CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所


垂直立上げの秘訣は量産出図後一定期間は製造側都合による設計変更を認めないこと(後編)




■質問■

<前略>

弊社では、15年ほど前から先生の御著書や機械設計の連載などを参考にさせて頂き、フロントローディング開発に取り組んで参りました。

おかげさまで量産出図を行うまでの期間、試作検証の繰り返し回数などを大幅に減少することが出来て、さらに殆どの開発案件でバラツキ無く同様な結果が残せるようになり、関係者一同、フロントローディング設計への取組という面では、大きな成果に喜んでいる次第です。

しかしフロントローディング開発と言う面で見たときには、垂直立上げが巧くできておらず、この問題を解消するために、甚だ苦慮しております。

お手数かとは思いますが、垂直立上げを滞らせている事象を列記した資料を添付致しますので、先生のご経験からのアドバイスを頂けたら幸いです。

<後略>

■回答■

(3月11日に戻る)

私が専ら指導する採点方法は、項目毎、評価委員に10段階で評価させ、最高点・最低点で同点評価が2名以上無い場合は、その評価者を除いた評価平均点を評価点とする方法です。当然誰の発言かは、評価委員には分らないようにして評価させるのですが、その発言内容から誰か分る評価委員はいるはずです。

なるべく冷静公平に評価できるであろうと選んだ評価委員と言えども、これまでの様々な人間関係での経緯はあるはずで、エコヒイキ、好き嫌い感情は、無意識にその評価点に現れる物です。これらを排除する目的が、上記採点方法にはあります。

例えば10人の評価者がいたとして、9人までは7点以上の評価を付けているのに一人だけ3点を付けているような場合です。この場合最高点10点が一人だけならそれも外し、残りの8人の点数平均を評価点とするわけです。最高点の10点が2名以上いる場合には、エコヒイキも無いだろうと言うことで、9人の平均点を採る事になりますが。

なおこのエコヒイキ、キライ感情の排除を、統計学的に行っているケースもあります。分布などの演算に数字を入力する手間は掛かりますが、最近はExcelなどで簡単に統計計算ができますので、より正確を狙うならこの選択肢もあります。

そしてこのようにして裁定した点数に対して、前もって決めておいた重み付け点数を乗じた数を貢献ポイントとして、各自に付与する訳です。

しかしこの仕組みを設けても、これだけではラインの長になっている方々や、彼方此方に引っ張りだこで時間の取れない方々は、自分の担当外のDRなどには、なかなか参加できないはずです。

この問題を解消するには、DRにテーマを掛ける責任者から、これはと期待する方を、指名して参加して貰うルールを設ける必要があります。またこの指名が全てに最優先するルールとする必要があります(緊急且つ重要な商談若しくは重大なクレーム対応以外は)。

指名対象になる本人達は、当初は迷惑がり嫌がりますが、回数を重ねる毎、本人達が乗り気になり、レビューの場面で、昔取った杵柄とばかり大活躍をするようになります。さらに恐らく皆さんが危惧するでしょう、彼らの本来業務への影響も、元々能力の高い方々ですので、殆ど影響が出ません(少なくとも私が関わったケースでは)。

一方、主に世渡りでラインの長に就いている方々の中には、この仕組みを快く思わない方々が出てきます。設計者や物づくり技術者としての能力が特に優れているわけでもない彼らには、当然のこととして“お座敷”がかからないからです。さらにお座敷が掛かる方々と、人事考課や賞与で明らかな差が付いてしまうことも面白くない話です。

若いときから、冷静に技術者としての能力の限界を悟り、そのマネージメント能力や処世術を磨いてきた方々は、この仕組みになっても特に動ずることはないのですが、世渡りだけで現在の地位を築いた方々にとっては、迷惑千万な仕組みであり、自分の将来に取ってあってはならない仕組みと考えます。

ですから、このような方々からの目に見えない妨害行為が、繰り返される場合があります。このような場合には、このような輩に対しては、少なくとも製造業にとっては、獅子身中の虫として冷徹な判断を下す必要があります。

なぜなら、かつてバブルが弾けた時、多くの製造業において、本来なら景気回復後の一気立上げに、必須で必要となる貴重な人材を、様々な手を使ってリストラに追い込んだのは、主にこのような輩達です。1995年以降、様々な製造業における“現状診断”を行って参った私が、具体的な証拠を持って把握している事実です。

そしてこのようにして冷酷に切捨てられた貴重な人材達は、食いつなぐと言う、背に腹は代えられない事情もあり、古くはサムソンなどの韓国企業、2000年以降は中国の新興企業へと一斉に赴き、彼らが急成長する原動力となりました。

方や貴重な人材を流出させてしまったこれらの製造業では、重大な人材不足に陥り、思い切った一気立上げが儘成らない結果に陥ってしまった事実があります。

このような過去の例を鑑みた場合に、悪い芽は早く摘むに越したことはないと言うことで、冷徹な判断を下せと言う論拠であります。