CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

皆さん巧く3次元CADを活用できていますか?(その6)



(2012年6月1日掲載からの続き)
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3 試作部品設計段階

この段階での3次元CADの操作は、その殆どをオペレータ達が担っているようだ。前の段階でも紹介したが、担当設計者がオペレータに指示を出しながらの設計作業だ。

そして前の段階以上に、オペレータに設計を丸投げしている担当設計者は、多いようだ。それは、試作段階に入ってからの不具合の発生状況からも十分に類推できた。説明をしてくれた設計の責任者も、この問題には薄々気付いているようだ。

この段階では、前の段階同様、持ち帰りで装置単位の設計を請け負う、ベテラン外注設計者と、現役を離れたベテラン勢が、緊急応援に入る場合を除いて、残りは全て3次元で設計(モデリング)が行われているそうだ。

一方試作出図で用いられる図面形態は、従来からの2次元図面だ。新規作成部品は、3次元でモデリングした図形から、3面図投影機能を用いて作図した2次元図面をその元にしている。2次元図面の作成作業は、主にオペレータが担い、寸法公差や注記も、担当設計者から指示された、既出図の類似図面を書き写す要領で、図面体裁を整えているようだ。

試作出図前までには、担当設計者が検図を行い、設計の意図に即した、寸法公差や注記に整える建前にはなっているのだが、なかなか徹底されず、量産段階に入って問題を引き起こすケースも、少なからずあるとのことである。設計意図を十分に理解できていないオペレータに、作図作業を丸投げしたのでは、当然起こるべくして起こった問題と言えよう。

しかしここまでは、これまでの段階における状況を見れば、容易に予測できる話なので、拙いことには違いないが、さほどの驚きを抱くこともなかった。だがその後説明された、「後工程を考えたモデリングルール」については、奇異の念をいだいた。

自慢げにプロジェクタに映し出されたルール表には、アルミダイキャストや樹脂成形部品における、パーティングラインを基準にした寸法拘束や構築履歴の取り方、3面図投影前の形状に対して、余さずフィレットや面取りを付加して、その整合性を確認することなど多岐にわたり、50件を超えるルールが規定されており、その殆どが私の感覚では、製品設計の目的を満足すべく、機能・性能を追い込んでゆく形状追込みの流れには、受け入れがたいルールであった。何故これらが拙いかだが、詳しくは別な機会に語るとして、大まかなポイントだけを述べる。

例えば、パーティングラインを基準にした図形寸法の定義だが、部品設計のスムーズな流れから考えて矛盾する。部品設計は、一般的には機械構造に組み付けられる、シャフト中心端部などの、3面図に落としたときの、中心線上の図形端部などに置かれるのが普通だからだ。シャフトなど明確な基準が無い場合でも、取り付け穴中心や、機能操作部中心など、その部品の製品上における、使用目的に即した基準取りが、一般的にはされるはずだ。

また、フィレットや面取り形状を、3面図投影前の形状に対して定義することは、私に言わせれば、愚の骨頂な話だ。と言うより、CADの種類によっては、まともな3面図投影が出来なくなることすらある。

投影した2次元図形にコーナーRや面取りの形状を与え、それぞれの寸法指示を行うとともに、注記中に“指示無きRは**R”と記載すれば済む話のはずだ。

他のルールも同様で、オペレータに余計な仕事をさせることになるばかりではなく、試作段階で何らかの機能・性能読み違いによる、不具合が起こった際の対応の妨げにもなる。機能に即した形状拘束や定義経歴であるなら、足りない寸法を少し伸ばしてやる、全体的に板厚を増してやるなど、設計の目的を明確化し、それに従い形状定義がなされていれば、殆どの場合、ワンアクションで3次元形状をいじることが出来るからだ。

ところで、この段階での3次元CAD導入メリットだが、大物鋳物部品やアルミダイキャスト樹脂成形品などの簡易試作場面で、当然のごとく効果を出していた。しかし、上記した様々なデメリットがあるため、私の評価は、この段階でも巧く使えていないと言う結論である。

一方事業経営視点から、構想設計から試作評価までを担う部門への、3次元CAD導入の成否について診てみる。

これまで紹介してきた状況から判断して、色よい評価は無いだろうと、会員諸君は既にお気づきだと思うが、その通りである。当初狙っていた設計の質向上も叶わぬまま、設計工数の増加や、オペレータ費用の増加など、マイナス面が顕在化しているからだ。

特に設計作業を進める設計者達の、設計思考過程をブツブツに断続させかねない、使い勝手の悪い(2次元CADに比べて)3次元CADを、自己の設計作業を進める道具に駆使することをあきらめ、オペレータを利用する設計者が増えたことにより、“設計をしない設計者”を急増させている。これでは当初の狙いと裏腹に、当然のこととして設計の質は低下する。

一方設計作業を、オペレータに丸投げをしていない設計者達は、辛うじて設計の質低下は免れていた。しかし、オペレータ費用が余計に嵩むのと、オペレータとの意思疎通を図るという、無駄な時間を生じさせざるを得ず、導入効果どころか、マイナス面ばかりが目立つ結果になっている。

効果面では、商品企画や構想設計段階における、商品企画や営業部門のメンバーとの意思疎通は、スムーズに行くようになっている。このため、設計の質を低下させる一つの原因である、開発途上における開発仕様の変更を、大幅に減少させていた。この段階での唯一の効果とも言える。

また当然のこととして、試作組立段階における、部品干渉や取り付け不能の不具合発生は、大幅に減少できている。しかし試作組立段階でのこのような不具合は、私に言わせれば、些細な不具合だ。取り付け穴の追加工など殆どは、大騒ぎすることもなく、費用も掛けることなく対策できるはずだからだ。

CAD販社の方々が、その黎明期に盛んに宣伝していた、この御利益は、少なくともこの段階では、経営視点で診たとき、殆ど御利益は無かったと言えよう。

さらにこの製造業では、商品企画段階から試作評価までに行われるDRなどへの、物作り部隊の不参加という過ちを犯しており、折角得られたであろう御利益を潰している。

さらにそればかりか、試作設計段階における部品形状モデリングに、金型設計などの後工程都合に合わせたモデリングルールを策定し、それに従ったモデリングを行わせていた。確かに大物鋳物部品などの試作型作成用に、その収縮率配慮やフィレット付けなどに都合の良い、形状構築履歴や拘束条件指定がしてあると、金型手配を行う生産技術部署などにとっては都合がよい。しかしだからといって、この作業を、3次元部品形状を設計する若手設計者やオペレータに、やらせて良いと言う話にはなるまい。ましてや担当設計者にそこまで気配りをさせることは、私に言わせれば、限られた人材力の浪費と診る。

確かに担当設計者達は、自分が設計する部品を、その製造・加工方法も考えながら、なるべく作りやすく、なるべく安くなるように、設計を行う責務を負っている。しかしこれは、例えば射出成形金型の場合には、機能・性能に影響を与える抜き勾配も含め、型割をやりやすく、スライドコアーを極力減らす、樹脂が流れやすく均一に出来るなどの、形状的なものや技術的なものに限定して、知恵を絞るべきである。

しかもそれ以前に、部品設計者に課せられた最大の役割は、その部品形状や寸法を、設計の目的に叶った、機能や性能(強度や振動特性なども含む)に仕上げることだ。

その上で、その機能や性能を落とすことなく、上記した製造・加工方法を考え、最適なものに仕上げることが、その役割のはずだ。

これらから外れる、収縮率や、フィレット付けなどは、設計者が指定した部品の形状や寸法になるように、生産技術など後工程のスタッフが担うべき仕事である。それでなくてもその知恵を駆使しなければならない、設計者に余計な仕事まで課してはならないと考えるからだ。

また彼らが選んでいた3次元CADは、拘束性が割合緩いタイプの物を選んでいる。だから、部品設計段階で無理にモデリングプロセスをルール化する必要はなかった。後で物作り工程のスタッフが、拘束条件などを、自分の都合に合わせ付け直せば良い話だからだ。にもかかわらず、本末転倒の工数移管を、設計部署に押しつけている理由がわからない。

ともすればTQC時代の“後工程はお客様”が、誤って理解され、それが一人歩きしてしまっているのかもしれない。しかし恐らくは、導入推進者達が、3次元CADを生かして使う工夫に欠け、他社の使用例を摘み食いした結果であろうと診る。(続く)

(2012年6月15日に続く)
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