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有泉徹の年頭所感2017(その2)



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トランプ流人事から読み解く国際社会及び我が国への影響(2)

財務長官には元ゴールドマン・サックスのスティーブ・ムニューチンが指名された。大統領選における資金管理統括を務めた人物だ。またヘッジファンドの草分けである、ジョージ・ソロスの下で働いたこともある米金融界生え抜きのエリートである。

トランプは、選挙期間中スティーブ・ムニューチンの師であるジョージ・ソロスや、かつて共同経営者として在籍したゴールドマンサックスを、現在率いているロイド・C・ブランクファインを、米国民を貧しくした元凶であるグローバル・ガバナンスの中枢として、強く攻撃をしていたことを考えると躊躇いを感じざるを得ない面もある。

しかし総じて反トランプであった米金融界の中から、ただ一人トランプ支持に回ったスティーブ・ムニューチンの考え方と、トランプの考え方の中に、何か相通ずる点があったのかもしれない。

また映画制作者として「アバター」や「ゼロ・グラビティー」等のヒット作を手がけており、ただ金の亡者として自己の利益のみを追求するグローバル・ガバナンス推進者達とは、何か一線を画しているのかもしれない。

何れにしろトランプの意向を受けて、積極的な国内巨額インフラ投資や法人税大幅減税、金融緩和などに取り組むことは必定である。この結果米国景気が大幅に上昇すれば、我が国製造業にとっては嬉しい話だと言える。

しかし警戒しなければいけないのは、後で詳しく述べるが、新設のNCT(国家通商会議)の議長に選ばれたピーター・ナバロの存在だ。ナバロは中国の貿易不正(輸出補助金など)、知的所有権盗用、為替操作を強く非難しており、トランプ政権の対中政策に、これらの考え方が強く反映されることは必定で、その余波が我が国の金融政策に及ぶのではないかの危惧である。

何れにしろ、不動産屋としてのビジネスマンの経験しか持たないトランプに取ってスティーブ・ムニューチンは、広い業界を見てきたまともな金融マンでありビジネスマンである。我が国にとって無茶な政策を採ってこないことを期待する。

注)グローバル・ガバナンス
国家のようにその範疇で合意を執行するような仕組(権力)が存在しないとき(国際間など)に、国境を超えた主体的政治的相互作用を指す。・・・グローバル・ガバナンスの名目で巨大国際企業がやりたい放題をしている現実だが。



我が国の製造業に取って、恐らく財務長官より影響を与えるであろう商務長官には、ウィルバー・ロスが指名された。トランプは、かつて通商問題の主役だったUSTR(米国通商代表部)を商務省の配下に置き、ウィルバー・ロスに通商政策の舵取りを任せる意向だそうだ。

ウィルバー・ロスは1961年にハーバード大学ビジネススクールのMBAを取得後、様々な証券会社や投資会社の経営に携わってきた。また米国鉄鋼業界の再編にも大きく貢献をしている。

我が国との関わりは、1997年タイヨウファンドを立上げ投資活動を開始すると共に、1999年には経営破綻した幸福銀行を買収して再建を成功させている。同ファンドは、長期的視点に立ち、優秀な技術を持つ中堅企業を見出し、強い信頼関係を築きながら経営改革を進め、長期的視点での投資回収を図る姿勢が評価されている。

また東日本大震災に際しては「日本経済は必ず立ち直る」とのメッセジをいち早く発信して、海外投資家の投資を促進させると共に、自らの基金で1、388万ドルの寄付金を被災地に届けた。

また2005年からはニューヨークのジャパン・ソサエティーの理事を務め、2010年からは会長を務めている。これらの貢献が評価され、2014年には旭日重光章を叙勲している。

トランプとの結びつきは、1990年のカジノリゾート「トランプ・タジマハール」の経営破綻である。ウィルバー・ロスは、このとき債権者側の代表としてトランプとの交渉を担っており、恐らく此処でお互いの信頼関係を築いたと思われる。

ウィルバー・ロスの通商政策は、どちらかと言えば自由貿易主義者であり、必ずしもトランプの言う米国孤立主義ではない。また過去に、日本のTPP(環太平洋経済連携協定)への参加を強く求めてきた経緯があり、TPPには参加しないというトランプやNTC議長に就いたピーター・ナバロとの調整が見物である。

しかし、大命題として米国の貿易赤字解消を強くトランプに進言しているようで、上でも挙げたが、貿易面での対中強行政策のとばっちりが、我が国に及ばないことを願うばかりである。

またTPPについては、我が国との二国間協定(FTA)にシフトするか、TPPの協定内容変更を進めてくるかは今の所読めないが、TPPを選ぶ場合は米国不参加の脅しをかけながら、自国に有利な協定内容に変更させようとする動きを間違いなく行ってくると思われる。何れにしろ、我が国製造業を守るための、我が国政権の毅然とした対応を期待したい。

一方楽観的な見方としては、我が国に不利な貿易政策を押しつけすぎると、ウィルバー・ロスが経営するタイヨウファンドは、我が国中堅製造業の株式を大量に保有しており、その利益確保と相反する関係になるため、余り思い切った手は打たないという見方も出来る。

何れにしろ、好感を持っているか否かはともかくとして、20年余りの間我が国製造業と付き合い、その強みや弱み、体質を知り尽くしているであろうウィルバー・ロスが、我が国に対して全く無知に近いトランプの言うがままに動く訳が無く、我が国製造業に取ってとても受け入れることが出来ないような政策を、打っては来ないと期待したい。

我が国への影響という意味では、上でも述べたが新設のNCT(国家通商会議)の議長に選ばれたピーター・ナバロの存在だ。

ナバロは、カルフォルニア大学アーバイン校の教授で、「中国は世界に復讐する」「米中もし戦わば」等の著書がある。

ナバロは、ブッシュ政権やオバマ政権が行ってきた、現状の景況を、短期且つ循環的な問題と捉えた経済政策を強く否定して、本当の問題は貿易不均衡から来る構造的な問題と捉えている。

特に中国の貿易不正(輸出補助金など)、知的所有権盗用、為替操作を強く非難しており、自国の製造業を守るためには高い関税をかけるべきだと唱えている。

これは保護主義ではなく、自国産業への防衛措置だとも言っている。恐らくこの考え方が、トランプ政権の対中政策に強く反映されることは必定である。

またTPPにも、「日本にとっては良くても米国の労働者や製造業にとっては良くない」という見方で常に否定的な見解を述べてきた。米国主導で米国産業界に取って都合の良い協定内容になっているのにも拘わらず、「日本にとっては良くても米国の労働者や製造業にとっては良くない」とは何を指しているのか理解に苦しむ。

彼が言う「両者に恩恵のある日本との二国間協定」等あり得るのだろうか。

殆どの工業製品の関税をゼロにして、正直且つ公平なビジネスを行っている我が国製造業に対して彼は何を求めているのであろうか。

トランプがやり玉に挙げてきた自動車メーカやコマツなどは、とうの昔に製造拠点の米国進出を果たしており、膨大な現地雇用に貢献している。ロイヤリティーが我が国に落ちるとしても、対日貿易不均衡の原因にはなっていない(メキシコで生産して輸入の問題はあるが)。

このような状況下で、工業製品の輸出入において我が国と新たに結ぶ二国間協定など、あらゆる工業製品の関税撤廃以外あるまい。

しかし関税撤廃をしたら、殆どの米国工業製品は日本では売れず、日本製品が米国市場を席巻する結果に終わるだろう。これでは新たな貿易不均衡が生じてしまう。このような現状を見たときに、何が「両者に恩恵のある日本との二国間協定」なのかが、筆者には見当が付かない。

まさか、かつての自動車のように(今でも米などの農産物ではある)、買い手のいない米国製品を、輸入枠の義務を課して、無理矢理我が国に売りつけようとしてくるのか。しかしそんな時代錯誤の無茶苦茶を、あくまでも「両者に恩恵がある」と言う前提に立つのなら決して言えまい。

一方、トランプとナバロが組んだことにより、これまで我が国が散々悩まされてきた、農産物や製造生産品以外の分野でのごり押しが弱まる期待がある。何故ならトランプの主たる支持者が貧困な白人層だからだ。ナバロの興味も貧困白人層の仕事を奪った、劣悪で安価な中国製品と中国政府だ。

トランプ支持者の中心は、巨大なピックアップトラックを乗り回す豊かな農場主達でもなく、常に世界中から金をかき集めようとする、莫大な富を持つグローバル企業の経営者や投資家達でもない。大邸宅に住み、キャタピラーのキャップを被って乗用芝刈り機を運転する、アメリカンドリームの成功者でもない。彼らが欲しいのは、適正な雇用と中流レベルの生活だ。

恐らく彼らの興味には、小麦や牛肉が売れようと売れまいと関係無いし、興味もあるまい。新薬を高価格で日本に売らなくても、医療事業が日本に進出しなくても関係も無いし、興味も無いだろう。

トランプが、自分を大統領に押し上げてくれた熱烈な支持者を切って、昔からの共和党支持者に鞍替えをしない限り、農産物や製造生産品以外の分野でのごり押しが弱まると読める(我が国製造業にとっては余り関係ないが)。



(1月20日に続く)