CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

しっかりした商品企画ルールがあるのにもかかわらず開発段階で仕様変更が度重なり、一向に開発効率がよくならない


■質問■

<前略>

弊社には30年以上前に確立され、その後マーケット情勢が変わる都度、見直しをかけてきた商品開発のルールがあります。ところがバブル崩壊以来このルールに従って、齟齬なく、練りあげたはずの開発仕様が、その開発途上で競合製品などと比べ競争力が弱いなどとされ、その仕様変更を行わざるを得ない場面が頻繁に生じております。

当然のこととして、ルールそのものに問題があるのではという話になり、たびたび見直しを行うのですが、一向によくなりません。またルールとしてはどう見ても問題がないという見解が、ほとんどの関係者から聞こえてきます。

そこで、過去10年にわたって行われた、開発途上における仕様変更の原因を分析してみると、それぞれの部署にはそれぞれの言訳がありますが、市場動向が十分把握できていなかった、仕様決定段階での製造原価の読みが甘かった、仕様決定段階での越えなければならない技術課題への読みが甘かったなどがその代表的な原因でした。

この結果、設計者達からは悲鳴にも似た不満上がり、また製造サイドからも「設計に負担が掛かりすぎでは」との声があがっております。さらに始末が悪いのは課長クラス以下設計の実戦部隊の士気低下が著しく、技術的に出来そうもないことに、良く考えずに取り組み、平気でいつまでもずるずるとかかわっていたり、問題を引き起こしても責任を感ずるのでもなくトライ&エラーを繰り返し、その結果、納期が守れなくても「どうせ最初からできっこない計画だ!」とうそぶく始末です。

先生は各所で製品開発の短縮化を成功されているようですが、弊社がどうしても乗り越えることが出来ずに壁に突き当たってしまっている、製品開発途上における開発仕様変更の問題をどのように乗り越えておられるのでしょう。

<後略>

■回答■

一般に商品企画の質の低さは、商品開発部隊の生産性を大幅に損ないます。また多くの場合、担当する設計者たちのモチベーションやモラル低下を起す重大な問題です。

一方貴社の商品企画は、御説によれば極めて緻密な商品企画ルールに則って行われている、完璧に近い状態で行われているということですが、そのアウトプットは必ずしも質の高い商品企画ではないようです(結果として)。

貴社の状況を十分に把握しているわけではありませんので、断定的には申せませんが、貴社に劣らないルールを持つ我が国の勝ち組企業は少なくありません。そしてこれらの企業は、世界マーケットに向けて、極めて高い競争力を持つ商品を投入し続けております。

私の経験から推察するに、貴社ではこのルールを大義名分とした各部門の責任逃れが行われてはおりませんか?杓子定規の運用がなされておりませんか?先に挙げた企業では、私の知る限りでは、必ずしもそのルールが厳密に運用されているとは限りません。ここが恐らく貴社と違う所です。

一般に商品企画は、ガチガチに固めたルールだけで質の高い結果を得ようとしても、極めて難しい取り組みのはずです。的確に市場の将来を読み取る洞察力があり、的確且つ旬な顧客ニーズの把握が出来る能力があり、的確且つ謙虚に自分たちの開発能力を把握出来る能力があり、さらにその商品企画案が所定のコストや品質で生産できる生産能力を把握できる能力があることが必須であり、その上でこれらをふまえた冷静な判断を下せることがまず全ての大前提になるはずです。

そして究極の開発効率UPの秘訣は、その開発途上で一切の開発仕様変更を行わせないことです。開発途上で行う開発仕様の変更は、ある意味設計作業を振り出しに戻す行為です。出図納期が変わらずに、大幅な開発仕様の変更などは、設計者たちにいわせれば「ふざけるな」ということでしょう。貴社ではすでに「ふざけるな」の発言がでないまでに、設計者たちのモチベーションが落ちているということでしょう。

一方、開発途上にその仕様変更をさせないといっても、市場に出して競争力を持たない商品開発では意味を持ちません。無駄な費用と人力(能力)と時間を浪費するにしか、過ぎないことになります。このためには、上記前提に則って、完璧な商品企画、開発仕様を作り上げる必要があるわけで、ここが恐らくご質問に対する回答のポイントになると思います。

このような観点でみたとき貴社の状況は、この辺りに極めてお寒い状況が垣間見られます。

・市場ニーズ・動向の把握が十分でないから開発途上で仕様変更を必要とするのではないですか?
・ 恐らく開発した商品が市場にマッチせず、不採算な開発になっているケースもたくさんあるのではないですか?
・ 元々持っていない技術を開発しなければ開発仕様を満足出来ない開発にチャレンジして、
  その結果納期遅れどころか品質問題を引き起こしておりませんか?
・ 能力を超えた原価要求をして、結果赤字で出荷している商品はありませんか?
・ 他たくさん

そしてこのような問題を解消するために、私どもはフィジビリティースタディーという手法を提唱しております。

この手法については、一昨年から昨年にかけて日刊工業新聞社の機械設計誌に行った連載の中に詳しく説明があります。また本年3月3日4日大宮ソニックシティーで行う私どものセミナーでは、詳しくこのあたりにふれます。是非ご参考にしてください。