CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

皆さん巧く3次元CADを活用できていますか?(その5)



(2012年5月25日掲載からの続き)
前を読む


2 詳細設計(計画図)段階

この段階に入ると、直接担当設計者が設計行為をしているか否かは抜きにして、ほぼ100%の設計作業が、3次元CADを用いて行われていた(先方責任者の説明によると)。そこでまずは、論評を抜きにして先方から受けた説明と私とのやりとりを紹介する。

まず中堅、若手設計者達がその作業の中心を担う、詳細設計(計画図)段階では、例外を除き、3次元CADでの設計作業を義務化していると言う。

確かに当日覗いたCADスペースでは、多くの若手設計者達が端末にしがみついていた。しかし若手設計者は、総着席者中の1/3程度で、後はオペレータとおぼしき面々であった(このコンサルティング先では、異なる色のジャンパーを着ていたためすぐ分かった)。

そこで、中堅の担当設計者達は、何処にいるかと、見回すとそれぞれのデスクに一部は居り、一生懸命パソコンに向かって、資料作りらしき作業を、脇目もふらず行っていた。しかし残りの殆どは席を外している状況であった。オペレータ達と設計の進捗を見、画面の前でやりとりをしているかと、改めてCADコーナーを振り返ってみたが、それらしい場面は、残念ながら見受けることは出来なかった。

その後連れて行かれた試作工場で、おおよその理由はわかったのだが、「彼らは主に、試作工場で施す不具合部分の、手直し指示や、その立ち合いを行っているのか?」「一部は会議に出ているのだろうがその割合は?」との説明時における、私の問いかけに対しての、責任者からの答えは、「YES」であり、「離籍者の1/4程度」都のことであった。

さらに、「オペレータの方々が一生懸命設計作業を進めていたが、担当設計者達は、どの程度の頻度で、その内容を確認し、指示出しを行うのか?」との私からの問いに対しては。「正確に調べた訳ではないが、朝一番と昼一番には、殆どの担当者達が、オペレータに指示出しをしている」とのことであった。

また「担当設計者が抱える不具合の度合いによっては、オペレータに結果的に設計を丸投げすることになってしまい、それがまた試作段階での不具合を引き起こす原因になっているのではないか?」との私からの突っ込みに対しては。「それほど多くないと思うが、確かにそのような不具合もある」との答えであった。

これまで私が多く見てきた設計現場でもよく生じていた、“設計者が設計をしない”現象が生じているようだ。恐らく、不具合が生じたとき、ついうっかり「自分のオペレータは、まともな設計が出来なくて・・・」などの言い訳が、思わず口をついて出てしまったり、少し気が利いたオペレータの、争奪戦が繰り広げられたりしているに違いない。

「必ずしも設計者自身が、3次元CADを操作する必要が無い」という私の持論が、その意を酌んでもらえず、悪い結果を招いている典型的な例である。

尚、上で述べた例外とは、3次元CADの操作に難のある、持ち帰りで、装置単位の設計を請け負う、ベテラン外注設計者と、現役を離れたベテラン勢が、緊急応援に入る場合だ。この場合は使い慣れた2次元CADで設計を進めて貰い、設計が完成した後に、オペレータ達に3次元化の作業を行わせるそうだ。

一方この段階における設計内容の審査であるが、多くの製造業も同様であろうが、構想設計結果の承認を受けるDR1から、試作出図直前のDR2迄の間には、大がかりなレビューは、ここでも行われていなかった。だが、私がかねがね提唱してきたミニDRに、チャレンジをしてくれていた。

しかし残念なことに、ミニDRに参加して知恵を注入してくれるメンバーは、同じ設計チームメンバが主で、たまに近くの席のベテラン勢が、ボランティア的に加わる程度だそうだ。これでは、設計の初期段階で“漏れ““勘違い”“見落とし”等を排除した、“手戻り”“後戻り”を犯さない設計の実現は難しいだろう。

また量産段階に向け、この時点で織り込んでおいた方が効果的な、物作り都合の折り込みは、生産技術メンバーなど物作りメンバーの、ミニDRへの参画が無いために、チーム内だけの経験則でしか、織り込めない状況に陥っているようだ。

製品の基本性能や耐久強度、振動・騒音特性などに拘わる設計変更は、その試作評価が完了した後は、行うべきではない。当たり前の話だが、試作評価が終了した生産準備段階で、製造側の都合を酌んで、これらの性能に拘わる部位や、構造の変更を加えようとする場合には、原則的には試作評価のやり直しが必要となる。

しかし現実的には、量産出荷期限や開発費用の制限などで、机上での妥当性を確認する程度でお茶を濁して、量産に突入するケースが、これまで私が診てきた多くの製造業の現実だ。そしてこの愚かな判断が、後々の市場クレームという形で、跳ね返ってくる。

商品企画段階から構想設計段階でも述べたが、製品性能に拘わる重要部位や構造部分での、生産側都合や効率を考えたすりあわせは、試作前段階のなるべく早い時点で行われなければならない。

そして詳細設計段階では、その製品構造は元より、構成部品もかなり詳細な形状が固まってくる。構想設計段階などでは、なかなか実際に作る場面を、想像できない物作りメンバーも、この段階に入ると、どのように作れば、最も効率よく低コストで作れるかが、シミュレートできるようになってくる。

一方設計サイドも、未だ試作図面作成まで行っていないので、すこぶる融通性を持って、物作りの都合をくみ取った、構造や部品形状の変更を織り込める。

先に私は、技術的なフロントローディング設計のポイントは、商品企画段階〜構想設計段階が重要だと述べた。しかし、具体的な製品構造や部品形状が定まる前の、FS(フィジビリティースタディ)やDR1などで、物作りメンバーができる、物作り側都合の折り込み要求は、どうしても漠然とした物にならざるを得ない。どちらかと言えば、「詳細設計(計画図)段階で、このような点に留意しながら、織り込みながら設計を進めてくれ」と言うような要求に止まらざるを得ない。

だから、詳細設計途上や、詳細設計が大詰めに入ったときに、物作りメンバーがその設計内容を覗き、物作り側からのシミュレートを行い、最適な設計に直させることは、極めて重要な取り組みである。

これまで私が手がけたところでは、ミニDRと言う、改まった場面を設けなくも、鋳物型を担当する者、ダイキャストや射出成形金型を担当する者、製缶を担当する者、プレス金型を担当する者、機械加工を担当する者、組立を担当する者、など各々が、それぞれの担当する部位の設計を進めている、設計者の元に時々出向き、その設計内容の説明を受けながら、物作り側からの見解や要求をして貰う文化を、構築して貰ってきた。これは、商品企画やサービス技術なども同じである。

いずれにしろ、試作図面まで至っていない段階で、可能な限り物作りなどの都合を織り込んでおくことは、試作評価より後で生ずる“手戻り”“後戻り”を根絶する、極めて効果的な手当なのだ。

一方、設計の質から診た取り組みだが、ミニDRを頻繁に行っている割には、科学的ではない様だ。コンサルテーションで、
「この段階での機械の基本性能やCAEなどを用いた、振動や強度の確認は、どのように行っているのか?」
「もし可能なら、直近で開発を行った製品での取り組み例を見せて欲しい」
「先ほどのお話ではPDMで開発過程を含め管理されているようなので、直ぐにプロジェクターに映し出せるのではないか?」
「直近でなくても、この席に参加されている方々が、直近で携わった開発案件でも良い」
との私の問いに対して、責任者からは次の様な寂しい答えが返ってきた。

「この段階では、設計者達の意識は、どうしても構想設計の結果を、寸法形状や空間的に満足するかに力が注がれている」「だから、CAEを用いた確認作業も殆ど行われていないはずだ」
「希にしか報告にも上がってこない」「どちらかと言えば3次元形状がほぼ固まる、部品設計段階終盤で、3次元CADに含まれるCAE機能で、確認するのが一般的だ」
「だから残念ながらこの段階での先生にお見せできる事例的な物は、恐らく無いと思う」。

思わず私は、一瞬「・・・・・」であったが、
「それでは、構想設計段階で行った、製品全体から見た、製品性能や振動・強度特性の確認は、取っていないのか?」
「製品構造や部品形状が固まってくる都度、当初の目論見から外れていないかの、妥当性の確認が、必要なはずだが?
」とある意味驚きの質問を行った。

先方からは「仰ることは、承知しているが、現実的に設計途上での確認は、解析が行えるメンバーの数に制約があり、この時点ではまだCADに付随するCAEでの解析も現実的ではなく、結果として行えていないのが現状だ」
と言う、お寒い回答であった。

さらに私から、
「設計技術面から見たフロントローディング設計の実現は、如何に予測型設計を実現するかに掛っている」
「部品設計が大詰めを迎えた段階で、詳細設計の拙さが判明したのでは、また詳細設計に戻っての設計をやり直す必要があるはずだ」
「要するにこの時点で“手戻り“”後戻り“を生じさせていることになる」
「詳細設計の拙さが判明した場合には、きちんと詳細設計段階に戻って検討をやり直しているのか?」
「部品設計大詰めの確認時、機械構造全体からの性能や振動・強度の確認はどのように行っているのか?」
との質問を発した。

これに対して、「厳密に詳細設計に戻ってのやり直しは、出図期限などの都合があり、なかなか行えていない」
「部品設計段階でのCAE確認は、部品単位が中心だ。性能に直結するような内容は、構想設計段階で、その性能の追込みを担当した解析チームが、逐次確認を行っているが、人数的な制約で、確認試験が始まった後で、マズイとの報告を受けることもある」

詳細設計(計画図)段階における、見学とやりとりは、これ以外にも様々な問題点があったのだが、紙面の都合で一番重要なポイントである、上記した部分で止める。

さて何が問題なのかは、かねがね私の発言を、お読み頂いている会員諸氏には、既におわかりだと思うが、やはり3次元CADの導入が、単なる道具の置き換えだけで済んでいればまだしも、“設計をしない設計者”を生み出すような、悪い方向に結果的に行ってしまっていることだ。

しかも、それでなくても効率を落とす3次元CADを生かす、フロントローディング設計への、本質的な取り組みを蔑ろにしてだ。これでは、100%3次元CADモデリングされていても、3次元CADを活用できているとは言えまい。

確かに、さらに後工程の生産準備段階などでは、ここで作成された3次元モデルのデータが、生かされて活用できているとしても、それは本末転倒の話だ。しかも次週以降に紹介するが、この後工程の活用が、試作部品設計段階で、大きな無駄を生んでいた事実も把握できた。これでは、ますます3次元CADを活用出来ているとは言えない。

くどいようだが、ある程度難しいCAEシミュレーションを、専門家集団に頼っているのも頂けない。設計者たる物、自分が担当する製品の、基本性能や基本機能を追い込むシミュレーションくらい、自分自身の手で、モデリングや結果評価(必ずしも自分自身でオペレーションしろと言うことではない)が、出来なくてどうする。だから重大な“手戻り”“後戻り”を根絶できないのだ。(続く)

(2012年6月8日に続く)
次を読む