ところで先ほど説明頂いた設計者向けCAE活用の件ですが、私の常識からみて、少々疑問に感じる解析結果がありましたので、活用事例をもう少し詳しく説明して頂けますか。具体的には、最初の例と、確か4番目の複雑な形状をした、何かのハウジングらしいダイキャスト部品の例です。
推進メンバーA;
最初の例は、補助機器をマウントするブラケットを補強するバー状の釣り具です。重量方向の負荷だけを受け持てるように、両端はピンで結合してあります。解析結果では、上下の結合部付け根部分にバーの面方向に, 曲げ力による高い応力集中あることが判り、その部分にあて板をして問題発生を防いだ例です。
4番目の例は、**装置のハウジングの、機械全体が衝撃荷重を受けた場合の強度解析例です。6点を防振ゴムでマウントしてあり、その部分近傍に高応力発生が見られるため、マウント回わりの肉厚を上げ、さらに補強リブを増やして問題を解決した例です。
設計責任者(@@さん);
釣り具の面内方向には曲げ力は働かないだろう!
**装置は、柔らかいゴムでフローティングマウントでは無かったのか?何でマウント部分近傍に異常に高い応力がでるのか?
最初の例は、釣り具には引っ張りの軸力しか掛からない構造になっていますよね?釣り具に圧縮方向の力が掛かった場合には、ピン部分が滑ってその力を逃がす構造ですよね?そのためにスライドガイドが付いているのですよね?
@@さんが言われるよう、バー状の釣り具の面内方向に、なぜ曲げの力が働くのでしょうか?
もし私の理解が正しければ、この構造だと、面外方向にガタで吸収しきれない分の曲げの力が作用することがあっても、面内方向は引っ張りの面内力しか働かないのではないのでしょうか?
解析モデルのピン結合部の拘束条件はどのようになっていますか?恐らく剛結合になっていたり、ピン部分に適切な回転自由度を与えていないのではないでしょうか?
また4番目の例も。@@さんが言われるよう、柔らかいゴムでフローティングマウントであるなら、私の経験的に、見せて頂いた解析結果の応力分布には、疑問があります。恐らく6カ所のマウント部分全体を、やはり剛結合しているのではないでしょうか?
お待ちしますので、解析を担当した方々に、生データを持って来るようご指示下さい。
私はシミュレーション技術を駆使した、フロントローディング設計実現を、各所で展開しております。貴社におけるCAE活用の狙いも、ここにあるはずです。そして今ご説明頂いた様な解析モデルも含め、私は、これらを仮想試作モデルと申しております。
この仮想試作モデルは、その妥当性が吟味・評価されたモデルでなければなりません。なぜならメカニズムを違えた仮想試作モデル擬きは、仮想試作モデルではなく、単なるデタラメモデルにしか過ぎないからです。見た目は似ていても、単なる“絵に描いた餅”でしか過ぎません。
FEM(CAE)を用いる場合には、特に境界条件は重要です。少々メッシュの切り方が悪くても、全く傾向が異なる結果は出てきません。
ところが荷重や拘束などの境界条件を違えると、そのモデルは、実際の機械に起こる物理現象と、全く異なった物理現象を、算出してしまうことになります。当然の事として、CAEツールは、与えられた条件のまま、機械的にその解を導いているからです。
しかし皆さんは、なぜ今日までこのような問題点に気付かなかったのですか?Aさんの説明を聞きながら、@@さんは、直ぐに疑問の声を上げられました。機械設計者の常識としての疑問だったはずです。
FEM(CAE)など知らずとも、材料力学や構造力学が理解できており、自分の扱う機械のメカニズムが、完全に理解できている設計者なら、誰でも判る話の筈です。にもかかわらず、今日まで見逃してきた理由は何なんでしょう?
恐らく、本例の原因は、CAEツールを用いた担当者が、機械のメカニズムが完全に理解できておらず、また境界条件の設定が重要だと言うことも知らず、ただ漫然と、自分の思い込みの中で使ってしまったことが最大の原因だと思います。
さらに、その得られた結果を、何の疑いも無く、自分自身の設計者としての経験や常識の中で、その評価をしっかりと行わなかったこと(思いつくだけの力量が無かったのかも知れないが)にも、大きな原因があるとおもいます。
しかしもっと悪いのは、部下の上げて来た解析結果を、ただ漫然と鵜呑みにしてしまった上司の皆さん方です。
ところで、紹介頂いた5例中に、明らかに誤りと分るものが2例もありました。それ以外にも首をかしげる物もありました。恐らく貴社におけるCAEシミュレーション技術活用の目論見は、極めて無惨な状況にあると思えます。
単純に考えただけでも、貴社がフロントローディングを目指し取組んだ、CAEシミュレーションは、やらなくても良い無駄な補強や、的はずれな対策を生み、シミュレーションを施した半分の部品では、それでなくてもコストダウンを迫られるこのご時世に、オーバースペックな部品となっているはずです。若しくはクレームを引き起こす、極めて危険な部品としての可能性を、孕んでいるはずです。極めて深刻な話です。
今後貴社で、軌道修正を行ってゆく際には、このあたりを十分に念頭に置き、外れのない取組みを行われることをお祈り致します。
また私のホームページでは、このあたりの注意事項に関してのコラムもたくさんありますので、後でお読み下さい。
開発期間削減に役立てるCAE技術の使い方