CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

フロントローディング設計が実現できるCAE活用術(その7)



(7月14日に戻る)

第1章 フロントローディング設計とCAE

アプローチ1 現物から特性&傾向を読みとる⇒統計的手法(例えば実験計画法)

とにかく物を作って考えようの悪い意味での現物主義「“作って”“壊して”“考えよう”」は、多くの製造業が抱える問題だ。そして解っているのだけれどなかなか手が付けられない問題でもある。

40年前なら、重機械の一部業種を除き、我が国製造業のほとんどが取っていた商品の開発スタイルである。しかし時代とともに多くの製造業は問題を事前に予見・予測する、商品開発方法へとそのスタイルを改めてきた。

その初期の波はTQC に代表される統計的品質管理手法の導入であろう。デミング賞やN 賞の取得を目指し、我が国を代表する大手製造業が、その品質管理の状態を競ったのが30年前のことである。

元々統計的品質管理の手法は、第2次世界大戦の敗戦で、誰の目からもその差が明らかになった、米国製造業と我が国製造業の違いを追求したところに起源がある。そしてその決定的な差は、“品質管理”の差であることに気づき、当時米国では無名であった 品質管理の専門家、Dr.デミングを招聘したことが我が国での統計的品質管理の始まりである。

そしてこの統計的品質管理は、TQC の中で、20年ほど前よりもてはやされている、コンカレントエンジニアリングや品質工学(田口メソッド)、QFD(品質機能展開)など、商品開発部分での活用方法があみだされ、多くの製造業での商品開発ツールとしての活用がなされている。

この統計的品質管理手法を巧く用いると、すでにある物からその商品が持つ特性を定量的な数値データとして把握する事が出来る。この手法で設計対象機械の原理・原則まで追い込む事は無理にしても、その機械を構成する各要素の寸法的なパラメータが振れた場合に、その影響が機械特性としてどのように現われるか等は、容易に把握する事が出来る。

例えば冷却ファンの使用条件と機械騒音の関係など、何系列か試作部品を用意し、何度かの実験さえ行なってやれば、その相関性などを容易に把握する事が出来る。

このようにして数値的に把握できた、設計対象機械を構成する各種パラメータと、その性能特性との関係を、その商品開発の中にうまく適用する事で、設計品質を画期的に向上させる事が出来るようになる。特にこれらを駆使して、対象の商品に起こるであろう問題を未然に予測して、“手戻り”“後戻り”の無い(少ない)開発ができるようになるとその効果は絶大な物となる。

又昨今の計測技術の進歩には、めざましい物がある。従来なら極めて難しい計測内容であった、高速で運動や振動を行う物体挙動、高速なメカの挙動、流体の流れ、リアルタイムで変化する温度分布などは、高速度カメラやサーモビューアなどを駆使すると容易に取得できるようになった。これ以外にも様々な新鋭計測技術がある。

上で述べた統計的品質管理手法の一つである実験計画法などは、これらの実挙動が容易に計測できないようなメカ現象や物理挙動を、統計手法を用いて解明しようとした手法だ。

押さえようとする観測値に対して、影響を与えるであろう固有技術で抽出した因子のパラメータを振って、その特性を把握する手法である。極めて面倒くさいアプローチでもある。

また固有技術で抽出する因子もくせ者で、往々にして“的はずれ”を起こす。様々な設計部署を担う優秀なベテラン設計者でさえも“的はずれ”なミスをたまには犯す。そして普通の設計者達が選び出す因子がどの程度かは、説明しなくても類推できよう。

ところが最新鋭の計測技術は、一気に挙動そのものが把握できる。影響を与えるであろう因子のパラメータを振ってみる場合でも、即座にその結果を実際のメカ挙動として読みとれる。この技術とCAE等のシミュレーション技術を巧く組み合わすと、対象機械の原理原則の解明も容易に出来るようになった。



(7月28日に続く)