CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

霧散してしまった設計ノウハウを取り戻したい


■質問■

<前略>

2011年9月16日掲載の「中途採用者などの即戦力化のため、設計ノウハウも織り込んだマニュアルを作りたいが、巧く行かない」を拝読して問い合わせをさせて頂きました。

弊社でも紹介されている製造業と同様に、ベテラン設計者達が持つ設計ノウハウを、形式知化する取組に四苦八苦しております。見かけ的には良く仕上がった設計マニュアルに見えるのですが、実際の設計に適用してみますと、肝心な所でどのような設計アプローチや判断を下したらよいか分からないところがありすぎ、結局は、それぞれの設計者達が持つ経験値や感で設計を進めざるを得ない状況にあります。

そしてその結果、我々の目論見に反して、一向に設計品質が上がらず、回りくどい製品開発を相変わらず続けている始末で、先生が提唱されているフロントローディング設計など、遠い夢という状況です。

なぜこのような状況に陥ってしまったのかと、設計幹部一同色々と調べて見たのですが、これと言った原因も分からず、悶々としておりました。20年前のバブル崩壊機と最近のリーマンショック時には、確かに人材の供給量が減らされた事もありましたが、逆に就職難もあり、一流大学・院卒生の配属がなされたため、量を質でカバー出来ていると理解しており、昔よりかえって質の高い人材で、設計部門は構成されているはずですので。

しかし先生の上記頁を拝読して、この疑問が一気に解消できました。弊社でもバブル崩壊後の生き残りをかけ、30代後半から50歳代にかけてのベテラン設計者達の肩たたきを行い、大量に退職者を出しております。このような方々の中には、本当の意味での設計ノウハウを持っていた方々が大勢いたのかもしれません。しかし当時は私たちも平でしたので、どのような基準で肩たたき組が選ばれたかはよく分かりません。

いずれにしろ、結果としては上記のような状況に陥っており、早急に何らかの対策を講じないと、弊社存続の危機に陥ることは必定です。

そこでお教え頂きたいのですが、この霧散してしまった設計ノウハウを何らかの方法で取り戻す方法はありませんでしょうか。上記製造業様と同様に、実質的に「無理です!」と先生に言われてしまうのでしょうか。

<後略>

■回答■

はい、製造業が長年培ってきた“固有技術”や“継承技術”などの暗黙知を形式知化する作業は、これらを的確に会得できたベテラン設計者達が残っており、彼らが積極的に協力をしてくれないと、極めて効率の悪い作業になります。

確かに、これらのノウハウは図面や製品として残っているはずですから、これらから、現在居るメンバーで、逆追いする形で、一歩一歩形式知化してゆく方法はありますが、これらを的確に会得できたベテラン設計者達が存在しない中での作業は、極めて難しい(時間や工数的に)とお考え下さい。

まずは、バブル崩壊以降、貴社を追われた方々全員に、協力をお願いしてみたら如何ですか。貴社を追われた後、韓国や中国の企業でそのノウハウを伝え、必要なくなったら捨てられた方々が、少なからず居ると思います。中には生活に困窮している方々も居るはずです。

彼らに、丁寧にお詫びをすると共に、彼らが予想をしないような金額を、提示して見ることです。これまでの私の各所における経験では、全ては無理にしても、本当に必要なノウハウを持っている半分は、協力してくれました。

中には、交渉された設計責任者の方に極めて人望があり、退職者達にも好かれていたため、「お前の頼みなら」と、殆どの方が協力してくれた製造業もありました。

ですから貴社でも、上記した方法で取組を行おうとされる場合には、交渉責任者の選任に、十分配慮すると良いと思います。

一方、当人達が予想をしないような金額と言っても、闇雲に札びらを切るわけには、行かないと思います。しかも、誰が本当の意味での対象者になるか判からない状況で、無駄な費用を使うことはお薦めできません。

これまで私が手がけて来た事例では、旅費は実費で(当然グリーン車・一流ホテル)、1日10〜20万円の日当と言うことでお願いして貰っております。そしてこれ以外に、出来上がった内容(協力者とお願い下側とで協議して納得した価値)に従って、100万円以上の成功報酬をお払いすると言うことで、取り組んで頂きました。この成功報酬は、全てが終わってと言うことではなく、最初に取り交わした区切り毎で評価する方式を採って頂いております。

この方式ですと、役に立たない方にお願いしてしまった場合には、日当と旅費だけのロスになりますので、余り無駄が出ないはずです。一方成功報酬が出る方々は、区切り毎で大きな報酬を得ることになりますので、その続きにも積極的に取り組んで頂けました。

具体的にどのようなアプローチで行うかは、“ベテラン早期退職者が持つ固有技術を漏れなく残したい”を参照下さい。

尚蛇足ですが、ここまでの私の回答は、貴社製品を構成する機械の原理原則を、論理的且つ科学的に把握・理解して、的確に良い製品を開発し続け、貴社成長の礎になった、幾人ものスーパーエンジニアが存在していたことを前提に、お話をしております。

そのようなことは無いと思いますが、仮に、貴社の先人達の中に、このような方々が居られないような場合には、私の回答は、ある意味机上の空論となってしまい、取組は、時間と費用の浪費となってしまいます。

このような場合には、現有メンバーで、根気よく機械の原理原則を把握して、貴社製品のあるべき姿を追求し続けてゆく取組が必要となりますので、ご留意下さい。