CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所


垂直立上げの秘訣は量産出図後一定期間は製造側都合による設計変更を認めないこと(前編)




■質問■

<前略>

弊社では、15年ほど前から先生の御著書や機械設計の連載などを参考にさせて頂き、フロントローディング開発に取り組んで参りました。

おかげさまで量産出図を行うまでの期間、試作検証の繰り返し回数などを大幅に減少することが出来て、さらに殆どの開発案件でバラツキ無く同様な結果が残せるようになり、関係者一同、フロントローディング設計への取組という面では、大きな成果に喜んでいる次第です。

しかしフロントローディング開発と言う面で見たときには、垂直立上げが巧くできておらず、この問題を解消するために、甚だ苦慮しております。

お手数かとは思いますが、垂直立上げを滞らせている事象を列記した資料を添付致しますので、先生のご経験からのアドバイスを頂けたら幸いです。

<後略>

■回答■

お送り頂いた資料を見る限り、貴社の後工程を担う方々が、開発に果たすべき自己の役割を理解できておらず、社内ルールに従ってのお付き合い程度の意識でDR等に参加しているとしか見えません。

本来なら後工程のメンバー全てが、DRを的確に行うことの価値を理解し、積極自発的に主要メンバーがレビューに参加することが望ましいのですが、この意識改革や道義付けには時間が掛かります。この部分での取組が、貴社では欠如していたと言えるでしょう。

ですから当面の対策では、後工程に対する罰則的なルール作りで、強制的に改善を行うしかないと思います。

ルールとは、可能なら“量産出図以降、或る一定期間(貴社製品なら1年間)物づくり都合による設計変更要求を一切受け付けない”という物です。私がこれまでお手伝いを申し上げた先では、経過措置としてこのルールを設けて頂いた所は少なくありません。

このルールを設けると、生産技術を始め、物づくり部門は、設計の初期段階からその設計内容を絶えずウォッチし、自分たちに取って都合が悪い設計部分を、こまめに指摘して、設計変更求めるように必然的に変わって行くからです。どちらかと言えばセレモニー的なDRの場面より、頻繁に行われるミニDRの場面が活性化します。さらにこれが進むと、設計部署の各所で、自発的なミニDRが行われるようになります。

しかし一部には、このようなルールを設けても、動きが悪い、硬直化した企業があります。その結果量産が、いつになっても立ち上がらないなどという問題を引き起こします。しかも「設計変更をしないからだ」と居直りを堂々と行った所もありました。この様な場合には、総合的な利益を考えた場合に、上記ルールをごり押しすることも賢明な選択ではなく、設計変更を行わざるを得ない場合があります。

しかしこのような選択をした場合には、設計変更に費やす費用一切合切を、設計部門負担とせず、製造仕損として、しかもペナルティー(3〜5倍)を付け、製造部門の仕損として振り替えさせるルールを設ければ、結果としては上記ルールを設けたと近い成果を得ることができます。なぜなら、この仕損部分が異常に大きいと言うことは、製造部門の責任者達にとっては、厳しいマイナス評価につながる事になるからです。

最後に、DRに参加して欲しいメンバーに積極参加をして貰うためには、次のような評価方法を採用することをお奨め致します。

その評価内容は、彼らが行った指摘・指導・ノウハウ開示などに対して定量的なポイントを付け、人事考課及び賞与に具体的に反映させる仕組みです。どの程度の反映を行うかは、それぞれの企業文化により熟慮して決めなければなりませんが、これまで私が関与したケースでは、半期賞与で100万円を超える評価がなされたケースがあります。

又この仕組みを一定期間続けた結果、それまでラインの長に付かないと、なかなか浮かばれなかった実力を持った設計者や技術者達が、私の目から見ても適正な評価を受けるようになってきたところが少なくありません。それぞれが持つ固有技術や継承技術の伝授、問題発生を前もって察知するフロントローディング眼力が、定量化されたポイントとして評価される様になったためです。

具体的な定量化の方法は、前もってあり得るであろう貢献内容を具体的に洗い出しておき、それぞれの貢献度合いにつきどれだけのポイントを付加するかを決めておきます。またそれぞれが取得したポイントを賞与や人事考課に反映するルールも定めておきます。また技術関係の部長クラスを中心に、冷静公平に貢献度合いを判断できるメンバーを、評価委員に選任して評価委員会を設けます。当然評価ルールなどは、全社員への公開が前提です。

そしてその上で、DR、ミニDR、自発的なミニDR、フィジビリティースタディーなどの全ての場面において、その議事内容を詳細に記した議事禄を作成しておきます(デジタル録音し、自動書き落としをさせればよい)。一方開発プロジェクトなどを遂行する責任者達には、それぞれのJOB着手時点からのあらゆる顛末を、記録させておきます(PDMで自動蓄積させればよい)。また過去の類似開発などで発生した問題点などを体系化して、それに費やしたロス金額なども明記した上で、網羅的に検索可能な状態にしておきます(これもPDMで自動蓄積できる)。さらにそれぞれの貢献内容に重み付けを行っておくことも肝要です。

そして各JOBが完結した時点で、評価委員会を開催して、部外参加者達の貢献度を評価するわけです。過去の類似開発で発生していた問題の発生を、防ぐ貢献発言を誰かしていないか。自己が持つ継承技術や固有技術を伝授する発言を誰かしていないか。工学的見地に立ち、問題発生を事前に防ぐ発言を誰かしていないか。当然、新技術創造に結びつくヒントになる発言を誰かしていないか。などを、遍く拾い出し、それぞれの貢献度合いを、評価委員達が協議して裁定して行くわけです。これらの検出には、PC上の検索機能を、フルに活用すると効率よく作業が進みます。



(3月18日に続く)