1 商品企画段階〜構想設計段階における状況及び問題点
商品企画段階〜構想設計段階では、3次元CADは、図面の読めない営業関係者達と設計を中心とする開発関係者間での、意思疎通を図るコミュニケーションツールとして、専ら用いられていた。商品企画会議やDR1からの会議の場面で大型スクリーンに映し出しての、対象商品の外観や、新企画の機構・構造などの説明用途だ。
3次元モデルの作成は主に派遣や外注のオペレータが担い、設計者達がその構想を詰める目的で、3次元CADを駆使している様子は、その説明や見学した設計室内の様子からも垣間見ることは出来なかった。どちらかと言えば、PowerPointの図形表示機能では、陳腐なため、説明スライドに彩りを付ける用途としか見えないような使い方であった。
一方、私がかねがね提唱しているフロントローディング設計にも、取り組もうとする試みが行われていた。構想設計段階での新機構採用検討において、複数の案を比較検証するなどの取り組みだ。簡易試作なども折り込み、着実な検証が頻繁に行われていることが把握できた。
しかし残念なことに、新機種の構想設計着手時、機械構造全体から見た素性の良い機械構造への追込みや、物作り観点から見た、造りやすい、ばらつきの少ない製品構造への追込みなど迄には、手が回っておらず、これでは大きな効果は得られていないはずで、彼らの説明からも、その効果は限定的であることを確認した。
また、複数案検証の作業は、その開発を担当する設計チームではなく、解析、検証担当の専門チームがあり、設計チームとは別枠で手がけていたことにも失望した。
確かに手慣れたメンバーに、この部分を担当させることは、手間も少なくなるし、ミスを犯すことも滅多にないだろう。しかし新機構を構想した設計者達が、その検証に彼らの意図を、巧く落とし込むことが出来なければ、本当の意味での検証にならない場合が、少なくないはずだ。また検証作業を進めてゆく途上での、構想案の微調整も取りづらいし、構想案の駄目さが判り、途中で案を引っ込めることなどは、絶対出来ない。
そしてこの状態だから当然のことではあるが、私が提唱している“雛形モデル”を駆使した予測型設計へは、その端緒にさえ至れていなかった。
さらに問題だったのは、商品企画会議やDR1からの様々な検討会、意志決定会議などに、物作りのメンバーが参加していなかったことだ。確実に作れる設計、品質的にばらつき無く作れる設計、可能な限り低コストで作れる設計は、この段階で織り込まなくては駄目だ。量産移行段階・生産準備段階に入ってから、設計変更依頼を連発するなど、以ての外だからである。
なぜなら、試作検証段階を経て出来上がった量産移行モデルは、既に機械システム全体に影響を及ぼすような変更は出来ない。もし変更を加えたら、本来なら試作検証を、振り出しに戻ってやり直す必要がある。それを怠ると、量産出荷後の市場クレームに、間違いなく繋がる。
私がこれまで見てきた多くの製造業で頻発していた、市場クレームの大半は、この段階での安易な変更や、再検証の欠如が、その原因となっていた(開発途上で、無節操な開発仕様変更がなされたケースを除いて)。
折角営業マン達のために3次元CADで形状や構造を“モデリング(設計ではない)”してあるのだから、この段階から物作りサイドの知恵を頂かなければ話にならない。
「コンカレントエンジニアリングによる設計の改革術」を参考にして頂き、“コンカレント設計”の実現を目指していた割には、迂闊な展開内容であった。(続く)
(2012年5月18日に続く)