CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

有泉徹の年頭所感2016(その3)



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人事経費として大量の中途採用を行うのが人材確保の近道

一方上で述べた本筋の取組は、手間や時間の掛かる取組だ。またその成果を享受できるまでには、下手をすると10年かかることも覚悟しなければならない。これでは早急に開発力を強化したり、自社内の技術者配置を適正化したい方々には不向きだ。

このような方々には、“もう一つの解決手段”があり、この解決手段は、下記する事情とも併せて、様々な製造業で採用して貰っている。

事情とは、バブル崩壊以降その生産拠点を、海外に新設したり移した製造業は少なくない。これらの製造業では、海外赴任要員として30歳代の設計者達を重宝がり、それでなくても人材不足の設計部門から、30歳代の中堅設計者が消えてしまう苦境に陥っていた。

“もう一つの解決手段”の具体的な方法は、それほど難しい事ではなく、海外赴任要員や設計以外のもの作り部門へ、人材を供給することを見越して、新規に配属される設計要員を、実質必要員数の数倍は確保して設計部門で引き受ける仕組みである。そしてこの中から将来の設計部門を担って貰う者、海外拠点も含め他部門の中堅・幹部等を担って貰う者に徐々に分別して、それぞれに適した育成を施してゆく取組だ。

私がこの提案を行うと、大抵の客先で「設計部門の固定費が上がってしまう」と一笑に付せられそうになる。これがネックになって豊富な人材をとりあえず取り入れ、取捨選別をして、優秀な設計人材を揃える手が使えなかったわけだ。

しかし多くの製造業で設計部門は、上記したように伝統的に人材育成・人材供給部門の役割を果たしてきたはずだ。私が各所に展開して貰っている“もう一つの解決手段”は、この人材育成・人材供給部門の役割を明確化して、全社の取組として認知させた上で、育成部分の固定費は人事部門への振り替えという形で、固定費増の問題もクリアーして貰っている。要するに育成員数分チャージは、設計部門のコストに含めず、全社コストとしての人事経費として扱うと言うことだ。

だが“もう一つの解決手段を採用”しても、一朝一夕で豊富な人材が急激に育つわけではない。来年度の新卒者から取組始めたのでは、その効果が出るまでには、10年近く掛かってしまうだろう。ではそれまでのつなぎをどうするかだが、やはり中途採用を大量に確保して、人材を促成するしかない。中途採用のメンバーが海外赴任させられるレベルに育ったら、海外にいる設計出身者と入れ替える形で赴任させるやり方だ。

当然中途採用者の中には、将来の設計部署を担わすことが期待できる者も紛れているだろう。この場合は、そのまま設計部署に残せば、中堅設計者拡充に繋がる。設計以外のもの作り部門への適任者も同様だ。

一方海外に赴任している設計出身者の中には、将来の設計部署を担わせる要員としては、不適な者もいるはずだ。この場合は、特に中途採用を育成した要員と入れ替える必要はないと言うことになる。



幾ら仕組み作りを行っても正規雇用以外の者達に頼っていたのでは戦力なる人材は育たない

全ての製造業ではないのだが、設計部署に正規社員以外の設計者が多く存在するケースがある。

CADオペレータなどが派遣の場合なら驚かないのだが、DR(設計審査)の説明員若しくはその補助に、外部設計派遣会社から派遣されている設計者が出席している場合がある。

または説明員は社員なのだが具体的な質問に答えられずに、自席で待機している外注設計者に、電話で確認を取りながら質問に答えているケースがある。私にとっては異様な光景であり、溜息をつく場面だ。

これが、様々な経験を積み、技術を売りとした独立した設計会社として、装置単位を丸々引き受けているような、ベテランのプロの設計者達なら、それも一つの選択肢と理解できるのだが、大手設計派遣会社の社員となると話は別だ。

その派遣社員が仮に極めて優秀で、的確に仕事を処理できる人材だとしても、このようなやり方には、私は否定的である。何故ならかららが担当する部分では、自社の人材育成のチャンスを逃すからだ。この面では、上記したベテラン設計者でも同じだろうと言う反論もあろうし、ベテラン設計者の意識の持ち方次第で、同じ話になる場合もある。

しかし決定的な違いは、ライバル会社への情報及びノウハウ流出の危険性である。何れの場合も機密保持契約を結び、会部への機密漏洩はない建前にはなっているが、現実的には、この機密保持契約が絵に描いた餅に終わっている場面を少なからず見てきた。

ベテラン設計者からも絶対に漏れないとは言い切れないが、一般的には受け入れ先との人間関係で業務委託を受けているケースが一般的である。柵を持たない大手派遣会社派遣設計者と決定的に違うところだ。

さて本題に戻り、このようなケースで、なぜ自社の人材育成のチャンスを逃すかだが、言わずともおわかりだろう。育てようとする若手設計者の誰も、派遣設計者が担当する部分を経験することが出来ないからだ。

過去私が把握した例で、製品を構成する半分くらいの装置の設計担当が、派遣設計者になっていたケースがあった。そしてこの様な設計者達に行った、固有技術・継承技術・設計ノウハウを把握するための「設計思考展開」の作業は、悲惨な物だった経験がある。参加者の誰もが答えられない仕組みや物理メカニズムの装置があまりに多すぎて、やむを得ず急遽派遣設計者を呼び寄せ展開作業を進めた経験だ。当然派遣設計者達は極めて非協力的で、問われた事だけを最小限答える態度に終始していた。

本来派遣設計者の活用は、開発の大詰めとなり、詳細計画図検討や部品図作成に膨大な工数が発生するときの、一時的なバッファ的利用が、多くの製造業における本来の活用形態であったはずだ。



(1月22日に続く)