CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

有泉徹の年頭所感2015(後編)



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では具体的にどのような取組をすればよいかだが、かねがね私が提唱している、稼げる商品開発を根気よく緻密に行ってゆけば済む話だが、この取組は口で言うほど簡単な取組ではない。そこでこの場面を借りて、この取組への注意点や押さえどころを、過去20年に渡る各所での取組成果を元に簡単に紹介する。



まずは自社若しくは自事業体(以降は自社と表す)が持つ技術力・人材力・もの作り力・販売力を的確に把握するところから始まる

何を行うのにもあたり前の話だが、自己の実力を的確に把握した上で新たな取組みの計画立案・遂行でないと、よほどのまぐれや幸運でもなければ、その取組は頓挫する。新規事業や戦略的商品開発を試みる製造業にとっては、此処での失敗はその命取りにもなる。

実力が伴わない無い物ねだりの計画では、その実現性は極めて乏しい。冷静に自己を評価・判断して、その実力の内で十分成し遂げることが叶う計画でなければならない。

しかしこれを言うと、多くの場面で「そのようなことを言っていたのでは、他社に先駆けての新規展開など出来ない!」と言う類の反論が帰ってくる。これまで私が行ってきた200件に達する“現像診断”の結果報告場面でも、良く言われた。

だが、そのような発言があった製造業では、開発段階でのモグラ叩き、製造準備段階での設計変更要求や垂直立上げの失敗、結果発売タイミングの遅延、商品出荷後の市場クレーム多発など、新商品の稼ぎをドブに捨てるような無駄が各所で頻発していた。中には、コスト未達のままでの量産突入など、稼いでなんぼの民間企業としては考えられない体たらくを晒していたところも少なくなかった。

そしてこれらに平均的に言えたことは、自己の実力を丼勘定的にしか見ておらず、その実力を過大評価していたり、把握できておらず、私の目から見たら“無い物ねだり”の新規事業計画であったり、新商品開発計画での、猪突猛進的な事業経営を行っていた。中には惰性的にこれらを行っていた、どうしようもないところもあった。

一方、私がその診断結果に合格点を付けたところや、私の提案を受けて“事業改革”“商品開発改革”“設計改革”などを成功したところでは、趣が違っていた。

その顕著な例では、自己の保有技術が徹底的に棚卸され、自己技術の強み弱みを的確に把握した上で、10年後、5年後のための技術の仕込みが淡々と行われていたり、自己保有の人材能力の把握(人材の棚卸)を的確に行っており、個々の技術者に対する育成作業や不足する人材の補充などが、淡々と行われていた。さらに当然このケースでは、もの作り技術や要員計画、販売技術やその要員計画なども、同様に緻密に行われていた。

既にこれらの取組方法は、各所で記しているので、敢えて本稿うでは割愛をする。技術の棚卸しの進め方については、私の著書『設計者の頭の中を整理する「設計思考展開」入門』日刊工業新聞社刊47ページ〜を、人材の棚卸し及び育成については、日刊工業新聞社「機械設計」誌、2014年4月号P28〜38“「特集 設計・開発力を強靱化する、勝ち抜くための設計者・技術者育成の考え方と実践...解説1 勝ち抜ける強靱な製造業を確立するための開発要員を中心とした人材育成のポイント  長期レンジの企業戦略から個々の能力に見合った的確な育成を実施する」を参照願いたい。



自己が持つ力を的確に把握した上で、10年後20年後の外しの無い稼げる事業戦略を、自社の総力を挙げ(全ての知恵を参集させ)て立案・遂行する

一口で技術の仕込みや人材育成・補充と言っても、何の工夫もせずに、闇雲に技術の仕込みを行ったり、該当者達に教育行為を行う製造業は無かろう。漠然且つ漫然と技術開発や教育を行ったなら、それこそ埃を被った役立たない技術の野積ができたり、役に立たない設計者が会社中に蔓延することになるからだ。

このためには、10〜20年後を目指した自社のあるべき姿を、外れの無いレベルで緻密に定めて、そこで必要となる技術の内容やレベル、人材の種類と員数を、可能な限り詳細に予測して、計画的にこれらを仕込んでゆくことがまず必要だと言うことだ。

しかしこの10〜20年後を目指した自社のあるべき姿を、経営幹部の思いつきや思い込みで行うと、多くの場合失敗する。これを防止するためには、それなりに根拠のあるバックデータを基に、可能な限り多くの事業メンバの知恵を結集して、戦略立案を行う必要がある。

そしてその精度を上げる一つの要素は、徹底したマーケットの予測だ。1960年代から現在に至るまでの、様々な工業製品の進化の歴史を睨むと、多くの商品で10〜20年後の動向が割合簡単に予測できる。

余り大きく様変わりしない、生産財として用いられる大型機械製品などは、恐らく20年先を十分見通す事が可能と考える。一般消費財として用いられる、電子器機類などでも、私に言わせれば10年先の予測が可能となる。

とは言っても、ガラパゴスと言われて、消費者ニーズをくみ取れず大失敗した、我が国家電メーカの例を見れば解るように、マーケットから遊離したプロダクトアウト商品を、幾ら市場に投入しても、それでは21世紀を勝ち抜く事業戦略にはなり得ない。予測した10〜20年後、着実に市場を席巻できる様な商品でなければまずい。

と言うことで、まず最初に必須なのが、ターゲットとする10〜20年後の市場のニーズをより正確に読み取ることが必要となる。具体的にどのようなアプローチで行うかは、割愛するが、拙著「設計思考展開入門」(日刊工業新聞者刊)の第三章 「新規投入型商品開発で新発想を生み出す手順」(60頁〜)に紹介してあるので参照願いたい。

但し書籍の例は、近未来のマーケットニーズ予測だが、バックデータとなる“社会・経済動向、顧客動向など”が10〜20年後に代わるだけで、アプローチは基本的には同じである。

そして、“もの作り力”強化や“販売力”強化への取組もこの事業戦略に基づき、淡々と進めればよいことになる。さらにこの後に続く実際の商品企画・開発には、私が常々提唱している、フィジビリティースタディやフロントローディング開発・設計が役に立つ。


いずれにしろ、私が診る我が国製造業の底力は無限である。我が国の画期的な景気回復・拡大は、製造業が担うしかない。上記した取組方を参考に、安定して高収益を上げられる事業形態へと舵を切り、数百年・数千年に渡り安定した我が国の経済基盤を担う製造業へと変革して欲しい。