CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

40年前の商品開発技術に安住した体質では、負け組転落は必定(その2)


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はじめに

割合息の長い機械製品を、その主力商品とする製造業に、単発コンサルテーションを行ってきたので、その問題点の概要を紹介する。

会員諸氏が所属する企業で、これ程の問題を抱えているところはないと思うが、歴史の長い製造業ほど程度の差こそあれ、本例のような問題を抱えていることがあるので、改めて自社の状況を見直されることをお薦めする。

尚以前も述べたが、通常私が行ったコンサルテーション内容を、このように公表することは、絶対に無い。しかし本件は、本ホームページを始め雑誌や講演などを含めて、その内容を公表しても良いという条件で、廉価な料金で引き受けた話なので、心おきなく皆様に紹介させて頂く。当然何処の企業かは、絶対に判らない内容にすることが条件だが。



当日指摘した問題点3  根拠が無い、若しくは曖昧な設計対策を強引に進める体質



上記したベテラン設計者の例がその最たる物であるが、同様なアプローチを“納期”と言う隠れ蓑を振りかざして、多くの設計者達が行っているようだ。そして冷静に診たときこのアプローチが、開発期間や開発効率の足を引っ張っている事実が、開発工数推移のデータから読み取れた。

しかし、設計マネージャも含めて、この本質的な問題点に気付いていないことには、ただあきれるしかなかった。唯一の救いは、一部の若手設計者達の中に、「何かおかしいぞ?」と言う意識を持っていた事だ。

このような場面では、一歩戻ってのロジカルシンキングが重要である。私が「設計思考展開」を提唱しているのも、その理由がここにあるからだ。



当日指摘した問題点4 若手を育てようとする意識が薄い



さらに設計組織の体質的な問題には、他社に比べ明らかに育ちが悪い若手設計者の問題があった。

一連のヒアリングを通して、若手設計者達に、継承技術や仕事の進め方などが、巧く伝わっていないと思われる場面が、頻繁にあった。さらに始末の悪いのは、組織論・指示命令系統とは何かなど、企業人としてのイロハの常識さえも欠落している者もいた。

いずれにしろ、ベテラン設計者の間で「技術を継承しよう」「技術を共有化しよう」という意識が、極めて希薄であり、「若手を育てようとする意識」も併せて希薄であった。



当日指摘した問題点5 技術を継承しよう・技術を共有化しようという意識・文化が乏しい



まず部長クラスを筆頭に、ノウハウ・勘所を部下の能力・スキルに合わせ伝えようする意識が欠如していると診た。技は盗んで覚えろ、自分で学んで育ての姿勢が彼らの大勢の意識であり、これでは上記問題点に挙げた若手設計者が育つ訳わけが無い。

若い設計者達を育てるポイントは、的確な技術継承に尽きる。ここが巧くいっていないため、全てが空回りして、悪魔のスパイラルに陥っていると診た。

しかしこの技術継承の断絶問題は、該当製造業だけにある問題ではなく、多くの製造業で、技術継承が巧くいっていない事実があるので、会員諸氏も一度自社の状況を振り返って頂きたい。

一般的に技術継承の断絶問題は、その理由としては色々な要素が挙げられる。古くはオイルショック時代の採用減による、世代断絶。若者の理工系離れ製造業離れによる設計者予備軍の資質低下。バブル期急激な事業展開に伴う人材の散逸。業務の細分化によるチャンスを与えられない設計者など、多くの原因がある。そしてその中で2次元CAD導入も、次のような良き文化を潰させた原因の一つになっている。

かつて製図板で設計が行われていた当時、若手設計者が製図板に向かっていると、同じ設計チームの先輩設計者はもとより、通りがかりの先輩設計者達が、その作業を後ろから覗いてアドバイスを行ったり、蘊蓄をかたむけたり、けなしたりして自然発生的にミニDR(ミニ設計検討会)が行われる文化が多くの製造業で見られた。この文化は技術継承という側面から見たとき極めて有意義な伝承行為であった。

 ところが、2次元CADが導入され、それを使う若手設計者が、ガラス張りの金魚鉢のなかに置かれたCAD端末で、設計作業を行うようになると、直属の上司以外の先輩達が、わざわざその金魚鉢に入って行き、その設計内容を覗いてのミニDR(ミニ設計検討会)を行わなくなってしまった。その後、端末はそれぞれの席の脇に置かれるようになったが、21インチ画面ではよっぽど物好きで無い限り、直接関係する先輩設計者以外は、若手設計者の設計を覗かなくなってしまったのである。

ヒアリングで聞き出した数々の事実をつきあわすと、明らかに創業期を担った人たちが築いてきたであろう、****設計に関するコツやツボ、さらには勘所を、若い人たちに巧く引き継げていない状況にあると言う事実を認めた。ただし残念ながらこのベテラン達も、****の原理・原則までは至れていないようである。このため、引き継ぐべき継承技術を、体系立てて示せないハードルが、的確な技術継承を行う上での障害になっていると診た。