CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

クラウドサービスでCAEツールを利用しても良いか



■質問■

<前略>

大分以前から、某CAE販社よりシミュレーションツールのクラウドサービス利用を奨められております。

図面をはじめとする技術情報データ管理にクラウドサービスを用いても良いか
CADをクラウドサービスに移行して大丈夫か

で先生が答えられている機密情報の保持についての問題は、CAEなどのシミュレーションデータの一過性の流出でしたら余り大きな問題にはならないかと考え、特に利用頻度の低いCAEツールなどはクラウドサービスに移行しようと考えております。

私共のこのような判断は誤り無いでしょうか。

<後略>

■回答■

長時間データを、クラウドサービス側に放置しないなどの注意は、必須ですが、大丈夫だと考えます。ただし利用頻度の低い高度シミュレーションツールを、自在に使いこなせるか否かは別ですが。

実は会員の方々には、この辺りに関する私の見解を、既に2012年段階で示しておりまして、お問い合わせに関する部分を転載致します。


<転載始め>

さて話を本題に戻すが、ここ数年、CADやCAEなどの設計支援ツールを扱う販社から、設計支援ツールを提供するクラウドサービスの可能性について、相談を数件受けてきた。

そして筆者が、真っ先に色よいコメントをしたのは、CAEに代表されるシミュレーションソフトのサービスだ。

まず経済力や解析ニーズなどを考えると、その使用頻度が最も多くなるであろうは、やはり大手製造業の製品開発部署であろう。

いくら企業規模が大きいとはいえ、年に数回しか用いないシミュレーションソフトを、数百万〜数千万掛けて導入するのは、採算性が悪い。しかも流体や、衝突などの案件では、多くの場合、高価で高性能なハードウエアも必要となり、ますます採算性が悪くなる。

かといって外部に委託解析を出していたのでは、タイムリーさに欠け、試行錯誤的な追込みもやりづらい。

このような事情を持った製造業では、その提供料金次第だが、流体や衝突解析アプリケーションソフトが、しかも一流の物が、クラウド環境下で提供されると、極めて都合がよい。少々使用料金が高くても、自前で道具を持ったり、外部に委託をするより、桁違いでコストメリットがあり、タイムリーさも確保できる。

しかし、同じように利用頻度が低いのだが、経済力や人材力に劣る中小製造業の場合は、どうであろう。

筆者の独断と偏見だが、大手製造業と同じメリットを得ることは、難しいと考える。なぜなら、道具を使う環境が提供されても、それを駆使できる人材力に、難がある場合が殆どだからである。

サービスを提供する側から、かゆいところにも手が届くような、手取り足取りの支援が得られない限り、たとえそれが最も簡単な、線形の変形・応力解析でも、巧く使いこなすことは無理だろう。これは、これまで筆者がコンタクトを持ったことがある、中小製造業の平均的な実態からの見解だ。

このサービスを提供する側からの支援は、たとえ大手製造業の場合でも、必要になるケースが殆どのはずだ。なぜなら、たまにしか使わない衝突解析を、技を駆使して使いこなすなど、幾らポテンシャルの高い、大手製造業の設計者達でも、無理だと考えるからだ。

この提供する側からの支援態勢や質が、CAE関係クラウドサービスビジネスの、成否を握ることになろう。

一方、このようなサービスが開始され、様々なシミュレーションソフトが、時間貸しで手軽に使えるようになって、一番喜ぶのは、誰だろう。

恐らく、汲々とした予算の中で、他に先駆けた良い成果を、誰よりも早く生み出そうと、しのぎを削っている研究者達だろう。特に民間の研究者達は、年に数回しか実際の開発に役立たない道具などは、絶対に買ってもらえない。しかし「自分の研究にはどうしても必要だ!」、などと、常々飲み屋でこぼしている研究者などは、両手を挙げて喜ぶだろう。

この分野でクラウドサービスを受けた場合の、セキュリティー面での課題だが、CADなどと違い、解析終了後、全てのクラウド上のデータを消すことを前提にすれば、既に提供が始まっているビジネス系のサービスと、同等なセキュリティーへの配慮がなされていれば、筆者は十分だと考える。

殆どのシミュレーションソフトは、割合コンパクトなモデルファイルと結果ファイルで保存できるからである。


<転載終り>