CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

我が国製造業の実力を持ってすれば、円高50円でも怖くない


    なぜなら我が国製造業が持つ技術がなければ、中国や韓国の製造業は、稼げる
    輸出商品をつくることができないからだ。 (その1)


注)本来充分に立派な製造業力(稼げる商品開発力、高品質生産力、優れた販売力など)を持っているはずなのだが、その力が充分に発揮できずに、苦境に喘いでいる我が国製造業が少なくない。そしてこのような状況に陥っている製造業は、何を為すべきかは、本ホームページの各所で述べてきた。このため本稿では、本来の力を発揮できずにいる製造業が何を為すべきかの説明を行うつもりはない。以下に私が述べる見解や方策は、これらの製造業が本来の力を発揮できる状況に、復活できていることを前提に述べて行くので、誤解なきよう注意頂きたい。

一向に円高(円一人高)傾向が改まらず、特に商社出身の財界首脳などは、盛んに政府の無策をなじっている。

しかし9月の貿易統計は、この円高真っ最中にも拘わらず7970億円もの大幅な黒字を計上した。しかも円高により厳しいとされていた自動車、造船、鉄鋼などが軒並み10%を越える伸びを示し、船舶に至っては、43.5%の伸びを示している。

リーマンショック以降、一向に良くならない国内景気に比べ輸出は堅調だった。円高で落ちこむと大騒ぎする輩もいるが、グラフ1を見て欲しい、一時的な高下はあるが、全体的には円高など全く関係なく輸出は堅調なのだ(貿易摩擦を生ずるほどの、昔あった荒稼ぎではないが)。



グラフ1 我が国の貿易収支と円ドルレート

ではなぜ我が国の経済が上向かないかと言う疑問がわいてくる。そしてその原因は、私に言わせれば、長期的視野で自社の将来を描けない、世渡りだけで上り詰めた、一部大手製造業の愚かな経営者達と、省益や自己利益しか考えていない、愚かな政治家や役人達が(今に始まったことではないが)、この最悪な手詰まりを生み出している諸悪の根元だ。

我が国製造業は、既に衰退期に入っていると言う輩がいる。しかし米国系のデルやHPが世界中を席巻したパソコンビジネスにおいては、我が国の製造業が作り出す、高性能・高品質のハードディスクや、様々な電子部品がそれを支えた。また韓国製に美味しいところを奪われてしまった感がある半導体や液晶のビジネスも、我が国の装置メーカが作り出す製造装置がなければ、現在の成功はあり得ない。

上記例に限らず、本コラムの各所で紹介しているように、トップグループを走る我が国製造業の底力は、世の中で思われている以上に強力だ。

一方韓国や中国の製造業の現状はどのようなレベルにあるかだが、これまで私が様々な場面で把握した彼らの総合力を、私の独断と偏見で定量的に評価すると、我が国製造業を10点としたときに、韓国は4点、中国は1点以下の評価しかできない。但し低価格且つほどほど品質のマーケットカテゴリーでは、韓国のサムソン、ヒュンダイなどは、その実績からも我が国製造業を凌駕している可能性もある。

ではどのような根拠から上記評価を下したかだが、私はその信条面から、彼らへの直接のサポートは極力避けている。なぜなら私は、長年我が国の製造業の皆さんの企業機密の奥底にまで入り込んでの支援を行ってきた。そしてその業務を通じて集積された、膨大なノウハウが私どもには存在する(多くは私の頭の中だが)。これらのノウハウが流出することを恐れるからだ。その流出を冒すリスクを、最小限に抑えようという意図だ。

このような状況下でも、私としては全く乗り気にならないのだが、やむを得ず韓国や中国企業の相談に乗らざるを得ない場面が少なからず生ずる。中にはアポ無しで私の事務所に押しかけてくる例さえあった。当然機密漏洩のリスクをさけ、事務所には入れず、近所のホテルの会議室を確保させるのだが、彼らの厚かましさと押しの強さには辟易とする。

また私がこれまで支援してきた国内製造業の多くは、何らかの形で韓国や中国のメーカとのつきあいがある。このようなケースでは、否応なく彼らと接触を持たざるを得ない場面も少なからずあった。

そして上記評価点は、このような私の経験からの最新の情報と理解頂きたい。

なお私がここで言う総合力とは、企画・開発・製造・販売の一連のプロセスを、より的確に遂行できるか否かを基準にしている。当然稼げる商品開発や販売も含めての話だ。

さて、上記評価に対して、「そんなはずは?」と訝る向きもあろう。確かに目に見える製品性能や収益状況、さらには新興マーケットでその成長状況を診ると「そんなはずは?」と言う疑問は当然だ。

現に中国マーケットを始め東アジア他新興諸国での我が国製造業の劣勢は、家電はもとより、AV製品や携帯電話などでも顕著である。「我が国製造業は総負けではないか!」、と言う見方である。私もこの総負け状態は、否定しない。しかしこの総負けに至った原因は、我が国の家電・電器業界がこれらの新興マーケットを読み誤った結果以外の何物でもなく、我が国製造業の力が決して負けていると言うことではない。

例えば、建設機械業界を見て欲しい、中国勢はもとより韓国勢に比べても圧倒的に価格面では劣勢に立たされているにも関わらず、コマツや日立建機などは中国から膨大な利益を生み出している。自動車業界も然りだ、様々な政治的制約や非合法的阻害要因が、陰に陽に存在するのにも拘わらず、その中国でさえ売上は好調だ。今に始まったことではないが、東南アジアを始め世界中でそのマーケットシェアーは揺るぎない物になっている。

しかし私は、これらの製品も立派だと評価はするが、それよりもこれらの製品を生み出す部品や製造装置などの産業材を製造する我が国製造業に極めて高い評価を下している。

例えば富士通を始めとする高品質なハードディスクほか難しさを要求される電子部品が我が国製造業から的確に供給されなかったら、デルやHPのビジネスモデルは、成立できなかったはずである。

さらに液晶製造装置を筆頭に、各種工作機械など物づくりを高品質に行うための道具は、日本製がその殆どを占める。品質を度外視すれば現地製品でも間に合うが、まともな品質を得ようとしたとき、20年落ちの中古日本製の方が勝っている事実は周知のことだろう。



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