CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

21世紀を勝ち抜ける我が国製造業の必須要件は、運命を共にしてくれる優秀な人材の確保(その3)


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目先の利益しか追えない“ダメ経営者”が我が国製造業を苦境に陥れた。人材力の大幅低下と貴重な固有技術の技術流出だ!


そしてこの“ダメ経営者”達が行った愚かな経営は、企業としての総合力を劣化させただけではない。その節操のない人員整理は、我が国製造業を苦境に立たせる大きな原因をも生んでいる。

私は、その仕事柄、バブル以前から多くの製造業の主要エンジニア達と交流を持ってきた。中には、企業活動を行ってゆく上で障害となるであろう人もいた。しかしその多くは、それぞれの企業を中核で支え、近い将来企業経営の中枢で、その力を存分に発揮すべき人材だと評価できる方々であった。

しかしバブル崩壊で企業収益が一気に悪化すると、彼らの多くには、半生をその発展に尽してきた職場を去る運命が待っていた。中高齢者を中心にした員数合わせ的な、有無も言わさずの、強制とも言って良い人員整理だ。長中期的な技術戦略や人材戦略など全く歯牙に掛けない、固有技術や伝承技術の継承なども全く配慮がなされない、なりふり構わずの人員整理である。

各部門長達は、首切り指導を生業とする輩達(自称人材コンサル)に、個人面談のやり方を学び、そのマニュアルに従い、個人としての人格否定も含めた離職を執拗に繰り返したのである。中には、ノルマの人員整理が終わった後、このような人員整理を行う自社に嫌気がさし、自ら退職した部門長達も少なからずいた。これらは、危うく人材整理の片棒を担がされそうになったコンサル先で、直接私が見聞した話や、後に旧知の当事者達から直接聞いた話であり、それらの比率から推察して、我が国製造業の半分以上で、このような愚かな行為がなされて居たと見ている。

その結果、かねてより私が警鐘を鳴らしている、多くの製造業における人材力の不足が、当然起こるべくして起こっている。さらに犬猫のように非情に捨て去られた人材達は、明日の糧を求め、口を広げ待っていた、サムソン等に大挙して流れ込む事になった。上で挙げた東芝の半導体技術が、どのようにしてサムソンに流れたかは、周知の事実である。半導体に限らず、液晶や金型などでも、数えたらきりがない様々な分野の貴重な技術が、我が国製造業に残らず、韓国企業に流れた(最近では中国にも)。

要するにバブル崩壊以降、我が国の製造業を多く(少なくとも半分以上)を仕切ってきた“ダメ経営者”達は、結果としてその自己保身のため、二重三重に我が国製造業を苦況に陥れる重大な罪を犯した。製造業として必須な人材育成・人材確保の失敗と、後を追ってくる韓国・中国企業への貴重な技術流出の罪である。

余談だが、米国の戦略に陥られ招いたバブル崩壊から20年余り、その政治を主導した政治家達は、本当の意味での国力強化を考え取り組むこともなく、無策を続けた結果、我が国製造業は、一向に立ち直りの機会を見出せずにいる。特に“小泉・竹中似非改革”は、我が国製造業の最も強みであった、終身雇用と長中期展望に立った人材育成環境を、製造業派遣により崩壊させ、さらに郵貯をはじめとする我が国国民の貴重な財産を、国力強化に生かすことも考えず、米国に渡そうとした。最悪だ!さらに今頃、少子化問題を叫んでも、もう手遅れかも知れない。

さらにそれに輪を掛け、公僕(国民のための召使い)たる役割を忘れ、目くらましの似非行政改革など、様々な政治の愚かさに乗じて、自己の利益(省益・自己の老後利得)のみを追求し続けたキャリア官僚達のおかげで、800兆を越える借金が国民に残された。いずれにしろこの借金を何とかしないと、我が国は遠からず崩壊する。


借金漬けの我が国が生き返る原動力は“製造業”


資源もない我が国が、平和的にその国力を増し、積み重ねた借金をなくすためには、やはり製造業に頑張って貰うしかない。

各所で訴えているのだが、これからの我が国製造業は、「全世界の顧客ニーズにマッチした、安全で高品質且つ適正価格の製品を、より短期間且つ低コストに開発できる実力を持ち、常に安定した商品開発と製品供給が叶う実力を持ち続ける事が出来る事業体質」に、自身の事業体質を変革し、欧米製造業は基より、後を追ってくる韓国・中国などの新興製造業をも席巻できる企業力を備え、世界中で喜ばれながら稼ぎ続けるしかあるまい。

企業組織としての製造業の存在意義は、社会正義に反することなく、適正な利益を上げ、株主に適正な配当を行うことにある。当然、利益を上げるために身を粉にして働く従業員に対しても、応分の還元(分け前)がなされなければならない。また、企業活動を行っていくうえで、協調関係にある社会への適正な還元も当然だ。

そして我が国製造業には、挙ってこの本分を果たして貰い、大いに稼いで貰い、800兆を越える借金をなくす原動力になって貰わなければならない。さらに、増え続ける高齢者達が豊かで安心できる老後を過ごせるような、環境作りも急務である。当然現役世代が頑張って働いて貰うためには、より負担が少ない、より安心で豊な生活が、過ごせる社会を作る必要がある。

見ようによっては、製造業に対する過大な期待と言われるかも知れないが、我が国が平和的に国力を増すためには、この選択肢しかない筈だ。戦後急激に成長できた我が国製造業の実績と蓄積、知的ポテンシャルが平均的に高く、勤勉な我が国の国民性を鑑みたとき、決して不可能な事ではないと考える。

そして我が国の製造業がこの責務を果たすためには、常に“旬でよく売れる商品”を開発して、市場投入を行い、市場から正当な利潤を上げて、株主・従業員・社会への適正還元を行い続ける必要がある。

要するに我が国製造業を、全世界の顧客ニーズにマッチした、安全で高品質かつ適正価格な製品を、より短期間かつ低コストに開発できる実力を持ち、常に安定した商品開発と製品供給を行えるようにすることだ。 そしてその結果、我が国製造業が潤い、株主が潤い、従業員が潤い、関係者が潤い、国民全体が潤う構図を作り上げることができれば、我が国の国力は増し、積み貯めた借金を消し去ることができると言う物だ。また豊かで安心・安全な国民生活を築き上げることもできよう。

当然、これら製造業が、その納税先や雇用先を、我が国以外に持ってゆかないような仕組みを、お互いがメリットある形で築く必要もある。

しかしだからといって、貿易摩擦を防ぐ目的や、物流コスト削減、更には現地マーケットのニーズに直結した製品開発及び生産のためには、各マーケット近くでの現地開発や生産も当然避けて通れない。いや恐らく将来的には、このようなスタイルが支配的になるに違いない。

しかし私が提唱する考え方では、このような状況は想定内で、国内には、経営の総司令塔である総本社機能と、中核開発拠点及びマザー工場、極めて高度な加工・組み立て技術を要する、付加価値の高い生産工場以外は、置く必要はないと考えている。主な稼ぎは、これらの中核拠点が生み出す知的成果物を現地展開し、それぞれからロイヤリティー(製品や生産方式の)を、広く浅くかき集めれば、充分な収益を得ることができると考えているからだ。

歴史的にも明らかだが、労働集約型の物づくりだけでは、その利幅は知れている。また現在の中国、さらには、今後進化するであろう新興工業国とでは、その賃金ベースでも勝負になるまい。その結論が私の提唱する、これからの我が国製造業のあるべき姿であり、労働集約ではなく、知的集約で、他が追従できない圧倒的な製品(商品)開発力を備え、価値の高い商品を売りまくり、利幅多く稼ぎまくることができる企業組織を、確立することである。

さて、私が提唱する強力な製品(商品)開発力を備えた製造業には、強力な技術力や想像力を備えた人材力が必須となる。かつて我が国の高度成長を支えた、スーパーエンジニアの集団がいれば苦労はない。しかし残念ながら、現在私がコンタクトを持つ多くの製造業において、このようなスーパーエンジニアが、ほとんどいなくなってしまった。それには以下のような理由があるのだが、まずはこの部分で、的確な手当を行ってやることが、我が国製造業の生き残る道である。さらに国力という視点で考えると、一製造業にこのような取組を任せるだけではなく、国家的な最優先課題として、国が先頭に立って取組むべき施策だと考える。

さらに価値の高い商品を売りまくる為には、製造業だけでは対応できない壁もある。特に輸出で稼ごうとしたとき、国家的な戦略性を持った取組が必須だ。外務省に強力な商社機能を持たせ、国家として戦略的に営業行為を行う必要性がある。しっかり稼ぎつつ、かつ輸出先と摩擦を極力引き起こさないような取組は国家組織でないと難しい。商社人材については各商社から送り込んで貰えばよい、”通商担当”などの外交官の肩書きを持った(外交特権を持った)商社マンは、その動きやすさなどから強力なはずである。

また、昨今取りざたされている、原子力発電所や新幹線などの各国国家プロジェクトへのアプローチは、ただ大臣を売り子にして送り込むだけでなく、その情報収集や根回しも含め、このような組織でないと難しいと考える。更にその連携を考えると、人材を外交官として派遣するに留まらず、大手商社の海外出先オフィスを、各大使館や領事館などに同居させるくらいのことをやっても良いだろう。

なお現在の外務省が行っている、邦人保護や外交事務などは当然未来永劫必須なのだが、旧態然(20世紀流の)とした外交交流や、役にも立たない情報収集などに、税金を無駄に費やす必要はないと考える。その事業内容を原点に戻って徹底仕分けし、そこで余った余剰費用(外交貴族の大幅削減も含め)を、上記した商社機能へとつぎ込むべきだと考える。

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