CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

人材育成に直ぐ取り組みたいがお金がない



■質問■

<前略>

毎年、目を見張る視点で提言をなされておられる、先生の年頭所感を今年も拝読し、全く御説の通りだと納得しております。そしてこれまでの我々の取組は、結果としてですが、まさに先生にご指摘された通りの状況に陥っている事実も否定しようがありません。様々な言訳はありますが、企業経営者としての結果責任という点からは、反論の余地はございません。

さて、面識もない先生に藪から棒なお問い合わせをさせて頂きましたのは、人材育成につきましてご相談を申し上げたく、失礼も顧みずお問い合わせをさせて頂いた次第です。

実は弊社では、先生も急務とおっしゃられている人材育成を、昨年秋口より模索しており、最短で真に戦闘力を持った技術集団に、弊社社員達を育てる方法を、先生の同業者も含め様々な方々にご相談を申し上げて参りました。

しかし残念ながら、皆さん能書きは立派なことを申されるのですが、どうも実地の経験を持たないようで、当方の腹にすっきりと落ちるような、ツボにはまったお話が頂けませんで、新年を迎えてしまいました。そしてその悶々とした気分の中、お屠蘇冷ましに眺めていたインターネットで、吾が意を得たりの先生の御提言に遭遇した次第です。

先生の年頭所感は、例年楽しみに拝読させて頂いておりましたので、パソコンの前に座って間もなく先生の御提言を拝読でき「今年は春から縁起が良いわい!」と、先生のホームページを3時間余り拝読させて頂く事となってしまいました。

しかし先生の様々な御意見を拝読してゆく内、強い不安を感ずるようになって参りました。弊社の現状は、あえて目を瞑っていたのですが、人材育成だけで済む話ではない事を再確認させられ、しかも我々が考えておりました人材育成アプローチの目論見が、適切な方法では無いのではないかという不安です。

そこで先生にご相談ですが、近日中にご来社頂き、弊社の状況をご覧頂いた上、先生がお考えになられる最適な指針を、私共にご指導賜りたいと考えております。しかし弊社もこの大不況の中、使える予算に限りがあり、何日も掛けじっくり弊社の現状を把握頂いて、その結果を持って御指針を賜るのは、恐らく厳しい状況にあります。つきましては、可能な限り廉価で、可能な限り短時間でご指針を賜る方法はございませんでしょうか。

またこれまで弊社で殆ど何もできてこなかったと言うことは、御指針を賜った後の実地の取組においても我々独自での取組では、実効ある取組は困難が予想され、かといって先生に逐一ご指導を仰ぐのも予算面で不可能な状況で、この面からも何か良い方法はございませんでしょうか。

<後略>

■回答■

とても難しいお問い合わせで、返答に窮しております。

添付致します、弊社のコンサルティングパッケージリストをご覧頂きたいのですが、お問い合わせ頂きました内容に則す、私どもでご用意致しております最も廉価なコンサルティングパッケージは、消費税・旅費別で60万円のコースがございます。

内容的には、私が貴社におじゃまさせて頂き、2〜3時間程度皆さんのお話をうかがった上、その場で指針を含めたコメントを差し上げる内容です。しかしこのコースは、年頭所感でも取り上げました、各企業の部門長などが目論む、アリバイ作り的な取組に際して、やむを得ず対応するために用意しているコースであり、はっきり申して成果は全く期待できないとご理解下さい。

しかも「人材育成だけで済む話ではない事を再確認させられ、しかも我々が考えておりました人材育成アプローチの目論見が、適切な方法では無いのではないかという不安です。」とお感じになられていると言うことは、貴社の状況にかなり根の深い問題点があり、そこの所を的確に探り出し、効果的な手当を行ってやらないと、中途半端や的はずれな取組では、その努力が水泡に帰す危険性を感じます。

インターネット上で収集した貴事業部署の規模から判断致しますと、本来なら、最低でもお手軽診断コースのCコース、予備診断1日、本診断6日、報告1日の960万円のコースが必要と考えます。過去私の経験した皆さんと類似した業種の、某社の貴部署類似事業部署の診断では、予備診断2日、本診断10日、報告1.5日で1800万円余り(消費税・旅費別)を掛けた診断を実施致しております。しかも人材育成面では、どうしても育てたいメンバーの持つ素養や、現状のポテンシャルを把握する必要があり、追加で同額以上の人材及び技術の棚卸し作業を実施しております。

ご質問頂きましたような取組は、スタート時点でしっかりとした現状把握と、的確な改革・改善施策の立案が必須です。それが無く、中途半端な状態でスタートし、“当たるも八卦・当たらぬも八卦”の様な取組では、まさに私が申す“アリバイ作り”の取組であり、単なる時間と費用の浪費にしか過ぎない取組に陥ってしまうことは必定な訳で、ここのところを良く考え直して頂く必要があると思います。

さらに「御指針を賜った後の実地の取組においても我々独自での取組では、実効ある取組は困難が予想され・・・」も全くその通りであり、私の示した指針や改革施行案があったとしても、このような取組に全く経験がない皆さんが、独自で事を進めることは極めて困難な筈です。実際に診断を実施してみないと何とも言えませんが、やはり初年度は2000万程度、2,3年目は1000万程度をお掛けになられ、私どもを活用頂く策が現実的だと考えます。

18年に渡る長い私のコンサル経験の中では、過去に少なからずこのような取組形態を経験しておりますが、全てが途中で躓いております。そしてそれらは、私に改めて支援を求めてくるケースと、頓挫したままのケース(殆どで、社内的には成功裏に完結できたことになっているが)の2パターンに分かれますが、いずれも得策ではない選択と考えます。また私のコンサルスタイルは、皆さんの中に入り、一緒になって物事を解決してゆくところに強みがあり、能書きだけの大手コンサルタント達と大きく相違している強みです。手前味噌ですが、この強みをご活用頂かないなど、極めてもったいない話だと考えます。

ですから冷たいお答えになりますが、費用面から積極的な取組ができないのなら、私にその一端を依頼されるのは、おやめになられた方が良いと思います。私も責任を持ったご支援を申し上げることができませんので、最初に申した60万円のコース以外は、お受けするつもりはありません。

一方、費用的にはそれなりに必要ですが、私の“現状診断”を受診された場合、今皆さんを消極的にしている費用が、短期間で捻出できる可能性があります。異なる文化で育った第三者の目で見ると、皆さんが当たり前で必要不可欠だなど思っている部分に、大きな無駄が存在する可能性があります。そして、即座に改善できるような無駄が決して少なくないはずです。これは160件を超える様々な製造業で現状診断を行い、数多くの改革を実地で成し遂げてきた私の経験から言えることで、貴社の現状が乾いた雑巾を絞り尽したレベルでの、徹底した無駄の排除を行っていない限り、私へのコンサル費用など簡単に捻出できる筈です。

尚補足ですが、“人材育成”もそうですが、私が提唱致しておりますような“フロントローディング設計”実現などは、大きな無駄を根本から省いて行くと言う意味では、極めて大きな効果を持つ取組ですが、即効性はありません。当面の費用捻出での無駄とは、“第三者の目で見た、皆さんが当たり前で必要不可欠だなどと思っていた無駄”、を指しております。

例えば、皆さんが私に期待する診断範囲と全く異なる分野での、大幅無駄削減などが挙げられます。過去の典型的な具体例として、機械加工現場のチャックのメンテナンスの頻度を上げ管理を徹底することにより、軸のずれを恐れて重切削を避けていた加工時間を大幅に短縮する事ができ、又加工不良が大幅に減少できる様になったケースがあります。メンテナンスの頻度を上げるという、コストダウンに反するアクションの結果、生産性と歩留まりの大幅向上というメリットを得て、年間億単位のコスト削減に結びついております。

本例などは、本来なら生産技術や品質管理のスタッフが、広い視野に立って鳥瞰的にデータと事象を読んでいれば、容易に気づく話の筈ですが、案外できていないのが多くの製造業の実態です。要するに、チャックのメンテナンスコストの最適化、切削加工の最適化、品質歩留まりの最適化などそれぞれは、セオリーに従い満点に近い形で管理できていたのですが、全体最適化という視点が欠落していたと言うことです。しかし私の行う診断では、様々な切り口から商品開発・物作り・販売に至るまでの現場診断を行いますので、既成概念を越えたこのような問題点が、鳥瞰的に見えて来る訳です。

極めつきは、今では当たり前になってきた営業車両のレンタカー移行例でしょう。社名やロゴ入りの営業車に拘り、リースにしていた営業車の殆どを止めさせ(その時点での全車両の稼働状況を調べ、当然コスト以外の様々な配慮点を考慮した上、自社保有やリースが有利と判断した場合には残して)、廃止台数分プラスαのロゴと社名のマグネットシートを用意の上、レンタカーに移行させた例です。結果、全社の車両経費を半額以下に削減でき、私へのコンサル料の何十倍もの経費削減に結びつきました。

普段は燃費の良いリッタークラスの乗用車、荷物の量によりライトバン、ワゴン車、トラックを自在に使い分けることができ、“わ”ナンバーも言わなければ気づかれないそうで、乗り心地や運動性能の低いライトバンから乗用車に変わったことで、かえって営業マン達には大好評です。冷静になって、全体最適化の視点で考えれば誰でも思いつく話の筈です。

これからの厳しい企業競争を勝ち残ってゆくポイントは、苦しいからと言って萎縮し、どんどん内向きになり、自分で自分の首を絞めてしまうような、ネガティブな取組ではなく、常にポジティブに知恵を絞り、発想を転換し(当然思いつきではなく論理的に)、その結果大きく無駄を省き、そこから捻出できた原資を、積極的に優先順位の高い取組に投下し、他社に先駆け強い企業体質を築きあげてゆく姿勢です。新年早々の苦言になりますが、**さん、良くお考え直しください。