<前略>
連休前からの連載、大変興味深く拝読させていただきました。
またここ数回、この連載に対しての、読者の方からの質問にお答えになられているのを見て、私の悩みにもお答えいただけないかとの思いで、お問い合わせをさせていただきます。当然貴ホームページのQ&Aのコーナーに掲載していただいてかまいませんので、是非ご回答のほどよろしくお願い申し上げます。
弊社では、世の趨勢を受け、15年程前に3DCADの導入に着手いたしました。販社の力を借りて基本的な操作教育や、モデリングルールの制定などを通じて、5年程で、ほぼ満遍なく3DCADの活用が行われるようになりました。そして現在では、2DCAD専用端末は2台を残す状態にまで至っております。
しかし現在までの時点で、先生が仰るような、設計部門や製品開発業務に対して、定量的な効果が出せたかと問われたとき、残念ながら定量的な効果を示すことができません。なぜなら、3D導入時点で定めた効果計測指標に、大きなミスを犯していたからです。
先生の連載を拝読して、私なりに再確認したのですが、3D導入当初、支援してくれた販社の薦めにより、導入効果の判断指数として、開発毎の設計変更通知件数と、開発着手から量産出図完了迄の期間を置いておりました。
しかしこれでは、重大な設計ミスに起因する重大な設計変更も、単なる寸法の書き違いによる設計変更も同じ一件でカウントされてしまい、設計の質の良否を判断するには難がありました。
また開発期間の評価でも、人海戦術で行った強引な開発も、先手を打った、無駄を省いた、効率のよい開発でも、期間という面では、人海戦術が勝るような結果がでてしまい、真に的確な評価という面では不適でした。さらに、量産立ち上げまでに、十分に問題点をつぶし込んでいなかった開発案件で、トラブルが続出したり、量産開始後に市場クレームを多発しても、3Dの効果の評価に組み込まれていなかったまずさがありました。
これでは、3Dの導入効果を胸を張って外に発信できない弱みがありますし、その投資効果という面で、我々にメリットを与えてくれたのかの不安を、7年ほど前より常々感じておりました。
そして今回、先生の連載にたまたま遭遇して、まさにX社と全く同じような状況にある弊社を重ね合わせ、我々が行ってきた取り組みの体たらくさに、打ちのめされたと言うところが正直な感想です。
当然わが社における3DCADの導入目的は、設計の質向上であり、製品開発の効率アップでした。しかしX社と同じ罠にはまってしまったようで、大失敗をやらかしてしまったようです。
とは言っても、数代にわたる私の前任者達の責任を含め、弊社の文化としては、これまでの失敗を、余り露骨に糾弾できない文化があります。
X社のように、先生のような外部の方にお出ましいただき、問題点をしがらみのないところでご指摘いただくのも一つの選択肢だとは思いますが、これまでうまく行っていると報告してきた上層部に対して、先生をなぜ呼ぶのかの説明が付きません。
また今更3DCADを止めるわけにもゆかず、「投資対効果がありませんでした!」と言うことになっても、決して安くないメンテナンス料金を支払いながら、今後も使い続けなければならず、恐らく針のむしろに座り続けなければならないことになります。
私自身は、上司は替わっても導入担当者としてその導入を仕切り、活用に向け様々な取り組みを行って参りましたので、現在の体たらくも全て私の責任と言っても過言ではありません。ですから私自身は、どのような扱いをされても、異論はないのですが、私の進言を信じてやりたいようにやらせてくれた歴代の上司達や、私を信じて従ってきてくれた後輩達には、累が及ばないよう願っている次第です。
そこで、ご指導いただきたいのですが、3DCADは今後も使い続けなければならないと思いますが、5〜10年先を睨んだとき、設計の基幹ツールという面から見たときに、どのような選択を行うべきでしょうか。また設計改革と言う観点から、なるべく混乱を起こすことなく、大多数の方向性を、改革に向かわせる手だてはありませんでしょうか。
これまでの体たらくを棚に上げて、無い物ねだりのような質問ですが、各所で数多の実績を築いてこられた先生でしたら、必ず我々が求めるソルーションがある物と信じて、お問い合わせをさせていただきました。
<後略>
まず一つ目の、「現有の3次元CADを今後も使い続けるか」のご質問ですが、よほど貴社の製品や開発スタイルに向いていないCADで無い限りは、使い続けざるを得ないと思います。投資対効果は、これまでも上層部や経理部門をだましてきたわけですから、その延長上で進めるしかないでしょう。
また“5〜10年先を睨んだとき“の設計基幹ツールの件ですが、貴社の状況を承知していない現時点では、貴社固有の問題を除いて一般論としてお答えすると、すでに導入をしたCADを使い続けるしかないと考えます。当然バージョンアップなど、最新の状態に保ちながら、最大限すでに導入しているCADのメリットを享受すべきでしょう。
私の読みでは、今後10年間における3次元CADの急激な進化や、全く新しい物の誕生は無いと見ております。3次元CADの黎明期10年間における進化や淘汰の状況は、この10年ですっかり鳴りを静めた状況です。販社の方々は、年度ごとの新機能追加を強調しますが、既に他社では昔から持っていた機能の二番煎じだったり、設計基幹ツールとしてみたときにはどうでもよい機能だったりと、黎明期の急激な進化とは雲泥の差がある成長度合いです。ですから今後の10年もそれほど代わり映えしないだろうと観ているわけです。
しかし、現状選んでいるCADが、貴社の製品特性や開発スタイルに向いていない代物の場合には、悠長に構えている訳にはゆきません。速急に最適な物と置き換える必要があります。ただし、これまで現有のCADに折角馴染んできた設計者達に、絶対に負担をかけないと言う、制約条件が付きますが。残念ながら、貴社の状況を承知しない私としては、このケースについては、これ以上のアドバイスは叶いません。
二つ目の「また設計改革と言う観点から、なるべく事を荒げずに大多数の方向性を改革に向かわせる手だてはありませんでしょうか」と言う御質問は、十分ご認識されておられるようですが、“これまでの体たらくを棚に上げて、無い物ねだりのような質問”ですね。
**さん以外に、誰にも累が及ばない方法で、設計改革に重点を置いた仕切直しは、無理と考えます。
最善の手段は、手前味噌ですが私どもの“現状診断” を受診いただくことです。私どもが行う現状診断で、貴社における製品開発や製品設計部署における、様々な現状における問題点を漏れなく明確に把握する事が出来ます。
現状診断は、“予備診断→本診断→整理・分析・現状打破計画立案→ご報告“の流れで実施させていただきます。具体的には、貴社の一線担当者及びそのマネージャ達に、直近5年間に行った開発案件の開発着手からクローズまでの顛末を、事細かに聞き取るとともに、営業・ものづくりなどの部署から反面情報を聞き取る取り組みが、その中心になります。
聞き出したこれら情報を基に、過去200件余りに実施した、弊社現状診断の分析ノウハウを駆使して、問題の本質を探り出すとともに最も効果的と思われる改革案骨子を策定し、ご報告申し上げる事が出来ます。
しかしお問い合わせのご様子では、このような取り組みを全面に打ち出して、上層部に受診を提案する状況にないとの事ですので、次なる手段としては、X社さんと同様な一日コンサルを受診されることです。この中で話をフロントローディング設計体制の確立や、設計人材的確育成の話に持ってゆき、“CAE診断” “人材ポテンシャル診断” “人材ポテンシャル診断” へと結びつけ、これらを実施することです。
これらの診断を受診いただければ、 “現状診断”の範囲もおおむねカバーされますので、現状診断を受診いただいたと同等の結果を得ることが出来ます。そしてこの結果を元に、改めて「製品開発部署体質強」など銘打って、新しい取り組みとしてチェレンジを社内に向け提唱するような段取りです。