CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

フロントローディング設計が実現できるCAE活用術(その3)



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第1章 フロントローディング設計とCAE

フロントローディング設計(開発)導入で得られた成果
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図4 A社におけるフロントローディング開発(設計)導入の投資対効果@


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図5 A社におけるフロントローディング開発(設計)導入の投資対効果A


図4,5に示す事例は、筆者が長年手がけているA社で行った、フロントローディング設計導入開始時から10年後までの金額的な損益推移である。開発対象になった製品は、産業材のメカトロ製品で、その商品特性にメカ部分の要素もかなり大きな割合で占めるような製品である。従来の平均開発期間は平均約2年掛かっていた。

図4は、投資金額と削減効果金額の対比図である。投資金額をマイナスで、効果金額をプラスに、投資金額はマイナスに表してある。

取組開始1〜4年目迄は準備期間(3年間で1機種開発)とチャレンジ期間(1年間で1機種開発)であり、費用が発生しているのみである。当然この間も上記括弧内のように製品開発を行っているので、準備期間中の人材育成費には実際に開発設計に費やした工数も含まれている。

結果的には、1998年より開発工数の大幅削減による効果が具体的に現われ始めて、2000年にはフロントローディング開発手法の水平展開を5機種に増やしたために、さらに5倍余りの開発工数の削減効果を得ている。

2002年以降は年平均10機種のモデルチェンジ全てに適用されたため、削減効果は一定となっている(厳密には年度ごとのバラツキがあるが、データ提供元のA社より「以降のデータは一定にしろと」の指示を受けているため図4の内容となっている)。

尚削減効果は、フロントローディング開発導入前の一機種平均値から、該当機種の実績値を引いた結果である。クレーム対策費他も同様の値を採っている。

この取組を行った結果、筆者達もその効果を机上の空論としてではなく、実際の数字として実感させられた物に、クレーム対策費の大幅削減がある。開発期間を半減できているので(後で具体的に述べるが)、開発費用の大幅削減は当然の物として予測していたのだが、手法の水平展開が済んだ時点でクレーム対策費がこれだけ大きく削減できるとは予測はしていなかった(理論的にはあり得る程度の認識だった)。

要するにフロントローディング開発の徹底は、当然と言えば当然だが、設計品質を大幅に向上させたのだ。設計品質を大幅に向上させたと言うことは、商品出荷後発生する問題を大幅に削減させたと言うことである。

因みに取組に入る前のA社が支出するクレーム対策費は、筆者がこれまで診断を行った他の製造業に比べたら、それほど大きな物ではなかった(元々設計品質が高かったため)。クレーム対策費用が利益を食い潰しているような、昨今の大手製造業には、この手法は画期的な手法であるはずだ。

さらに図5に示す効果の推移は、対象機種の収益増額を合計した物である。2002年まで急激に収益が向上している。2003年以降鋼材価格高騰や競合機の値下げなどの影響を受けて頭打ちの状況になってしまってはいるが、充分に利益を生み出している。

これは、開発仕様決定段階でマーケットを徹底的に読み、顧客が求める開発仕様に落とし込んだことによる(フィジビリティースタディ・・・フロントローディング開発における初期段階での取組)、大幅な売り上げ増があったからだ。

投資金額については、図4で示した同数値のスケールを換えた物だ。A社はフロントローディング開発導入に取り組んで、如何に大きな利益を得たかがこの図から理解頂けよう。

余談だが、人件費削減を狙ってこぞって中国に工場移転をしようとする製造業に、筆者が2000年当時から盛んに批判的な声を上げ始めていたのは、この成果を受けた結果である。

要するに開発費の大幅削減と設計品質の向上を実現できれば、それまで膨大な無駄を生んでいた開発費とクレーム費を大幅に削減でき、中国に進出して得られる人件費分などは、余裕を持って埋め合わすことが出来たためだ。



(6月30日に続く)