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有泉徹の年頭所感2015(前編)



年末のどさくさに紛れて行われた、史上最低投票率選挙の結果、第三次安倍内閣が発足した。本人達に言わせれば、この2年間における舵取りの評価を求めたのだという(本音は違うところにあると思うが)。

しかし二年前に声高々と歌いあげた“アベノミクス”は、本当にその成果を積上げつつあるのだろうか。確かに円高基調だった2年前に比べて、大幅に円安状態に移行した。株価も確かに見た目は3〜4,000円の値上がりをしている。





しかし、輸出をその稼ぎとする我が国製造業の殆どは、既にその生産拠点を海外に移してしまっている。幾ら円安になっても、輸出競争力には殆ど影響はない。

それよりも国内生産拠点で用いる原材料や燃料費には、円高はマイナス影響だ。勢い国内生産量を減らして、海外生産拠点で製造した物を国内に持ち込むことになる。生産効率や人件費の関係で、此方の選択の方がメリットが大きいからだ。

その結果、これら製造業における正規社員の雇用は増えず、派遣や期間工の採用減さえ起き、雇用状態は一向に回復しない。かえって非正規雇用者が増加しているデータさえある。これでは、勤労者所得が増えるわけもなく、景気の回復が一向に実感できない訳である。





一方屑役人共は、これまで数十年続けてきた放漫な金遣いを反省して、改めるわけでもなく、財源(年貢)を減らさないことだけに執着している。そして脳天気な政治家共は、この魑魅魍魎達の手の平で踊らされて、消費税10%を決めてしまった。

幸いにして選挙に勝つための人気取りで、10%アップは延期されたが、残り4年の間になし崩し的にアップされることは必定だ。

しかし税収を増やしたければ、他にやることがあるだろう。消費税を上げて購買意欲を萎えさせるのではなく、勤労者所得を大幅に増加させ、消費マインドを高め、景気を良くすることだろう。25年前のバブル期は、消費税3%でも、今より税収は20兆円ほど多かった。



そして、この勤労者所得を大幅に増強させるためには、非正規労働者に頼り切った、我が国の雇用形態を、大幅に変革させる必要がある。

一方、すでに外食産業などにおいては、松屋のワンオペレーションでも露見したように、低賃金・過酷労働では、まともな人を集められない状況が生じている。これは、最近の大型インフラ工事における応札不調の原因にも言え、低賃金・重労働の工事現場には、外国人労働者はともかく、信頼して担わすことが出来るまともな人材は集められないため、官公庁が出す発注予定価格では、仕事を受けない方がましと言う流れが生じている。

また少なくとも私が関わる中小の製造業では、水準以上の所得を提示して、正規雇用を保障しなければ求人応募さえ貰えない状況にある。要するに雇用しようとする側のニーズと、求職者側のニーズがマッチしない状況に陥っており、ある意味人手不足状況なのだ。

ではなぜこのような状況が生じているかだが、バブル崩壊後の20年間、より安い手軽な頭数あわせで、企業収益の帳尻を合わせてきた、我が国企業の経営者達にその最大の原因がある。さらに、25年前以前には無かった“ブラック企業”なる者が跋扈できる、派遣法の改悪などを、グローバル化と称して推し進めた、小泉純一郎及び竹中平蔵にもその責任の一端がある。要するに、例え人材不足でも、大多数の勤労者所得が向上できる環境に蓋をしてしまったのだ。

ではどうすれば良いかだが、例年述べているように、やはり此処は製造業ががんばるしかあるまい。我が国製造業は、紛れもなく高い製品開発力を今でも保有している(形式知化しているか否かは別として)。そして他国に追従を許さない、もの作り力を保有している。裾野の広い世界に冠たるサプライヤ(部品メーカを)は、今でも絶好調だ。さらに、少子化で減少したとは言え、自由な環境で育った、優秀な人材も(多くが磨かれていないが)十分いる。

これらを有機的に機能させ、高品質・高価値・高価格・高収益性を持った商品を、全世界の金持ち層に売りまくれば、間違いなく我が国製造業は劇的に復活できるはずだ。

まずコンシューマ商品だが、中国を始めロシヤなどの新興国は、経済格差が大きい代りに、大富豪の人数が絶対的に多い。かげりはある物のアラブの富豪や、これから伸びて来るであろうインドやASEANなどにも、多くの大富豪が誕生するだろう。

ボリュームゾーンをその主戦場とする、米国や韓国などを起源とする国際企業と、無益な消耗戦をする必要はない。精々欧州の老舗企業しか商品を提供していないような分野で、そのマーケットを席巻すればよいわけで、極めて高収益なビジネスが叶うだろう。

一方生産財製造メーカも同様である。今現状でも、これらで、我が国メーカにまともに競合できるメーカは、米国かドイツにしかない。逆を言えばこれらの生産財メーカが製品や設備を供給しなければ、世界のもの作りは停滞する。各国の独禁法に抵触しない範囲で、ハイエンドの製品や設備を高価格で供給し続ければよい。

そしてこれら開発・生産拠点を国内に回帰させ、大幅な雇用増加と、正社員化による安定した勤労所得確保を実現するのだ。間違いなく我が国の景気は復活するはずだ。

これは、上記した業種に限らず、あらゆる第二次産業に言えることだし、第一次産業の農業や漁業にも言える話の筈だ。



(1月9日に続く)