CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

我が国製造業の実力を持ってすれば、円高50円でも怖くない


    なぜなら我が国製造業が持つ技術がなければ、中国や韓国の製造業は、稼げる
    輸出商品をつくることができないからだ。 (その2)


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余談だが、最近では電子部品などは、韓国製はもとより中国製部品なども、大量に供給されるようになってきた。このため、品質度外視で、ただ見てくれだけの製品を作るのなら、日本製部品を使用することがマストではなくなっている。しかし売り逃げ的に、一瞬の利益を追うことしか考えていないところはともかくとして、少なからずまともな商売を継続して続けようと考える新興製造業にとっては、肝要な部位には、やはり日本製部品は必須のアイテムである。

つい最近も、中国製電子部品の品質評価を行う場面に立ち会った。やはりその歩留まりや耐久性などいずれを取っても、国産相当品の品質レベルに追いつくには、10年掛けても無理と診た。確かに我が国製造業の引退・リストラ技術者を取り込み、品質管理を徹底している中国メーカが出してくる正規ルートの製品は、それなりに信頼が置けそうな物も僅かながらあった。しかしこの場合でも、NG品が廃棄されずに横流しされ、これらが購買品に混ざる危険性を排除できず、採用の判断をできなかった例もあった。

自動車用を始めとする機械部品も同様だ。我が国製造業による管理の下、我が国製造業の図面で作成された物は、輸入時点で当然問題を生じないのだが、我が国製造業の管理が入れない場合には、極めてその信頼度は低くなる。

韓国の部品メーカなら、その様なことはないだろうという声も出よう。しかしこれまで私が、支援先で経験したこれら部品メーカがやらかした“悪さ”の中には、韓国メーカの事例も少なからずあった。しかも極めて確信犯的な、“悪さ”である。具体的には、ミルシートの添付を要求している使用鋼材に、全く規格外の鋼材を使い、嘘の検査報告書を付けて平気で部品納入をしてきたケースだ。

このような事例が続くと、これらの輸入部品を用いる我が国製造業は、何らかの形でその受け入れ検査態勢を、厳しくする必要に迫られる事になる。そして当然のことだが、表面的な安さに釣られ、これら部品を用いることが、決してコスト低減に結びつくわけではないことを思い知らされる。

しかし受け入れ検査を厳しくし、水際で不良品排除を行っている例はまだましだ。これらの不良部品を、うかつにも混入させてしまい、発火事故や人身事故などを、生じさせてしまったら最悪だ。この10年余り、私の目から見るとそれらしい製品事故が、国内で頻発しているように思えてならない。

以上の各例からも分るように、韓国メーカや中国メーカがまともな製品(少なくとも高品質で利益率の高い)を作ろうとしたときに、その核になる主要部品には、日本製部品、若しくは日本の技術がしっかり反映された部品をそのコアー部分に用いない限り、まともな商品として成立し得ない。要するに何らかの手段で手に入れた、日本の技術がなければ、中国や韓国の製造業は、稼げる輸出商品をつくることができないと言うことだ。

一方円高で、これらの貴重な部品や技術に対する対価を、彼らから値引き要求されたときに、押されまくられて、値引きをしてしまうような我が国製造業を、私は各所で見てきた。しかし実は、ここが極めて大きな問題である。特に我が国からしか供給できない部品や技術、さらには、製造装置などは、がんとして値引きすべきではない。彼らは高くても、これらの部品や技術がなければ、彼らが輸出して稼げる製品を作れない筈だからだ。そうすれば確実に彼らは、輸出商品の値上げを行わざるを得なくなる。

ところがここで値引きしてしまったのでは、我が国の製造業は、負のスパイラルに巻き込まれることになる。対価の値引きによる製造装置や部品メーカの収益悪化、これらを使った海外製品が、安値でマーケットに投入されることによって、我が国製品の価格競争力は著しく低下し、これらを製造する製造業の収益低下を招くことになる。このような負のスパイラルが、我が国のもの作り産業に、繰り返し襲いかかってくる事になる。これでは巧くない。

後でも述べるが、カルテルを結べとは言わないが、適性利益を逸脱した抜け駆けを犯さないような業界ルールを、官民が協力して早急に構築すべきだと考える。この措置を行うだけでも、私は円高50円を、充分に乗り切れると確信している。



グラフ2 米国における新車販売の推移(2006年2月〜2010年10月)

さてグラフ2に2006年から現在までの、米国における新車販売台数を、メーカ毎に示す。リーマンショックを経ているために、ビックスリーはその売り上げを半減させていることは周知の状況だ。

私がこの表を持ち出したのには訳がある。景気の動向で売上高に影響を受けたにしろ、高品質な我が国メーカの製品は、堅調に売れ続けているという事実を、皆さんに確認して貰いたいからだ。

ビジネス面から見たら極めて悪辣で露骨なトヨタバッシング、日本車バッシングを受け、一時的な売上ダウンは余儀なくされても、トヨタはしぶとくその売上を堅持している。ホンダ然り、ニッサンも堅調だ。現地生産が大半を占めるため円高の影響も全く感じられないと言っても良い。

一方米国勢の回復は鈍い、又様々な手を使って一時的に売上台数を稼ぎ、日本勢に迫るかと思われた韓国勢も息切れをし、好景気から続くローエンドの新車購入ユーザーマーケットからの脱却は図れていない。

これらが何を意味するかは、この後に続く話の呼び水としたいのだが、ビジネスという物は、米国のような成熟したマーケットでは、良い物を真摯且つ丁寧に売っていれば、余り大きな浮き沈みをせず堅実に続けられると言うことだ。本グラフからは省いているが、Mercedes-BenzやBMWなどのドイツ勢も、絶対台数こそ月2万台前後だが、リーマンショック以前から現在に至るまで殆ど横ばいのビジネスを成し遂げている。

今後、我が国製造業の進むべき道への私の考え方は、本コラムでも各所で述べてきた。またグラフ2でも判るように、まずは、高品質で高利益率な、他に追従を許さない製品で(突然マーケットニーズに的確に合致した)、基本的な利益を押さえるべきだと考える。狙うは、欧米を始めとする成熟したマーケットにおける、超高所得者層を除いた高・中所得者層だ。そしてこの部分は、その品質確保の意味もあり、専ら我が国で生産して輸出で賄うべきだと考える。

しかし一方これだけでは、中国を始め東アジア各国のような、躍進を続ける大きなマーケットを、指をくわえて見ていることになる。利益を追求すべき民間企業としては、ここで立ち止まって見ているだけでは、許されまい。当然何らかの手を打ち、将来への布石をも含めこのマーケットでもそれなりに稼ぐ必要がある。しかしここは、韓国勢や中国勢など特に価格面で競合が厳しいマーケットだ。中途半端な取組みでは、簡単にマーケットからはじき出されてしまう。

以下では、これらのマーケットを含め、我が国製造業が今後どのような戦略でビジネスを展開すべきなのかを考察して行く。



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