「3次元CAD導入と“機械構造全体から見た素性の良い機械構造への追込みや、物作り観点から見た、造りやすい、ばらつきの少ない製品構造への追込み”は、別な話なのではないか?そもそも設計が固まる前の段階でのCAEシミュレーションは、3次元モデルを一々作っていたのでは効率が悪くて話にならない。また何故この段階から物作りの都合を織り込まなければならないのか?」
先週も述べたように、3次元CAD導入は、その導入企業にとっての目的ではないはずだ。単に2次元CADを3次元に置き換える単なる道具の置き換えなら、とんでもない愚の骨頂な話だ。
なぜなら、それを使う設計者達にとって、2次元CADに比べて使いづらい代物だし、同じ図面を仕上げるために費やす時間も倍増する。より質の高い設計を実現するための、その思考過程の阻害すら犯しかねない、“設計思考”とは全く関係ない、“モデリング作業”を行わなければならない、操作性の悪さを持っている(図1)。
だから私は、「必ずしも設計者自身が3次元CADを駆使して設計作業を進める必要はない」と常々言っている。CAD端末の前に、操作に長けたオペレータを座らせ、脇に自分が座って、口とマウスでその設計作業を進めればよい」と兼ね兼ね言ってきた(図2)。
そして最近は安くなったとはいえ、2次元CADに比べたらその導入費用も馬鹿にならない。
金型製作などの後工程でメリットがあるにしろ、設計者達とって“使い辛い”、企業経営として“設計効率が下がる”“オペレータ費用が余計に掛かる”“導入費用が高い”などの馬鹿にならないデメリットがある道具の入れ替えを、まともな製造業経営者なら選択しないだろう。
仮に後工程で大きなメリットを享受できるのであるなら、生産技術部署なりで、目的に即した必要最小限の3次元CADを導入して、設計から出図されてきた2次元図面を、この段階で3次元化すればよい話だ。この作業なら、成形品の収縮率などのモデリングルールさえ作っておけば、オペレータに任せきりでも、支障は出まい。製品形状や寸法などを、出図されてきた図面通り、物作りに繋げればよい作業だからだ。
にもかかわらず、設計の最初の工程から、3次元CADを用いようと選択するからには、導入企業にとってそれ相応の、メリットがなければならないわけだ。
だから、私がこれまで現状診断を行ってきた、100社を超える3次元CAD導入済み製造業では、導入を正当化するために、またかけ声として、“設計改革の切り札“”コンカレントエンジニアリングの実現“”手戻り・後戻りの撲滅“”設計・製品加工データの一気通貫“など、絵に描いた餅を掲げていた。
そうすると、「“機械構造全体から見た素性の良い機械構造への追込みや、物作り観点から見た、造りやすい、ばらつきの少ない製品構造への追込み”は、別な話なのではないか?」は、別な話では無くなり、必須の話と言うことだ。
また「“何故この段階から物作りの都合を織り込まなければならないのか?”」も、コンカレント開発を目指し、手戻り後戻りのない、質が高く効率の良い設計を実現をするためには、必須の取り組みである。
一方「そもそも設計が固まる前の段階でのCAEシミュレーションは、3次元モデルを一々作っていたのでは効率が悪くて話にならない。」は、私も同じ考え方を持っており、設計の初期段階では、可能な限りシンプルなモデルを用いての、追込みを行えと常々言っている。スケルトンモデルである程度形状構造を追込み、ザックリしたシェルモデルで形状をさらに追い込む。そして設計が煮詰まって来たところで、確認的な意味合いで3次元形状での確認という流れだ。
「彼らが当初、3次元CADの導入の目的にコンカレント設計実現を挙げていたとしても、コンカレント設計が実現出来ていないから3次元CAD導入を失敗しているとは言えないだろう」
まず、仮に3次元CADを導入して、それを設計者達が自分の手足のように駆使してその設計作業を行える状態になっていても、その導入前と比べて、設計の質や生産性が向上していなければ、導入は成功しているとは言えない。
しかし、設計部分で生じたロスや費用を、カバーしても余りあるメリットを、後工程やその企業体として、享受できているのであれば、3次元CAD導入は、成功していると言える。
だから、彼らが、コンカレント設計が実現出来ていなくても、設計部分で生じたロスや費用を、カバーしても余りあるメリットを、後工程やその企業体として、享受できているのであれば、3次元CAD導入は、成功していると言えた。
しかし残念ながら彼らは、3次元CAD導入による、企業体としてのメリットを享受できていなかった。そして、その原因が、商品企画段階からの、物作り部隊不参加で生じた、手戻り後戻りに起因している所が大きくあったため、3次元CAD導入は失敗と評価した。折角3次元CADで形状を起こし、様々なレビューを行っていたのにも拘わらずである。
「ウチでも設計者は、オペレータにモデリングさせている。貴殿の著書などでもそれで良いと言っているのに、何故この例では“駄目”と言うのか?」
上でも述べたが、3次元CADは、それを使う設計者達にとって、2次元CADに比べたら、使いづらい代物だし、同じ図面を仕上げるために費やす時間も倍増する。より質の高い設計を実現するための、その思考過程の阻害すら犯しかねない、“設計思考”とは全く関係ない、“モデリング作業”を行わなければならない、操作性の悪さを持っている(図1)。
だから私は、「必ずしも設計者自身が3次元CADを駆使して設計作業を進める必要はない。CAD端末の前に、操作に長けたオペレータを座らせ、脇に自分が座って、口とマウスでその設計作業を進めればよい。」と兼ね兼ね言ってきた(図2)。
しかし本例では、3次元CADを利用して、全くと言って良いくらいに、設計作業が行われていなかった。実態は、担当設計者が2次元CADやポンチ絵で考案した案を、オペレータに渡し、それを3次元化する流れが殆どで、時々後ろからモデリング作業を覗いて、簡単な指示を与える程度であり、殆ど丸投げと言っても良い状態であった。このため、本例は、“ダメ”との評価を下した。
(2012年6月1日に続く)