CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

皆さん巧く3次元CADを活用できていますか?(その1)




はじめに

3次元CADを十数年前に導入して、その定着・活用に励んできた製造業に、先週、一日がかりで、単発コンサルテーションを行ってきたので、その概要や問題点を紹介する。

通常は、私が行ったコンサルテーション内容を、このように公表することは、絶対に無い。しかし本件は、本ホームページを始め雑誌や講演などを含めて、その内容を公表しても良いという条件で、廉価な料金で引き受けた話なので、心おきなく皆様に紹介させて頂く。当然何処の企業かは、絶対に判らない内容にすることが条件だが。

この訪問先は、大手製造業の、主に産業用機械をその主力商品とする(一部一般消費者向け製品もあるが、)事業部隊である。そしてこの製造業における3次元CADとの関わりは、ちょうど私が「3次元CADによる設計の改革術」を執筆し、「機械設計」誌や「日経メカニカル」誌などに、3次元CADの有効性や、次々と強化される様々なCADの、利点不利点、特徴などを紹介していた時期である。

そしてその導入に際しては、上記した拙著や、その後に出した「コンカレントエンジニアリングによる設計の改革術」などを、大分参考にしてくれたようで、私の評価基準からは、概ね及第点の導入ステップを踏んでいた。興味のある方は、拙著をお読み頂きたい。

特に「コンカレントエンジニアリングによる設計の改革術」の3.3〜3.5章には、注意点なども含めて、失敗しない3次元CADの導入方法を詳しく解説してある。

また選択したCADも、当時最もシェアのあった拘束性の強い物を選ばず、私が最も評価していた物を選んでいた。またPDMや、製造現場における図面レスなどの周辺環境整備も、インフラ整備という視点では、ほぼ申し分のない状況に仕上がっていた。

しかし問題は、これまで投下してきた、膨大な費用に対する、投資対効果の出来映えにあった。全く効果がなかったというわけではないが、私がこれまで各所で仕上げてきた設計改革や事業改革の成果に比べて、あまりにもその効果度合いが少なかった。

尚参考にまで、これまで私が各所で手がけてきた取り組みの成果例を図1に示す。


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図1 設計改革・事業改革の効果例


そして結論的には、導入当初描いていた壮大な構想が、担当責任者が変わる都度歪められ、場当たり的な施策を繰り返すことで、表面的なアピールしやすい点だけが目立つ結果となり、実質的な改革まで至れていないことが判明した。

要するに、結果的に“仏造って魂を入れず”の状況に陥っていたのだ。しかもベラボウに手間と費用を掛けた仏像だ。

確かに、3次元CADを始め、上記した設計支援ITインフラは、この企業(部門)では、取って換えることが出来ない必須の道具となっており、今更2次元に戻ったり、これらを前提にくみ上げられてきたシステムを、おいそれとはいじることが出来ないレベルにまで達している。

だから当日、「効果が余りにも薄い!」「仏造って魂を入れずだ!」などとの指摘を、私から受けたときに、彼らの殆どが戸惑いの表情を浮かべた。何処とも無く「今更いじれないよ・・・」などとの囁きも、彼方此方で上がった。

しかし私は何も、これまで大枚を投じて、膨大な工数を費やして組み上げてきた、設計支援ITシステムを、「組み替えろ」などと言うつもりは全くなく、ただ「折角の道具の御利益が、見せかけの効果だけに止まり、製品開発・物作りの根幹部分のブラッシュアップに、殆ど役に立っていない」と言いたかったのである。

そして

「要は道具などは、よほどひどい物でなければ何でも構わない。」
「必要なのは、高品質且つ高効率な製品開発や、安定した物作りの実現を妨げている“駄目な所”を徹底的に探し出すこと。」
「そして10年、20年先の自部署のあるべき姿を描きつつ、“駄目な所”を不味い順に解消してゆく取り組みを行うこと。」
「これが出来なければ、いくら先端の道具を用いても、大きな効果など得られるわけがない」
「把握した貴社の状況は、そのスタート当初には壮大な夢を描き、実際に幾ばくかの思いや狙いが、その計画に込められていたと思う。」
「しかし取り組みが進む内、特に担当責任者が変わる都度、方向性がずれたり、本末転倒な取り組みに、終始していたと見えて仕方がない。」
「大きな投資対効果が欲しかったら、インフラ整備は即凍結して、絵に描いた餅では駄目だが、製品開発の進め方などの仕組み作りや、設計者を始めとする関係者の徹底した意識改革が、今後取るべき最優先の取り組みと考える。」
「そして、既に構築を済ませてしまった設計支援ITシステムは、新しく組み上げた開発の仕組みに、合わせた使い方へと改めて行くべきだ。」
「しかし、組み上げてしまったシステムを、今更大幅にいじることは、具の骨頂だ!今言った取り組みを行うにあたり、どうしても駄目な所だけを、微調整だけで済ますべきである。」
「なるべく生かして使う工夫に、精々知恵を絞るべきである。」

  との私からの纏めとしての発言を聞くと、彼方此方から安堵の吐息が聞こえた。

しかし本当に御利益のある取り組みを行おうとしたら、苦難の道が待っていることを、彼らは未だ認識できていなかったようだ。そして私も、あえてその難しさには触れず、当日のコンサルテーションは終了した。当然、中核の関係者達には、その翌日概要提案という形で、その難しさをレポートしたが。

ことの全容は以上だが、次回からは、具体的にどのような状況だったかを、順次説明してゆく(続く)。

(2012年5月11日に続く)
次を読む


補足;

3次元CADの導入効果への評価で、私が“設計の生産性向上や質向上”、“物作り部分の生産性向上への波及”、“市場クレーム撲滅”、“稼げる商品開発”、などに言及すると様々な反論が帰ってくる。


「2次元図面が読めないことによる設計ミスや加工・組立ミスの削減や、営業や製造を巻き込んだコンカレント開発実現のために、3D CADは入れたのだから、そこまでを評価範囲に入れる必要はない!」
「金型制作や組立シミュレーション、取説やパーツカタログで生かされているのだから、それで良いのではないか!」
「若い設計者が、誤魔化しの出来ない制約の中で設計を行っているのだから、それで十分だ!」
「3D CADの稼働率は、常に90%以上の稼働率で使われているのだから、それで充分に導入成果があったのではないか?」
「3D化に対する抵抗勢力がいるから、本来得るべき成果が出ないのだ、投資対効果が薄いと言われても、我々の手ではいかんともし難い!」
など様々だ。

しかしよく考えて欲しい、既に多くの製造業が通過した、2次元CADから3次元CADへの移行は、単に製図端末を置き換え、その操作さえマスターできれば、全てがスムーズに行く取り組みでは無かったはずだ。特にそれを操作する設計者達への負担は、半端な物ではなかったはずだ。

だから多くの製造業では、導入を正当化するために、またかけ声として、“設計改革の切り札“”コンカレントエンジニアリングの実現“”手戻り・後戻りの撲滅“”設計・製品加工データの一気通貫“など、絵に描いた餅を掲げたはずだ。

ならば、その掲げた目的が実現できていなければ、3次元CADの導入は失敗だったのではないのか。そもそも、たかが道具の置き換えが、多くの場合、本音の目的になってしまっていたところに、大きな問題がある。

都合の悪いことに、3次元CADの導入には、多大な投資が必要とされ、また設計者達への負担も膨大な物である。中途半端な御利益では、稟議を下ろすメンバーからの理解が得られない。このため、私が知る多くの事例では、絵に描いた餅の、バラ色の将来像を描き、半分誤魔化しながらの導入を進めていた。厳しく言えば、本例もこのケースに当てはまる。

私は「3次元CADによる設計の改革術」のタイトルでも判るように、常々道具の入れ替えだけの目的で、2次元CADから3次元CADへの移行は、費用と手間の浪費であると警鐘を鳴らしてきた。しかし残念ながら、本例のようなケースが後を絶たない。

繰り返し言うが、3次元CADに限らず、設計支援ITツールの導入は、製品開発や物作り部分の根幹部が、ブラッシュアップされることに結びつかなければ、意味・意義を持たない。「自分たちの取り組みが、もしかすると巧くなかった?」と思い当たる方々は、早急にこれまでの取り組みを、徹底的に振り返ることをお勧めする。



参考1;

図1に示した取り組みの効果事例は、取り組みに費やした費用と、その結果削減できた手戻り・後戻りなどのロス分、製造部分でのロス分・市場クレームなどによるロス分の比較を示している。これだけでも十分な効果があるのだが、実は、私がこれまで手がけてきた多くの製造業では、これ以外にも大きな成果を上げている。

それは、適切なタイミングで、顧客に喜ばれる製品を、可能な限り手頃な値段で提供できる様になったことで、市場競争力が大幅に強まったことだ。結果として、ヒット商品を他社に先駆け連発できる様になり、大幅な売り上げ増加が実現でき、値崩れする前の売り逃げで、大幅な収益率向上が図れている。

そして当然、私の手元には、これらを紹介する様々な資料があるのだが、残念だがここで紹介することは憚られる。なぜなら、同業の方が見ると、対象社名や製品が判ってしまう危険性があるからだ。

もし興味を持たれて、どうしてもこのあたりの具体例を知りたいというと言う方は、以下の問い合わせ欄から、私に問い合わせ願いたい。役員クラスの方々を含め、幾名か集めて頂ければ、私の営業行為と言う位置づけで、皆さんの所に伺い説明をさせて頂く。ただし旅費の実費だけはお願いしたい。

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参考2;仏造って魂(たましい)を入れず

 

物事をほとんどなし遂げながら最も肝要な一事が抜け落ちていることのたとえ。