CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

皆さん巧く3次元CADを活用できていますか?(その12)



(2012年7月13日掲載からの続き)
前を読む


6−3 生産準備段階(後編)

ここまで話が進んだところで、これまでの遣り取りを、人ごとのように聞いていた物作りの責任者に、私はおもむろに水を向けた。「**さんは、設計のご出身だそうですが、この段階で生じている設計の質の低さを、引き起こしている最大の原因は何だと思いますか?」


「それは、設計者をしっかり育成できていない設計部署そのものの、根本的な問題だろう」
「量産出図後に、我々から設計変更依頼を出さなくて済む図面になっていれば、このような問題も起こらないだろ」
「我々が開発チームを率いていた10年前には、このような問題は少なかったはずだ。」「現状でも○○チームのように、10件以下しか設計変更依頼を出さなくて済むチームもある。」
「恐らく2,3チームは、あるはずだ。」
「だから他のチームも、計画的に教育を行い、厳しく指導することで、育てることができるはずだ。」
「それを行って来なかった設計の管理層に、最大の責任がある。」
と言う具合である。

ある意味、この物作り責任者からの見解(実は私の意図を察した反論)は、筋が通っている。しかし私の目から見たら、全体最適化を忘れて、偏狭なセクショナリズムに陥った、無い物ねだりの発言にしか見えない。

なぜなら、幾ら自部門の最適化が図れていても、全体最適化が実現できていなければ、稼げる製造業にはなれない。仮に、全体最適化を実現する上で、自部署が支援すれば解消できるであろう弱点が、他部門にあったときには、積極的に支援を行うべきである。また自部署に弱点を見つけた場合には、他部署に“後工程はお客様”などと、勝手な理論で無理強いするのではなく、素直に礼を尽くして支援を求めるべきである。製造業を構成する全ての部門が、自部門の都合を押さえ、全体が最適化できるように、同じベクトルを向いた取組みを心がけなければ、全体最適化など、おいそれとは実現できないからだ。


閲覧限定会員募集中

図3 稼げる製造業における全体最適化の姿


この部分が、紹介している製造業では理解ができておらず、製品開発の初期段階から、積極的に物作り都合や要求を、先手を打って設計サイドにぶつけることなく、量産出図が行われてから、設計内容にクレームを付けるなど最悪な状況に陥っていた。言語道断の話だ。

物作り責任者に言わせれば、“設計者の質が低いから”と言うことになるが、私に言わせれば、「判っているなら、さっさと設計者に物作りの情報を伝え、先手を打って物作り都合や要求を試作図面に織り込ませ、量産出図後は、一切の物作り都合による設計変更依頼を出さなくて済むようにしろ!」と言うことになる。

私がこれまで支援してきた製造業の中には、量産出図後は、試作確認漏れに起因する、品質問題を生じかねない設計不良以外は、一定期間(製品の性格によるが3ヶ月〜1年)、設計変更通知の発行を、認めないルールを設けて貰っているところもある。

また、先に指摘したが、物作り都合により決められたモデリングルールも頂けない。なぜならやはり先に述べたが、担当設計者がその設計思考を進めてゆく上で、その思考プロセスを妨げるような、ルールが物作り都合で定められていたからだ。

たとえオペレータがモデリング作業を行うにしろ、そのモデリングの流れは、設計の目的や意図に沿ったモデリングがなされていなければならない。

例えば、強度を要求される部品形状の定義は、板厚方向に自在に寸法変更ができるようにモデリングがなされていないと具合が悪い。固有振動数を問題とする場合も同じだ。

シャフトを中心に組み立てられる部品類やケースは、やはりシャフト中心に図面原点を取り、形状構築や形状定義も、周方向や長さ方向に自在に変更できる様になっていないと具合が悪い。たとえカバーをアルミダイキャストで作成するからと言って、抜き勾配や型抜き方向に重点を置いたモデリングにするなど以ての外である。

射出成形で作られる歯車の場合も同じだ。構想設計段階で用いる3次元データは、歯車中心に図面中心があり、工学的に歯車を構成できる寸法構成でその形状が定義できていなければ駄目だ。歯車の厚さを変える程度なら、あまり影響はないのだろうが、歯数を変えたり、刃先形状を設計途上で試行錯誤しようとしたら、金型作りの都合など全く無視しないと、設計に都合がよい3次元データにはならない。

要するに、設計に用いる3次元データは、最終的に3面図投影され、線でしか意味を持たなくなる2次元図面を原図とすることが前提なら、100%設計の都合に合わせたモデリングがなされている必要がある。設計の都合とは、設計の目的を実現するために、設計者が行う様々な思考過程を、的確に手助けできることである。

拘束性が全く無かったり、緩いCADの場合には、このあたりを全く意識しなくても良いのだが、残念ながら現在主流のCADは、その強さには差があるが、いずれも拘束性を持っている。だから、ユーザーは、このあたりをしっかり理解した上で、モデリングルールを決めてゆく必要がある。世の中には、あまりにも多くの誤った使い方が横行しているので、会員諸君は十分に注意して頂きたい。

一方金型設計などの後工程で、3次元データを用いるメリットがあるのであれば、生産技術部署なりで、目的に即した必要最小限の3次元CADを導入して、設計から出図されてきた2次元図面を、この段階で3次元化すればよい話だ。この作業なら、成形品の収縮率などのモデリングルールさえ作っておけば、オペレータに任せきりでも、支障は出まい。製品形状や寸法などを、出図されてきた図面通り、物作りに繋げればよい作業だからだ。

構想設計段階から物作り段階に至る、データの一貫性を無理に意識して、設計の上流での作業を妨げるような3次元CADの使い方は、決して許される物ではない。設計力を高めるための道具という観点から見たとき、明らかに本末転倒な用い方になるからだ。

(2012年7月27日に続く)
次を読む