CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

有泉徹の年頭所感2017(その3)



(1月13日に戻る)

トランプ流人事から読み解く国際社会及び我が国への影響(3)

我が国製造業が直接影響を受けるであろうトランプ政権の閣僚は以上であるが、それ以外にも間接的に我が国製造業に関わって来るであろう閣僚と、対日政策への影響を予測してゆく。

まずは「世界の警察官を止める」宣言をしているトランプを支える軍事関係のメンバーを見てみる。

特に大きく影響を持つのは、国家安全保障担当大統領補佐官に選ばれたマイケル・フリンだ。彼は今回の大統領選挙に置いてトランプの軍事顧問として、彼の軍事に関する発言を支えた。

マイケル・フリンは、ロードアイランド大学の理学部を卒業後陸軍に入り、情報畑を歩み陸軍中将・国防情報局長(2012〜2014年)を務めた人間である。

昨年(2016年)夏には「The Field of Fight: How We Can Win the Global War Against Radical Islam and Its Allies」という本を個人的に親しいマイケル・リーディンと出している。この本では、イスラム過激派、反米反イスラエル国家(イラン、北朝鮮など)への強硬姿勢を示している。また選挙戦のさなか「イスラム教は宗教の名を借りた政治的イデオロギーだ」「癌だ」とまで言い切っている。

アフガン戦争やイラク戦争の従軍経験から来るイスラム嫌悪の結果なのかもしれないが、トランプ政権の対イスラム政策がかなり過激な物になるのではないかと危惧される。

またフリンが国防総省に在籍していた時「フリン・ファクト」と言う言葉がはやったらしい。真実に基づかない彼の発言に対してだ。この面からも対イスラム政策で、馬鹿な行動を起こさないか危惧している。

「世界の警察官は止めたから、ISはロシアに任せた」とイスラムから手を引いてくれればよいのだが、「第2次イラク侵攻」や「イラン侵攻」等を画策されたら、恐らく我が国にもマイナスな大きな負担が掛かってくる危険性がある。

一方、一つの中国を否定的に切り捨てる気配のあるトランプ政権の、対アジア戦略がどのような方向に向かうのかは、マイケル・フリンと海兵隊出身の国防長官ジェームス・マティスが、米国の世界戦略のウエイトを何処に置くかにかかっている。

我が国にとって最良のシナリオは、南シナ海問題を含め、徹底的に中国対峙をして、世界の警察官の役割を果たしてくれることであり、最悪のシナリオは「バックアップはするからアジアは日本に任せた」と言われることであろう。

軍事メンバーではないが、NCT(国家通商会議)の議長に選ばれたピーター・ナバロは、徹底した対中強硬論者であり、台湾重用論者でもあるので、トランプ政権として東アジアの軍事的安定を我が国に任せたとはならないだろうという期待はしている。

注1)
マイケル・リーディンはガチガチのネオコン(新保守主義)と言われる人物で、ブッシュ政権で国防次官を務めたダグラス・ファイスのアドバイザーを務めていた。イラク侵攻に際して、フセインとアルカイダが密接に繋がっているとして、イラク侵攻を強く画策した人物として知られる。



国防長官には「Mad Dog」「戦う修道士」等の異名を持つ元海兵隊中央軍司令官(海兵隊大将)ジェームス・マティスを指名した。組織として「Mad Dog」な海兵隊出身者がこれまで国防長官に就いた例がないので、ある意味驚異的な人事だ。

ジェームス・マティスはセントラル・ワシントン大学を卒業後海兵隊に入り、海兵隊少尉からたたき上げた生粋の軍人である。海兵隊大隊長(中佐)として湾岸戦争に参戦、アフガン戦争では、第一海兵遠征旅団指揮官(准将)、イラク戦争では、第一海兵師団指揮官(少将)として参戦している。

2010年には、オバマ政権下で中央軍司令官に就任したが、イランに対する核合意に反対して2013年に解任されている。

マティスは、「世界の警察官」を止めると言い切るトランプと異なり、米国孤立主義には反対している立場であり、「アメリカは今後も世界に関わってゆくべきだ」とまで発言している。

国家安全保障担当大統領補佐官に選ばれたマイケル・フリンもこれまでの発言を見る限り「世界の警察官」を止める考えはないようであり、トランプ自身も対IS(イスラム国)殲滅との発言をしており、対イスラムではジェームス・マティス指揮の下「世界の警察官」を果たすであろう。

しかし対中国で同じ役割を果たそうとするかは、甚だ疑問であり、その方向性次第では、我が国にも大きく影響を与えてくると思われる。我が国に大部隊を駐留させている海兵隊出身のジェームス・マティスは、我が国及び沖縄の重要性を熟知しているはずなので、余り我が国の負担にならない方向で落ち着くことを期待したい。

またNCT(国家通商会議)の議長に選ばれたピーター・ナバロは、その著書の中で日本が中国の増強に対して取る3つのシナリオを記しており、その中では「ぶれない同盟関係」が現実的だとしており、トランプはこれらの著書に対して感激したと公言している。

注2)
参考にまで対IS政策については、CIA長官に指名されたマイク・ポンペオも対IS殲滅主義者なので、少なくともこの面ではぶれは起こらないだろう。


注3)
3つのシナリオとは「日本核武装」シナリオ、「中国に乗り換える」シナリオ、「ぶれない同盟関係」を挙げ、米国にとって「ぶれない同盟関係」が最も有利だと結論付けている。





(1月27日に続く)