7−1 まとめ(前編)
この製造業においては、より質の高い、より効率がよい製品開発、という観点で見たときに、1日という限られて時間であったのにも拘わらず、これまで紹介してきた以外にも、様々な問題点を垣間見た。さらに始末が悪いのは、彼らが結果としてその目的としてしまっていた、3次元CADの用い方にも、列記した以外にも首をかしげたくなる物が少なからずあった。
しかし、ことさら重箱の隅をつついたような事柄を、逐一賢明なる会員諸君に紹介しても、余り役には立つまい。よって状況面からの紹介はとの程度で止める。
一方、一連の私からの状況紹介を通じて、ある種のフラストレーションに陥っていた会員諸君は少なくあるまい。定量的な効果の度合いや駄目さ具合が一切成されなかったからだ。
該当製造業に対するコンサルテーション場面では、先方から具体的な数字をあげての説明を受けたのだが、「先生から外部に、当社事例を紹介するにあたって、これらの数字は一切開示しないでほしい」との申し入れを先方から受けていたため、本稿では具体的な数字を用いての紹介が叶わなかった。
しかし、全く定量的なデータもなく、「巧くいっていない!」「本末転倒な取組みだ!」などと私から紹介されても、どの程度拙いのか、どの程度無駄をしているのかなどを、実感として会員諸君に理解を頂けまい。そこで最後に次のような形で、回答製造業の拙さ度合いを紹介する。
内容的には、該当製造業から預かった、3次元CAD導入前と導入後における、開発スタート〜量産出荷までの、所用工数や所用費用変遷のデータを基に、これまで私が手がけてきた改革の試みに取り組んできた製造業の内で、該当製造業に近い商品特性を持っている製品を扱っている製造業を、5社ほどピックアップして、その平均値と該当製造業の状況を比較評価した物である。
この比較資料は、コンサルテーションを行った後、サービス的な意味合いで私の手で収拾・整理・分析した物で、先方責任者に本資料を送付した際、外部への公表のOKを取り付けてある物である(先方の要求で、若干数字をいじっているところもあるが、拙さ具合を理解頂くためには、差し障りのないいじりのため、そのまま紹介する)。
まず比較図の見方だが、横軸には、開発のフェーズを、その着手段階から量産出荷後5年目まで刻み、縦軸には各フェーズごとの所用費用をマイナス側に、得られた利益をプラス側に表してある。
先方から預かった資料では、設計工数などで集計されていた物もあったが、全て金額換算をして、金額で評価する内容としてある。本ケースのような場合、その投資対効果を測る場合には、費やした費用と得られた費用という形で、金額ベースで評価することで、その効果を、恣意的な判断が入り込む余地無く、定量的に比較評価できるからだ。
尚、CADなどの導入費用や操作教育などの所用工数も、実際の評価では当然明示してその効果を測るのだが、先方からの要求で、本稿では割愛してある。
また新製品生産のために新作・改造される生産設備類(金型なども含み)で、資産繰り入れされる物にかかる費用についても、本稿の趣旨からはとくに着目する必要はないと考えるので、本稿では割愛してある。
本図は、紹介している製造業における、3次元CAD導入前と導入後における、開発各フェーズごとに発生した費用と、量産出荷後に得た収益のあらましである。
詳しくは次週で解説するが、たかが道具の置き換えを目的としてしまったため、一向に減らない設計工数と、冒頭から指摘している“オペレータへの設計丸投げ”行為による設計の質の低下が、膨大なクレーム費を生み出していることが見て取れる。私に言わせれば、全く意味のない取組みをした物だという結論になる。
本図は、これまで私が支援してきた様々な製造業の中から、X社に類似した商品特性を持つ製品を扱っている製造業を5社ピックアップして、平均値化した物である。いずれも「設計改革」「製品開発改革」「先端物作り探求」などと銘打って、それぞれの製品開発改革にチャレンジした結果である。
フロントローディング開発を中心に、的確に狙いを定めた取組みで、いずれも期待以上の成果を上げることができている。特に徹底した“手戻り”“後戻り”の撲滅で、設計部門や物作りスタッフ部門から、無駄な仕事を一掃して、大幅な工数低減を実現できている。
しかも設計の質向上に伴い、クレームの一掃が図れ、大幅な売り上げ及び収益増加も実現できている。
本図は、X社における導入後の状況と、図5で紹介した5社における取組み成果の比較である。棒グラフの高さは、その売上高を元に指数化してあるので、そのまま棒の高さで、比較して読んで頂いて差し支えない。
詳しくは次週纏めるが、このようにしてみると、如何にX社が無駄な取組みを行ってきたかが判る。しかも大枚を叩き設備投資を行い、慣れない3次元CADの操作で設計者達を四苦八苦させた結果である。
(2012年8月3日に続く)