CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

30年以上前に作成された設計標準類が、ほとんど使われず大量にあるのだが活用する方法はないか?・・・べからず集や技術的背景を明確に示していないマニュアルではダメ、根拠・メカニズムを明確にした設計指針書として再生すべき



■質問■

<前略>

弊社には、30年以上前に作成された設計標準類が大量にあります。社内スタンダードや事業所内スタンダードとして正式文書化された物から、歴代の設計者達が蓄積してきた設計注意書的な物まで、驚くほどのボリュームとなっております。

ところが、ここ20年来の様々な技術革新は、それらの設計標準類を陳腐化させ、極めてベーシックな(物づくりや工学的に基礎的な物)を除き、そのほとんどが活用されていない現状にあります。

私に言わせれば、「弊社のような製品は、30年前も今もその基本的なところは変わっていないのだから、昔の設計標準を工学的見地で今に置き換えて使えば、充分に活用できる」と言う考え方なのですが、若い者達からは総スカンの状態です。

しかしその若手設計者達は、かつての設計注意書などをしっかりトレースしていれば起こさないような、まさにレベルの低い手戻り・後戻りを懲りもせず連発させており、一向に設計の生産性や質の向上が叶いません。

彼らに言わせれば、「かつての設計標準類は、当時の物づくりや使用材料などの技術的な制約を前提にしており、その根拠も明確に判らず、闇雲にかつての標準に従えと言われても、問題が起きたときに対処のしようがない」「現実に20年ほど前から、かつての設計標準に従って行った設計で、数多くの問題が発生したために、徐々に使われなくなってきたのでは無いか?」等々、もっともらしい反論が帰って来るため、私としても闇雲にかつての設計標準を使えとも、言い難い状況です。

そこでご助言を頂きたいのですが、弊社と同じような製造業は、我が国に少なからずあると思いますが、うまく昔の設計標準類を生かせている製造業があるのでしょうか。そしてそのようなケースでは、どのような方法で生かせるように持って行っているのでしょうか。先生がご存じの範囲で構いませんので、ご助言を頂けますと幸いです。

<後略>

■回答■

これまで私の関わって来たケースでは、そのほとんどで結果として“価値のある(技術的に意義があり現状に適用できる物を峻別し)”昔の設計標準類を、活用できる形に進化させ、活用を行っております。しかしかつての設計標準類の内で、そのまま流用できているケースは、貴社と同じように、極めてベーシックな物以外は、存在致しません。

歴史ある多くの製造業では、ほとんど例外なく30年前には、何らかの形でせっせと設計標準が作られていたと思います。特にTQC華やかし頃、設計そのものを良く理解できない品質管理の指導者達は、設計固有技術の具象化(文書化)に躍起となり、設計部隊に継承技術や設計ノウハウの設計標準化を強く求めておりました。その結果、多くの製造業で様々な設計標準が作られることになりましたが、その内容は残念ながら玉石混合の状態が一般的だったと理解致します。

特に質の悪い物は、当時担当していた設計者の設計経験だけを根拠に、科学的・論理的な根拠や対象機械のメカニズム側からの検証が不完全(中には全く行われず)なまま、設計標準化されており、これらが後の世代に、当時の設計標準など使い物にならないと言う先入観を抱かせる大きな原因になっております。

また同様に、欧米メーカから技術導入を行った製造業の設計標準類には、導入元の設計マニュアルをそのまま日本語化した物も少なからずあり、これらも上例同様昔の設計標準に不信感を抱かせる大きな原因になっております。

いずれのケースにも言えるのですが、これら“質の悪い物”は、そのほとんどが“べからず集”であったり、根拠を示さない“しなさい集”で、それでも30年前の製造技術や対象機械の使われ方では、破綻を来さず一応は使えていた代物です。

しかし経験則の積み重ねから生まれた(技術的な追求を行わずして)“べからず集”や“しなさい集”では、その時点までの環境では、たまたま巧くいっていた設計敷居値が大量に混在することになり、製造技術や生産形態の進化や対象機械の使われ方の変化に伴い、時流に追従できない設計標準に陥ってしまったわけです。技術導入先の設計マニュアルを、そのまま日本語化した物も同様な問題点を孕んでいたわけです。

しかし、これまで私が関わってきたケースでは、技術的な追込みがしっかりなされていた形跡があり、様々な“べからず”や“敷居値”に、その科学的・論理的な根拠がしっかり示されている物のほとんどは、今でもしっかり活用できる物でした。当然製造技術などの、周辺環境の変化に対するチューニングは必要ですが、対象機械そのものの原理原則や基本的な使われ方が変わっていない製品では、大抵大きなチューニングも必要としなかった記憶があります。

当然、使用する部品類の基盤技術が大幅に進化(異なる技術に入れ替わった)したAV製品や、家電製品などは、30年前の設計標準の多くは陳腐化してしまっているケースもありますし、その使用素材や制御技術が大幅に変わった乗用車などでも、チューニングで活用できる設計標準と、全く陳腐化してしまっている物が混在しているケースもあり、このあたりはそれぞれの状況を冷静且つ的確に判断して、自分たちに最もあった(合理的な)方向を選べば良い事だと考えます。

ちなみに私の知る限りの貴社製品の部類から判断すると、かつての設計標準が上記したようなしっかりした物であるなら、充分に活用できる筈だと考えます。

では、具体的にどのように使えるように再生して行くかですが、「過去の設計標準に対して、******************************会員の皆様だけお読み頂けます****************************************。」この作業を惜しんでは、かつての設計標準の再生は難しいと考えます。

もし貴社の30年前に蓄積した設計標準が、充分に技術的な追込みがなされている物であるなら、それ程手間を掛けずに、活用可否の選別と現状に合わせたアップデートが叶うと思います。しかしこの部分に問題があるとしたら、極めて大変な作業になると思います。

このあたりは、貴社の現状や30年前の設計標準類を良く拝見しないと何とも言えない部分であり、是非私どもの“現状診断”を受診されることをお奨め致します。

なお、これらの作業を行うに際して、私の提唱しております「設計思考展開」は、極めて有効に役立ちますので、一度チャレンジして頂けたらと思います。当然ご依頼頂ければ、これらの取組のご支援を申し上げることも吝かではございません。