CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

改革に無理解な人たちを、改革に前向きな方向へ向かすには




■質問■

<前略>

本年4月20日から連載が行われた「皆さん巧く3次元CADを活用できていますか?」を拝読してお問い合わせをさせて頂きました。

弊社では、10年ほど前、客先からの要求により、半強制的に客先指定の3DCADを導入致しました。

このような導入経緯でしたので、リーマンショックを受け景気が低迷するまでは、導入したCADを有効に活用して設計効率を上げたり、設計品質を上げることなどは、設計部門の殆どの頭の中にはありませんでした。それよりも、押し寄せてくる受注案件の処理に、効率も考えずに闇雲に取り組んでいた状況でした。

しかし、不景気が襲ってくると、一気に受注減となり、設計部門の非効率や、試作検証時点で頻発する手戻りが問題視されるようになり、さらに設計人員の多さも、やり玉に上げられるようになってしまいました。

そこで遅ればせながら、先生が機械設計誌に連載をされておられた、「グローバル競争を勝ち抜く “攻め”の設計改革講座」を参考にさせて頂き、3DCADを中心とした設計改革に取り組みました。

しかし正直なところ、その進み方は思わしくなく、掲げた目標にはほど遠い進捗状況で、はっきり言って全く成果が上がっていない状況に甘んじております。

しびれを切らした経営サイドからは先日、「一年以内に、設計部門の経費を半減しろ!しかしアウトプットは減らすな!」と言うとんでもない命令が下り、藁をも縋る思いで、上記貴ホームページの連載を拝読させて頂いた次第です。

生憎会員ではないため、効果の記された図表などを見ることが出来ませんので、具体的には判りませんが、弊社は、もしかしたら問題のX社よりもひどい状況にあると思われます。

さて、これまで弊社で行ってきた設計改革への取組みですが、機械設計誌の連載で、先生が述べておられました、「的確に悪いところ漏れなく把握して、その重要度従い優先順位を付け、淡々と改革を進めてゆく必要がある。」という指針に従い、弊社でも、私をチーフとして推進チームを結成して、設計や試作評価を滞らせている原因を調べ、定量的な数値を用いて、優先順位を付けて改革に取り組もうと致しました。

具体的には、以下の3点をやり玉に上げ、その取組みを始めようとしたのですが、2番目以外は他部門からの様々な抵抗を受け、打ち上げたのだけれど、尻すぼみという結果に終わっております。


  1. 客先との打合せ段階で、弊社側の十分な技術検証を行わず、新規技術開発に相当する仕様を安易に飲まされてしまっているケースで、手戻り後戻り納期遅れが頻発している。
  2. 詰めの甘い設計により試作段階でイタチごっこの付け焼き刃対策を行っている。これらは、量産開始後の客先クレーム(市場クレーム)を引き起こすケースが多い。
  3. 試作評価終了後、製造部門より設計変更要求が頻発して、やはり量産開始後の客先クレーム(市場クレーム)を引き起こすケースが多い。

他にも様々な問題はあったのですが、設計責任のロスという観点から、この3つをやり玉に上げたわけです。

所が、1番目と3番目は、設計だけで解決できる問題ではなく、営業部門や製造部門の強い抵抗に遭い、殆ど手つかずの状態で、現在に至っております。さらに設計単独で遂行できるはずの2番目も、設計内部の不協和音が災いして、はかばかしい結果を残せておれません。

私のリーダーシップの無さがその原因と言ってしまえば、たやすいのですが、どうも、そうとは言えない根深さがあるように思えてなりません。

先生は、ホームページの連載で「3次元CADに限らず、設計者達の負担になるような、設計支援ITツールの導入は、製品開発や物作り部分の根幹部が、ブラッシュアップされ、企業や事業体トータルとして、大きなメリットを享受できることに結びつかなければ、その導入は、意味・意義を持たない。X社は、この本質的なところを忘れて、たかが道具の置き換えを目的に取り違えてしまったところに失敗の原点がある。」

「常々述べているが、私が定義する製造業のあるべき姿は、優れた物作り力を、弛まなく追求し続けることだと考えている。“旬で、よく売れ、高収益を上げる事が出来る商品開発力”と、強力な提案力と強い戦略性を持った販売力を備へ、他に追従を許さない強力な企業体質を確立することを常に追求し続けることだ。」と述べておられますが、弊社では、この高所大所に立った判断を出来る人間が殆どおらず(トップも含め)、この点が問題だと私は考えております。

弊社のような状況を打破して、全体を改革に前向きな方向に向かせる方法はありませんでしょうか。

<後略>

■回答■

難しい取組みです。

これまで私がご支援を申し上げて、取組みを途中で頓挫せざるを得なかった製造業は、全てが同様な状況でした。

しかし、開発着手時点で同様な状況でも、**さんが期待されているよな、好転をされたところも少なくはありません。これまで私が手がけて成功に至ったケースは、殆どこのケースに当てはまると言っても過言ではありません。

そしてどのような手立てが有効かと言うと、関係者全員に“正確な危機意識”を持たせ、“根拠の無い楽観主義”を捨てさせることです。

対象とする製造業が今にもつぶれそうなときには、危機意識を全体が持ちます。“会社をよくする”“みんなで生き返る”と、全社で意志を統一する絶好の機会です。

しかし根拠が明確でない、不公平な人減らしが行われているようなケースでは、危機意識は“自己保身の危機意識”となり、“会社をよくする”“みんなで生き返る”と言う方向と真逆な方向へと大勢が走り、改革などは、その端緒にも付けません。

つぶれそうではなくても、自社のひどさを具体的に定量的に見せつけられたときにも、多くは、強い危機意識を持ちます。特に“競合他社に比べてこんなに悪い”と言う具体的な事象と、その悪さ度合いが定量的に示されると、少なくともロジカルに物事を判断できる方々は、強い危機意識を持ち、“会社をよくする”“みんなで変えてゆく”と言う方向に強い賛意を示します。

中には、“家はそんなに悪いはずがない。コンサルが仕事ほしさに大げさに言っているだけだ”などと、“根拠の無い楽観主義”が反発することがあります。

このような反発が大勢を占めた場合には、当然改革には入れません。20年以上の私の経験では、私の診断報告 を受け、大勢や幹部層がこのような反応を示した製造業は、今現在全てが苦況に陥っているか、消滅をしております。

いずれにしろ、一度私が貴社におじゃまさせて頂くか、弊社にご来社頂くかして、今後の進め方のご相談に乗らせて頂きます。このご相談には、コンサル料は申し受けませんが、私がおじゃまさせて頂く場合には、旅費だけはお願い致します。

またトップ以下幹部層を集めて頂ければ、2時間余りのこのあたりに関するプレゼンテーションを行わせて頂きます。

(2012年12月21日に続く)
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