<前略>
先生の機械設計の連載記事を拝読してフロントローディング設計にチャレンジしようとしております。しかし弊社の体質では、開発仕様決定段階での追い込みが甘く、開発を行う都度ダラダラと仕様変更が行われ、結果としてこのダラダラが開発期間の短縮に大きな障害となっております。
先生の著書によれば、“究極のフロントローディングは、開発途上で開発仕様の変更を起こさないこと”とありますが、これまで先生が手がけられた事例で本当にこのような態勢に持ち込めた所があるのでしょうか。
<後略>
ハイございます。
そしてこの究極のフロントローディングを実現するための、開発途上で開発仕様の変更を起こさせない手段として、これらの製造業に私は、FS(フィジビリティースタディ)の徹底実施を要求して参りました。
FS(フィジビリティースタディ)は、商品開発(シリーズ開発)に際して、その実現性を確認する取組です。本当に妥当性を持った商品開発なのか、本当に実現出来る商品開発なのかを確認する取組です。妥当性に乏しかったり、実現性が乏しい開発仕様では、当然のこととして、その開発途上で開発仕様の変更が余儀なくされるからです。
さらに詳しく言えば、その商品企画内容で本当に売るべきマーケットがあるのか、売れるとしたらどれだけ売れるのか、原価は幾らにすれば稼げるのか、その原価は自分たちの能力で本当に実現できるのか、そしてその結果本当に稼げるか。さらにその開発仕様は、その計画開発期間で開発できるのか(手持ちの技術で、手駒で、設備等)、開発した製品が本当に作れ、所定量を安定供給できるのか(手持ちの技術で、手駒で、設備で、調達先等)等を、開発スタート前に定量的な根拠を持って確認する作業を、私はFS(フィジビリティースタディ)と位置づけております。
これまで私が行った160件を超える商品開発部署に対する現状診断では、このような検証を行う文化やしきたりは無い(建前上のFSと言う言葉はあっても実質的に)ケースが極めて多かったと記憶致します。
確かに開発会議という場はその殆どにあるのですが、上記したような徹底した検証作業とは全く別物の会議体のケースがその殆どでした。「偉い人たちだけで、到底無理なのにも拘わらず、辻褄合わせだけの仕様や計画作りをしている」との発言が聞かれた製造業も少なくはありませんでした。
そしてその結果、先も見えていない技術アイテムや顧客受けできるか否かも分からない無理な開発仕様に対して、そのために必要となる技術開発を行いながらの商品開発を、極めてタイトな日程で突入していると言う実態がその殆どと言えるでしょう。
一方“勝ち組”に分類される製造業の多くでは、私の知る限りでは“先行技術の仕込み”や、“FS(フィジビリティースタディ=実現可能性確認・予備調査)”などがしっかり行われておりました。
例えば戦略的に使えるだろう顧客要求仕様に対して、既に仕込みの終わって(目処が立って)いる技術の中から、最も適した複数の技術をまず選び出し、そしてこれらの技術を組み合わせて、本当に顧客が要求する“物”が出来るか否かを検証する流れです。
その検証には、関係者が集まっての“ブレーンストーミング”から始まり、CAEのシミュレーション技術を駆使する場合、原理試作モデルでの実験アプローチを主体とする場合などそのアプローチ方法は千差万別です。
ただし、単なる“ブレーンストーミング”だけだと、声の大きい、立場の強い人の意見に議論が引っ張られたり、根拠の無い水掛け論が交わされたりで、結論が出ない単なる時間の無駄遣いに陥る恐れが少なくありません。
そこで私が関わるケースでは、“フロントローディング設計アプローチ手法“や”DPD手法“を採用頂き、物を作らずとも、短期間でフィジビリティースタディを仕上げる取組を取っております。