CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

21世紀を勝ち抜ける我が国製造業の必須要件は、運命を共にしてくれる優秀な人材の確保(その4)


前を読む

人材確保のポイントは、フツーのエンジニアをスーパーエンジニア並みに活躍させることだ


私は、これまでに様々な製造業の、160を超える設計部署や事業部隊に対して、事業改革や設計改革を目的とした現状診断を行ってきた。そしてこれら設計現場における実態として、これまで一握りのスーパーエンジニア達に、その商品開発を委ねて(頼り切って)きた状況を把握している。この状態は、ある規模以上の製造業であれば、何処でも同じような状況と言っても過言ではない。

例えばだいぶ前に行った診断先で、1000人近くの設計者がいる設計部署があった。そしてこの設計部署では、1000人もの設計者がいても、私の厳しい物差しで、「本当に役に立つ設計をしている人が何人いるか」と言う視点で設計者を評価したところ、何と10人程度しか本当に役に立っている設計者は存在しない事が判明した。それは、私がこれまで経験した160件を超える診断先の何処でも、その程度の差こそあれ同じような状況だった。

恐らく、読者諸氏が在籍する設計部署でも、実態は同じだと思う。「重要な役割、重要な仕事、重要な開発は、この人にしか任せられない」「このプロジェクトは、この人とこの人にしか任せられない」云々。要するに、このようなエース設計者、すなわちスーパーエンジニアに頼っている実態が多くの設計部署にある。 

そして昔は、このスーパーエンジニアが大勢いた。しかし現在何処の設計部署に行っても、指折り数えるほどしか、このスーパーエンジニアがいない実情がある。

私は現在59歳だ。私の年代は、丁度戦後のベビーブーム直後の世代で、私より上の世代は、物凄い数のベビーブーム世代だ。当時の大学進学率は、今ほどは高くは無かったが、大学に進学する学生の半分は、理工系の大学に進学した。そして理工系に進んだ学生達は、挙って当時成長の真っ直中にあった製造業にそのほとんどが進んだ。

すなわち、まずは子供の絶対数が多かった。その内の大学進学者の半分は、理工系に進んだ。更に、その内のほとんどは、製造業に進んだ。このため、当時の製造業には、現在に比べたら格段に多い数で、質の高い人材が供給されていた訳だ。





図1 子供の出生率


ところが現在の状況は、まず子供の数が半分近くに減っている。図1に示すように1947年には270万人いた出生者が、1960年代には160万人に減少している。その後ベビーブームジュニアの時代に一時期200万人を回復したが、その後100万人に近い線まで急激に落ちてきている状況が見て取れる。

さらに製造業にとって都合が悪いのは、その減った子供の内から、優秀な子供達が理工系に進まなくなった事実がある。20年近く前に3Kという言葉が流行った。「キタナイ・キツイ・キケン」の職場を指す言葉だ。まさに製造業の物作り現場は、建設業と並んで典型的な3K職場だ。若者達がこの3K職場を避けるようになってしまったのである。

現在でもその風潮は続いており、理工系の大学にまず行きたがらない。さらに、理工系の大学・大学院を卒業しても、製造業に入りたがらない状況が定着し、製造業に優秀な人材が供給される比率が大幅に減ってしまった事実がある。 就職難真っ直中の今現在でさえ、なかなか所定ポテンシャル以上の人材が来てくれない。

私は、現在の技術士事務所を設立する前は、大手広告代理店の子会社に在籍していた。CAEソフトなどを扱う老舗のIT企業だ。そして時は、丁度バブルの真っ最中。大手広告代理店のブランドと、背広にネクタイのサラリーマン生活を目指した、理工系出身の新卒就職希望者が、大挙して押しかけてきた場面に遭遇している。

仮に、昔も今も、優秀なスーパーエンジニア候補生が、その子供達の中に同じ比率でいるとする。そうすると、上記のような状況を鑑みると、現在の製造業には、今5・60代の人達が就職した当時に比べて、半減どころかそれ以下の人材供給量でしかない事になる。私の感覚では、1/4程度にまで下落しているのではないかという実感さえも持っている。

私が新入社員で、ある建設機械メーカに就職したころには、設計部署の人材選考は、一度新卒者の半分以上を設計部署に配属し、その中からふるいにかけ、使えそうな人材だけを残してゆく傾向があった。幸い私は、ふるいから落ちずに、先で例に引いたIT会社に移る迄の8年間、開発設計者としての仕事を全うできた。しかし、同期入社で一緒の設計部署に配属されたメンバーの、少なくとも1/3は、割合早い時期に設計以外の部署に配置転換されていった記憶がある。

私がコンサルタントとして、世の中の状況を見るようになってから、コンサル先での会話の中で、私が経験したと同じような、ふるい落とし式による設計人材選別のやり方を、各所で聞いた。さらに独立開業後160件を超える設計部署を、実際に診断を行った結果からも、多くの製造業で同様な傾向を把握できている。

昔、人材が豊富に供給された時代には、私が経験したようなふるい落とし方式でも、優秀なスーパーエンジニア候補生が毎年確保できた。そして“技は盗んで覚えろ”方式の人材育成方法でも、彼等は頭角を現すことができた。

ところが、人材供給が大幅に減ってしまった現在の製造業で、同じ事をしていたのでは、まともな商品開発は、叶わないことになる。何故なら、仕組みなど作らずとも、色々な手法等は使わなくても、着実に“旬な商品開発”が出来たスーパーエンジニアが、大幅に減少してしまったからだ。

そうすると結論は、昔は主戦力とはなれなかった、また今ではその能力の故、”作って””壊して””考えよう”を繰り返している普通の設計者でも、スーパーエンジニアに匹敵できるくらいの仕事をこなして貰わなければならなくなる。

だから私は、これからの我が国製造業は、これまでスーパーエンジニアに頼ってきた高品質商品開発を、組織力として対応出来る体制に早急に変えなければならないと唱えている。

次を読む