<前略>
早速の御回答ありがとうございました。やはり私どもの目論見は、一筋縄では行きませんか。
しかし冷静な目で見たら、当然のお話です。仮に私が彼らの立場なら、どのような侘びがはいっても、自分の価値を正確に認知できずに、犬猫のように切り捨てた会社に、協力などをする気にはなれず、決して許すこともないでしょう。
とは申しても、今後我が社が生き残ってゆくためには、どのような手を使っても、潰えてしまった固有技術や継承技術を、再把握して体系化・共有化を図りたいと思います。
そこでもう少しお教えいただきたいのですが、彼らがノウハウ提供を承諾してくれたときに、先生はどのような方法で、彼らが持つノウハウの引き出しを行うのでしょうか。
私どもが参考にさせていただいている、機械設計誌でご紹介された方法そのままでしょうか、恐らくあの中では紹介いただけていない、隠し味的な物もあるのではないかと思いますが、もしよろしければその概要をお教え下さい。
でも肝心の彼らに、協力を承諾して貰わなければ話になりません。先生は「礼を尽くして、お詫びをして、さらに本人が納得する対価をお支払いすることで乗り越えて参りました。」と述べておられますが、もう少し具体的にお教えいただけますと幸いです。
当然、先生にこれらの作業を、全面的にお願いして行く前提での質問です。
<後略>
まず最初の質問の隠し味ですが、当然沢山あります。しかしこれらは、様々な場面で私が会得した、経験値的な物が多く、なかなか概要を申せと言われても、総論的に語るのは憚られます。
強いて概要と申せば、このような作業はヒアリングでの聞き出し方と、聞き出した内容に対する論理性の、迅速な確認がポイントになります。
例えば、ヒアリング段階における、対象者の顔や言葉などに現れる反応を敏感に察知して、応答内容の真偽や誇張などを的確に読み取り、得たい回答が出るように、彼らを誘導してゆくことなどが挙げられます。またヒアリング時に、対象者が気分良く喜んで応えて貰える雰囲気作りも重要です。
さらに論理の妥当性や抜け確認には、ヒアリングの進行に従い、メモと頭の中で“設計思考展開票”に相当する様な物を作成して、順次確認を取ってゆく手を使います。
一応これらは、弊社スタッフに私の技を伝授する目的で、“要領書”・“注意票”の形で形式知化してありますので、一連の作業をご依頼いただいた際には、貴社に、貴社以外漏洩不可の形で提供することは可能です。
二つ目のご質問の“対象者への説得”方法ですが、「臨機応変に!」とお答えするしかありません。
例えば、韓国企業などにスカウトされた方々の中には、持っている物を吸い尽くされた後には、ボロ布のように捨てられた方々が少なくありません。そしてこれらの方々の中には、65歳の年金受給までの生活費にも事欠く方が、少なからずおります。
このような対象者には、失礼の無いように期待以上の金額を示すことでしょう。当然前もってその生活状況、困窮状況を把握した上での、アクションになります。
また、貴社を去っていった方々の中には、自分を虐げたにもかかわらず、未だに愛着を抱いている方々がおります。このような方々には、これまで対象者と直接の接触が無く、現在それなりの立場におられる貴社側の人間が、礼を尽くしてお詫びをし、低姿勢で協力を要請することです。
ただし、具体的なヒアリング作業で彼らは、些細なことでも臍を曲げることがありますので、細心の注意が必須です。ですから、これらの作業は、私どもに完全にお任せ下さい。
当然この場合でも、細心の事前調査と、彼らが納得行く謝礼を示す必要があります。
最もやっかいなのは、韓国企業などにスカウトされ、一財産稼いだ方々や、それ以外でも、今現在、地位も名声もあるレベル以上におられる方々です。
少々の謝礼には靡きませんし、心情的には拒否反応を示すケースが殆どですので、説得の面談さえも拒否される筈です。原則的には、諦めるしかない対象者といえるでしょう。
しかしこのような方々は、逆に貴社側から見たときには、保有するノウハウを絶対に聞き出したい、優秀な方々である場合が殆どの筈です。私のこれまでの経験でも、「何が何でもお願いできないか」とのリクエストが多々ありました。
そしてこの場合も、彼らの身上を綿密に調査することで、彼らの欲求を旨く満足させる形で、旨くこちらのペースに巻き込めたケースがあります。
一方このような方々に無理にお願いしなくても、時間は掛りますが、潰えてしまった技術を、当時の設計資料や図面を用いて、回復させる手立てがあります。現在貴社の設計部署を支える精鋭メンバーが持つ技術力や知恵を拝借して、私どもの仕切で、リバースエンジニアリング的に、ヒアリングに対応してくれなかった彼らが、どのような根拠でどのような意図を持ち、対象の設計を詰めていったかを、参加者全員がその知恵を出し合い、推理を進めてゆく方法です。
機械は必ず物理の原則・法則に従って成立しております。理論的には、完璧な論理に従って詰められている設計は、誰がアプローチしても、必ず一つの解に収束します。
現実的には、設計者達が持つ経験則に従った山勘が入り込んでいるため、完璧に一つの解に収束させることは不可能ですが、対象者からヒアリングで聞き出したと、同レベルであろう結果を、これまでの私の経験では、得られております。