<前略>
弊社では、先生の御著書などを参考にさせて頂き、新製品開発の初期段階で必ずFSを行っております。
売れる商品への追込み、それを実現するための技術の詰めなどの場面では、手前味噌ですがそれなりに成果を上げるようになって参りました。
しかし、コストの詰めや、生産性の検証がうまく行かず、生産準備段階でのコスト未達や、生産側都合による設計変更要求の多発など、折角効率よく開発が進むようになったのにも拘わらず、トータルの開発の生産性と言う観点から見たときは、はかばかしい成果を得られておりません。
そこでお教え頂きたいのですが、この段階で行うFSの注意点やコツをお教え頂きますと助かります。
<後略>
そしてこの場面で用いられ、作成されるDPD(設計思考展開)の内容は、最低表2で示す項目が網羅できており、絶えずそれぞれの要件から、その展開内容への考察が加えられる状態である必要があります。
また上記の様なDPD展開作業を進めていると、各所で粗々の構想設計作業を始めとする、各種検討作業が必要になります。この場合には、複雑な検討作業を要して、長い時間が掛かりそうな案件を除き(このような案件は次回参集までの宿題とし)、短時間(30分程度)で検討可能な案件は、極力その場で、参加者全員の目と知恵で、その検討作業を行方法が効率的です。
例えば図面的な検討が必要な部分では、その都度3次元CADで進める粗々の設計データを、プロジェクターで画面に映しなが、参加者全員の知恵と情報を結集させるやり方です。
FEM等の解析が必要な場面では、そのモデル化過程から算出結果までを、画面に映しながら、参加者全員の知恵を寄せ集めると、極めて効果的です。時には解析検討のモデル化方法やその条件の取り方を、従来製品や競合製品の実機を前にしてディスカッションすると、更に効果的です。
また、実機を前にしてのディスカッションは、従来製品や競合製品の実力値を的確に知り、それを新製品に反映させる場面でも有効に働きます。そしてこのような場合には、高速度カメラやサーモビューアー、モーダル試験器などの、最新の計測機器を用いると更に効果的です。何故なら参加者全員の目の前で、実際の対象機械に起こっている物理現象が可視化されるためです。参加者全員が共通な視点で、物理現象を認識しあえるからです。
さてこの段階におけるFS(フィジビリティースタディ)の押さえ所ですが、貴社で生じている、量産段階に入ってからのコスト割れや、もの作りに対する不都合を生じさせないことです。
特に量産に入ってからコスト割れが判明したのでは、話になりません。多くの製造業で、量産に入ってから、その原価割れや採算不良を解消し、何とか採算ベースに見合う粗利を捻出するための、VE・VAを行っている例を良く見かけます。しかも専任のチームを作り、開発部門のミッションとして、定常的に行っている例さえ少なくありません。
私に言わせると、量産移行後のVE・VAはナンセンスです。量産に入ってから未だVE・VAが必要だと言うことは、開発部隊がいい加減な仕事をしていた、まともな開発が出来なかったと言うことに他ならないからです。
私がこれまで行った200件に至る“現状診断”でも、その半分以上の製造業で、この量産移行以後のVE・VAの効果を自慢げに語られました。しかし私に言わせれば、量産に入ってから未だVE・VAをやらなければならないと言うことは、開発部隊の能力が足りなくて、開発目標に到達できていないところを、見切り発車しただけの話として受け止めております。
私が何故ここまで言うかというと、開発段階でのコスト設計と、量産移行以後のVE・VAでは、その実効効果に雲泥の差があるからです。何故なら品質・機能確認前のコスト設計では、思い切ったアイデアをトライすることも出来ます。開発期間に制約があるなら、幾つかのトライ案と安全策案の部品を並行手配しておけば済むからです。
ところが品質・機能確認が済んでしまった製品に対するVE・VAでは、思い切ったコスト低減策を、一発で織り込むような、無謀なことは出来ません。精々枝葉末節な、重箱の隅を突くような手しか打てません。これでは手間ばかり掛かって、その効果が薄いという訳です。
要するに、開発段階でコストが詰められない問題は、開発担当者達の問題先送り行為に他なりません。本来は、設計完成度が上がる都度、しっかりした設計見積を行い直し、常に目標原価との差異を追い続け、目標に向けて頑張ることが、開発設計者の重要な仕事の一つであるはずです。
最初でも指摘したように、貴社でコストの詰めや、生産性の検証がうまく行かない問題点は、この辺りを蔑ろにして、起こるべくして起こった問題だと考えます。