CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

皆さん巧く3次元CADを活用できていますか?(最終回)



(2012年7月27日掲載からの続き)
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7−2 まとめ(後編)


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図4 X社における3次元CAD導入効果(顛末?)


先週掲載した図4を詳しく説明する。

まず商品企画・構想設計段階における設計工数(費用)に着目頂きたい。2次元CADの時代に比べて、なんと3倍に増えている。これは既に述べたDR用途などのために、それまでは行う必要が無かった、3次元モデリングなどの手間が丸々増えているためだ。しかも派遣のCADオペレータなどに費やした費用のため、工数的には3倍どころか5倍を超える実工数増加をみている。

その後に続く詳細設計段階では、前の段階で作成された3次元データが活用できるため、見かけ上の設計工数(費用)は、3割方低下している、しかし殆どの設計チームでは、“丸投げ設計”が蔓延しており、ここでしっかり設計検討を行わなかったつけが、試作評価段階の滞りや、量産出荷後の膨大なクレーム費用として跳ね返ってきている。

続いての試作部品設計段階では、やはり3次元CADでモデリングした部品形状から、3面図を生成する方法で、2割弱の工数低減が図られている。だが、本来ならこの図面にも織り込まれるべき、物作りを配慮した、加工方法や部品形状などへの検討が、蔑ろにされており、本来なら大幅らせるであろう、生産準備段階以降の設計工数(費用)として、はっきり現れている。

元々フロントローディング設計になっていなかった、“作って・壊して・考えよう”体質のX社では、試作評価段階において膨大な費用を費やしていた。そして3次元CAD導入後、本来なら設計の質向上などの効果があり、費用削減がはかれるはずにもかかわらず、一割以上の費用増加となっている。

生産準備段階だけは、設計部門以外に3次元CAD導入の効果を、享受している部門があった。工場部門だ。私に言わせれば、それまで自部署で作成していた、金型製作用の3次元データなどを、設計部門に行わせるよう仕組んだことでの、単なる部門間における工数移動の効果でしかない。

しかしX社では、私に指摘を受けるまで、この現象を奇異とも考えず、社内外に3次元CAD導入の成果と謳いあげ、経営層も含め多くの人間は、3次元CAD導入の効果があったと信じていたのには恐れ入った。

そして始末が悪いのは、量産出荷後のクレーム費の倍近い大幅な増加だ。“作って・壊して・考えよう”と“丸投げ設計”が、以前に増して膨大なクレームを引き起こし、商品の信用度までを傷つけ、売り上げ低下を招いている。


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図5 類似業種5社における製品開発改革の効果


ではX社は、巧く3次元CADを生かせている他の製造業と、何が違うのかを説明するにあたり、図5に示した、これまで私が手がけ、改革に成功した製造業の平均像を、掻い摘んで説明する。

まず改革着手前だが、図4のX社と比べてみて、発生しているクレーム費用と、量産開始後の設計工数(費用)以外は、それほど大きな違いはない。コンカレント開発の文化や姿勢が無いX社では、量産開始直前や開始後も、だらだらと設計変更依頼を上げ、一向に設計の手間を減らさない傾向が見て取れる。

この部分では、少なくとも私が手がけた各社は、違っていた。何処の製造業でも澱のように貯まった“組織の壁”は、これらの製造業にもその度合いの差はあるが、いずれにも存在した。しかし全体最適化を求める姿勢と意識にX社との違いがあった。だから巧くいったのだとも言えるが、改革後の図を見て欲しい。

私の考え方に則って、設計初期段階での設計工数(費用)は、改革着手前に比べて大幅に増えている。この増えた時間は、開発途上で起こるであろう問題点を前もって予測して、その問題発生を押さえ込む取組みに充てられた手間だ。

そしてその結果、試作評価段階での大幅な工数(費用)低減がまず実現できている。要するに“作って・壊して・考えよう”の文化と決別したわけだ。

さらにこの取組みは、それぞれの事業収益増加に大きな貢献をしている。高い設計の質を確保できたため、出荷後の商品クレームを殆ど生じさせない体勢が、確立できたのである。X社の例と真逆な、商品の質を評価され、売り上げの大幅増加が実現できている。

さらに、コンカレント開発の部分でも、フロントローディング開発の考え方を取り入れて貰い、先手先手を打った物作り側の設計関与により、生産準備段階工の設計変更依頼を、激減させることができたのである。

またこの設計変更依頼の激減は、短期間でお茶を濁す設計行為を一掃でき、出荷後のクレーム大幅削減にも寄与できている。


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図6 X社3次元CAD導入効果と類似業種5社製品開発改革効果の比較


さて、図6に示した、X社と、私が手がけた5社平均の違いだが、図を見比べて頂ければ、一目瞭然で、詳しく説明するまでもあるまい。

X社は、ただ漫然と、もしくは誤った方向性を持って、3次元CADを導入して、展開を行ったために、かえって、設計の質を低下させ、手間を増やすという、マイナスの効果しか残せなかった、典型的な失敗例であると言える。

最後にくどいようだが、3次元CADは、それを用いる企業、事業体、もしくは設計部署には、様々なメリットがある。しかし現役の設計者自身には、全くと言ってメリットが無い。

3次元CADに限らず、設計者達の負担になるような、設計支援ITツールの導入は、製品開発や物作り部分の根幹部が、ブラッシュアップされ、企業や事業体トータルとして、大きなメリットを享受できることに結びつかなければ、その導入は、意味・意義を持たない。X社は、この本質的なところを忘れて、たかが道具の置き換えを目的に取り違えてしまったところに失敗の原点がある。

常々述べているが、私が定義する製造業のあるべき姿は、優れた物作り力を、弛まなく追求し続けることだと考えている。“旬で、よく売れ、高収益を上げる事が出来る商品開発力”と、強力な提案力と強い戦略性を持った販売力を備へ、他に追従を許さない強力な企業体質を確立することを常に追求し続けることだ。

そして、本連載で主題に置いた、3次元CAD導入の裏にある設計改革の目標は、常に“旬で、よく売れ、高収益を上げる事が出来る商品開発力“を確立することである。

3次元CADなどの設計支援ツールは、これらを確立してゆくための、たかが道具の一つに過ぎない。しかし、その道具の導入定着をいつの間にか“目的”としてしまっているケースが後を絶たない。この連載で紹介したX社のみならず、これまで私が診断を手がけた製造業の中で、このような状況を数多く診てきた。

会員諸氏は、既にこれらを充分理解頂いているはずで、当然X社の様な“ドジ”は踏んでいないと思う。しかし今一度、それぞれがこれまで取組んできた内容を、冷静に振り返り、仮に怪しそうなところがあったり、拙さに気付く様なことがあったら、早急に手当を打つべきだと考える。

また会員以外で、本連載を最初から熱心に読んでくれた諸氏は、これまで自社で行ってきた取組みを、その着手時点に遡って見直すことをお勧めする。ここまでに私が発してきた様々な考え方や注意事項を、しっかり頭の中に置いて、本当にその取組みが、自社の製品開発力の質を上げたり、効率を上げるために役立ってきたか、もしくは役立っているかを冷静に評価すべきと考える。