていた所さえあった。

私がもし当時の通産の官僚だったら、箱物に景気対策の資金を落す愚を阻止し、液晶製造設備への積極投資を遂行しただろ。既に当時、明らかに近い将来液晶テレビの時代が到来することは見えていた。しかもテレビ放送のデジタル化も既に決まっていた。国際的な流れも同様である。だから、サムソンを始め韓国メーカと政府は一体となって、液晶パネルのシェアー独占へとその舵を取っていたのだ。結果論かも知れないが、つくづくと我が国官僚達の先を読む力の無さと、税金泥棒さに、嘆きを覚えると共に怒りを感ずる。

一方、液晶技術開発を競ってきた我が国製造業も、極めてその罪は重い。折角自社の研究者達が艱難辛苦の結果、実用化にこぎ着けた貴重な技術を、その先見性の無さで、没としてしまったことがまず挙げられる。真剣に設備投資とビジネス化に励んでいたのは、シャープ一社ではなかろうか。途中から軌道修正し、慌ててそのビジネス化に励んだパナソニックは、私に言わせればスタートが遅すぎた。

それよりも拙かったのが、折角液晶製造装置メーカ達と育て上げて来た様々な技術を、あっさりと韓国や台湾勢に持って行かれたことが問題だ。多くの社員を抱えた製造装置メーカも、その生き残りのためには、必死になり、なりふり構わぬビジネスを展開するのは当然だ。これまで一緒に技術を醸成してきた国内メーカが、一斉にその設備投資を止めてしまったのでは、彼らの生き残る術はないためだ。私は、たまたまこの時期に、液晶製造装置メーカ複数社と付き合いがあったのだが、彼らはその生き残りをかけ、赤字覚悟で韓国メーカなどの無理難題を聞いていた。

上で述べた国家戦略とも絡むのだが、官民一体となって、この段階で製造装置メーカの囲い込みを巧く(適正な利潤を出して貰いながら、一層の技術向上を図るような)行っていれば、液晶パネルを海外勢に席巻される事態には陥らなかったのだろう。

この5年来の液晶テレビの価格下落は著しい。量産効果で原価が低減した側面もないわけではないが、量産効果を大きく越える価格崩落を起こしている。例えば私は、32型のシャープAQUOSの亀山モデルを、5年前に30万円以上で家電量販店で購入した。しかし今、同スペックのAQUOSは、6万円以下で店頭に並んでいる。液晶パネル設備への投資回収や、流用使用している成形金型への投資費用回収があったとしても、異常な価格崩壊だ。この原因は、韓国勢を始めとする低価格製品への対抗上の価格付け以外の何物でもない。

巧くやって(パテントを始め様々な策を講じ)、我が国で作られた液晶製造装置を用いての液晶パネル生産は、我が国でしか生産できないようにしてあったら、我が国のAVメーカは、今の苦境には陥らなかったのではないだろうか。エコポイント制度のおかげで、一時的な収益は回復できただろうが、ワールドワイドビジネスで見たときの苦境は、明白だ。

当然、液晶装置製造メーカが、海外にその装置を販売したくなくなるような、魅力的なインセンティブを設け、彼ら囲い込むことも、上記した“巧く”の内であり、必須の要件だったのだろう。

さらに上でも述べたように、液晶テレビに限らず今後の我が国製造業は、中国などの新興マーケットにおいて、高品質品と劣悪品の棲み分けを明確化した、ビジネスを展開すべきと考える(自動車・建設機械・化粧品などでは既に巧くいっているが)。徹底的にそのマーケットニーズを把握し、戦略性を持った商品企画と販売戦略がたてられれば、無為な低価格競争に巻き込まれる事はないはずだし、収益性の高いビジネスが展開できるはずである。

また韓国勢などに席巻された中・低品質商品マーケットも、決してあきらめることはない。的確に対象マーケットを読み、的確な戦略性を持った商品開発を行うことと、その製品生産に特化した現地生産を行うことで、絶対に挽回できるはずだ。このために私は、“フィジビリティースタディー”と呼ぶ究極の商品開発手法を、提唱指導している。一度お試し頂きたい。



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