CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

有泉徹の年頭所感2014(前編)



アベノミクスの掛け声の下、株価はリーマンショック前の状態に戻った。しかし愚かな施策を採り続けてきた多くの我が国製造業には、その影響がとても及んでいるとは思えない。株高は海外投機資金が、相対評価的に我が国に流れ込んでいる、実体経済とは異なる現象ではないかと、筆者は診ている。

しかし、何れにしろ我が国製造業が、このまま停滞していて良いわけがない。幸い株高と呼応して円安状態が続いている(本来輸出が好調だったり、投機資金が流れ込めば円は高くなるはずだが)。製造業はこれを機に、一挙にその体質を、バブル崩壊以前の状態に強化するチャンスと診る。そこで今年の年頭所感では、我が国製造業の体質強化という視点から、三つの切り口からみた、当面我が国製造業が取るべき取組みに触れる。



製造業としての失われた20年を挽回するためには

筆者は以前から、バブル崩壊後の我が国製造業の先行きに対する不安を述べ、警鐘を鳴らし続けてきた。特に長期レンジでみた自社のあるべき姿や、将来の位置づけを定めることなく、近視眼的な、戦略性を持たない判断に基づき行った様々な施策は、現在大きな付けとなってこれらの製造業に襲いかかっている。

例えば、単に員数あわせのために、将来の自社に取って必要不可欠な、貴重な人材を追い出してしまった例、短絡的な選択と集中を行い、みすみす将来の稼ぎ頭を失ってしまった例、高度成長から自社の足元を支えてくれていた、優秀な協力企業を、納入部品価格のみにこだわった故、失ってしまった例など、拾い上げたら枚挙に暇がない。

極めつけは、グローバル化という悪魔の声に踊らされ、安い動労力を求めて、安易に中国に生産拠点を移したのだけれど、現地の賃金は上がり、しかもチャイナリスクに蝕まれて、赤字を垂れ流している例さえ見かける。当然、生産拠点をASEANに移したいのだけれど、現地政府などに難癖を付けられ、身動きできない状態を当たり前のように聞く。

中には、それでも現地設備をほぼ塩漬け状態にして、国内回帰を果たせた例も知るが、これは一握りの幸運な例で、国内の生産設備を売却し、人員整理をしてしまったために、戻るに戻れないケースも少なからずあるはずだ。

とは言え、これから改めて国内に生産拠点を確保して、設備を整え要員を確保しようとしても、すぐ簡単に中国の生産拠点の肩代わりが出来るわけではない。これはASEANに拠点を移す場合も同じだ。

しかし生産拠点の問題は、その力がなければ駄目だが、それぞれの製造業が持つ生産技術力やものづくり力で、金と時間さえ掛ければ何とかクリアできる。高い勉強代として、近視眼的にしか将来を読めない、駄目経営者達が犯した失態を、将来への教訓として位置づけることも出来よう。

だが、商品(製品)開発力の低下は、鷹揚に構えることの出来る問題ではない。特に将来の自社に取って必要不可欠な、貴重な開発要員を追い出してしまった例、短絡的な選択と集中を行い、みすみす将来の稼ぎ頭の事業開発を中断や売却をしてしまった例、高度成長から自社の足元を支えてくれていた、優秀な協力企業を失ってしまった例などは、由々しき問題だ。これらは、常に“旬でよく売れて稼げる商品開発”を実現するために、必須で製造業が保有していなければならない要件だからだ。

くどいようだが、製造業の本分は、“旬でよく売れる商品”を常に開発し続けて、これで稼ぎ続ける事だ。要するに全世界の顧客ニーズにマッチした、安全で高品質且つ適正価格な製品を、より短期間且つ低コストに開発して、常に安定した製品供給が叶うことが、製造業に求められる要件であり、これが製造業の本分と筆者は定義している。

そしてこのためには、事業に関わるあらゆるメンバーが、主体的に動き、この本分を実現してゆくことが、製造業に働くスタッフ(頭脳を使い己の意思を持って事業を動かしているメンバー)に求められている必須要件だ。少なくとも数少ない、我が国勝ち組企業の常識だ。

逆に、これが出来ていない製造業は、近い将来淘汰され、厳しい経済競争の波に消えてゆく運命にあると言うことだ。

そして、読者諸氏の中で、自社が仮に、筆者が指摘してきたような状態に陥っていると診る方は、早急にその体質改善や商品開発力強化に取り組むべきと考える。

具体的にどのような取組みを行うべきかは、フロントローディング設計やフィジビリティースタディー、設計思考展開、設計者育成などのキーワードで、本ホームページ各所で解説しているので参考にして頂きたい。

拙いと思われる製造業は、1日も早く強靱な製造業力を備えるように、改革改善に取り組んで頂きたい。

尚参考にまで触れておくが、筆者が知る限り、確固たる考え方を持ち、自社の将来を絶えず考え続けている経営者が、強いリーダーシップを持って会社を引っ張っている製造業では、本コラムで挙げたような失態はこれまで見たことがない。概ね元気である。

一方、数年ごとに順送りでトップが変わるような製造業には、本例で紹介したような問題を抱える製造業が少なくない。どうしても経営者の思考が、自分の在任中は不都合はなく、クオーター毎の数字さえ確保をすれば、バラ色の老後が待っているとばかりに、保守的且つ場当たり的な経営に徹した結果であろう。本来の企業人としての力より、“世渡り”で上り詰めてきた輩には、このような経営スタンスしか取れなかったのであろうが、このような例が余りにも多いことは、嘆かわしいことである。



生産拠点の海外化に伴う開発拠点の海外化は極力避けるべきである

昨今、開発コストの削減を狙って、開発機能を海外に転出させる企業を見かける。開発要員に費やすコストの削減を狙ってのことだ。また「海外に出た方が、優秀な人材を豊富に確保できる」?ということだ。

確かに国内で、まともな設計もできないメンバーに、高い給料を払って、ダラダラ仕事をされ、開発期限の遅延を繰り返し、量産立上げも巧く行かず、さらには出荷後のクレーム対策費用が膨大と来たら、国内での開発は止めようと言う話になるかもしれない。

しかしこのような体たらくな製造業が、海外に出て行ったからといって、まともな製品開発ができるわけが無い。そもそも国内で確保した開発要員を、まともな設計者として、育てることができなかった製造業が、どのような魔法を使って、現地で確保した開発要員を育てるというのか。

設計や商品開発とは何かを、理解できていない輩達は、「同業他社から人材を引き抜いてくればよい」と簡単に言うが、それで本当に即効性がある、海外開発拠点構築を、可能にできると思っているのだろうか。

このような安易な考え方で、開発機能の海外転出を行った暁には、国内で開発を続けるより、よほど大きな無駄を、結果的には費やすことになる。

しかもその結果、大きな品質問題を起こしたり、売れない製品開発を続けたら、企業存続の危機さえ招きかねない。

しかし駄目な設計者揃いの国内開発機能でも、思い切った設計改革を、徹底的に行ったら、その一人あたり、時間あたりの人件費に関係なく、大幅な開発費用の削減が可能だ。

例えば筆者が各所で展開しているフロントローディング設計など、様々な手法を取り入れ、開発組織そのものの質を高め、徹底的に効率化した開発を実現してやれば、それまで負担に考えていた開発コストを、一挙に軽減できる。これは、各所で実証済みである。(続く)



(1月10日に続く・・・1月10日まで読めません)