事故発生から早一ヶ月、残念ながら、事故原因に関して正確な工学的判断を行うための、具体的な情報が殆ど出てこない。技術に弱い報道記者達が、“事故当事者”が、言い訳的に公表してくる情報を、垂れ流しにした類の情報しか、現時点では私は把握できていない。
しかし、その少ない情報の中からも、大凡の崩落メカニズムが解ってきたので、第二報として掲載する。
現時点で判明している事実
foolproof(馬鹿よけ)
foolproof(馬鹿よけ)設計の話は、前回行った。「機械設計では、仮にこのような、重量物を吊り下げなければならない構造を、選ばざるを得なかった場合には、ナットが緩んだ場合を見越し、荷重を全面的にボルトが受けないような構造(例えばブラケット同士を引っかけるような)に設計するのが普通である。」と
このようなfoolproof(馬鹿よけ)設計が成されていれば、仮にナットがゆるんでいるのを見逃しても(fool)、脱落しているのを見逃しても(fool)、今回のような大事故には至らない。
そもそもの最大の問題点は、このような、あって然るべき工学的な配慮が、基本部分で抜け落ちていることである。もしかすると世にある多くの土木構造物や建築構造物では、foolproof(馬鹿よけ)の概念が抜け落ちた設計が、当たり前になされているのだろうか。
私が考える崩落のメカニズム
さて、私が考える、今回の天井版崩壊のメカニズムだが、その発端は、ナットの緩みに起因するアンカーボルトの疲労破壊が、その起点になっていることは間違いなさそうだ。下り線で608カ所もの緩みが発見されたことでも、その可能性は高い。
天井板は、時速100キロもしくはそれを超える、大型トラックや大型バスの風圧を繰り返し受けている。特に慢性的な渋滞を抱える東名高速の、バイパス的な役割で中央高速でのこれらの通行量は多い。繰り返し高い頻度で大きな風圧を天井板は、受けてきたに違いない。
それでもナットが、しっかりと所定トルクで締められているのであれば、アンカーボルトには、引っ張りの軸力しか働かない。繰り返し受けるその荷重が、ボルトに生じる応力が、S-Nカーブにおける疲労限度内で収まるような荷重であるならば、理論的には永久にボルトは破断することはない。
しかし一度ナットが緩むと、ボルトには様々な力が加わることになる。風圧で煽られた天井板が、当然ボルト部分で暴れることになり、曲げの荷重がボルトには働くようになる。
さらに、天井板が風圧で撓む場合は、天井板に振動が生ずる可能性もある。重くて巨大な天井板なので、極めて低い振動数での振動だろうが、これも始末が悪い。特に数秒おきに大型トラックや大型バスが定期的に通過したときなどは、場合によっては共振現象さえ生ずる可能性がある。平気で150キロオーバーの車もいるので、もしかしたら乗用車などからの風圧も、馬鹿にならないのかもしれない。
打音検査を行っていなかった12年もの間、このような外力を絶えず受け続け、しかも予定していない応力を、絶えずボルトが受け続けていたならば、しかもボルトにとってそれが苦手な加重であったなら、その結果は火を見るよりも明らかだ。
ボルトは、しっかり締め付けられた状態で、軸力だけを受け続けるなら、その有効断面分の強度を持つ。疲労強度も同じだ。しかしナットが緩み、曲げ加重がボルトに掛った場合には、ボルトの強度は一気に低下する。ボルトの谷底部分は、曲げ加重に対しては、応力集中の巣となる。さらにボルトの加工状態が悪く、谷部分にノッチなどがあった場合には、その強度低下は著しい。腐食などでも同じだ。
恐らく今回の事故は、崩落開始箇所で、数本のボルトに、このような都合の悪いメカニズムが働いたに違いない。そして一本のボルトの保持力が無くなると、その近傍のボルトには、さらに大きな負荷が働き、また破断する。と言う具合に次々と破断が進み、辛うじて天井板が支えられている状態が、事故直前の崩壊起点箇所の状況であったに違いない。
ここに一台の大型バスが、制限速度を大幅に超えて通過したら、その風圧で一気に問題箇所の天井板が、崩壊することは、誰にでも解るだろう。
そして一カ所で天井板の崩壊が始まると、隣同士を連結している愚かな構造では、次々とアンカーボルトに引き抜きの強大な力が働くことになる。崩壊天井板部分を先端とした、片持ち梁を考えればよい。遠くに行けば行くほど、天井版が連結されている限り、加わるモーメントは大きくなり、アンカーボルトに対する引き抜き力は大きくなるメカニズムだ。
当然崩壊先端が地面に到達すれば、片持ち梁ではなくなるのだが、既にその間次々とアンカーボルトが抜けているわけだから、未だ抜けていないアンカーボルトへの引き抜き荷重の伝播は止まず、結果130メータに渡り天井が崩壊したことになったと思う。
とりあえず、現時点での私が推察する崩落のメカニズムは以上だが、次週は誰が悪いのかの話に入る。
1月18日に続く