CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

フロントローディング開発体制作りに取り組んだが5年経っても成果が出ない




■質問■

<前略>

5年ほど前にアドバイスを賜った者ですが、また厚かましいご相談を申し上げたく、お問い合わせをさせて頂きます。

先般アドバイスを頂戴した後、設計幹部を中心に、フロントローディング開発体制作りに取り組んでまいりました。そしてその際、先生のご指導を仰ごうと、私を始め数名の有志が動いたのですが、余り好調とも言えない当時の経営状況と、その後に襲ってきたリーマンショックのために、結局ご支援を頂く打診すらできない結果でした。

このため、当時機械設計誌に先生が連載をされていた「グローバル競争を勝ち抜く “攻め”の設計改革講座」を教科書にして、関係者が集って輪講をすることで、最終目標・計画策定作りなどを行い、取組みに着手致しました。

しかし、5年を費やしても、私たちの理解不足と実行力不足のためかと思いますが、フロントローディング開発体制作りと言う面では、はかばかしい結果を得ることができず、厚かましいお問い合わせをさせて頂いた次第です。

今度先生のご支援を仰ぐことができれば良いのですが、現時点で私の口から確約することも難しく、この問い合わせを先生のホームページに公表頂いても構わないという条件で、ご対応をお願いできませんでしょうか。

前回は、先生へのご支援依頼をちらつかせて、掲載をご容赦頂いたのですが、今回もとは参りませんでしょう。どうぞご自由にご利用下さい。ただし弊社の名前が判らないようにして頂くという条件付きですが。

さて前置きは以上に致しまして、弊社の現状を列記致します。


  1. フロントローディング開発体制へ早急に移行しなければならないことは、経営層、各部門責任者、設計幹部間での共通の認識として、最優先で取り組むべき改革・改善項目として、概ね合意されている。
     
  2. フロントローディング開発体制移行推進プロジェクトチームを作り、私以下、課長クラス2名、係長クラス5名、計約30名の専任組織を作り、鋭意態勢作りに取り組んできた。
     
  3. 推進チームの内20名余りは、先生がA社で行われたような、フロントローディング開発先行実践チームで、残りは開発部署内や全社に対する、啓蒙・推進・支援を分担して来た。
     
  4. 推進部隊約30名以外に、解析専任部隊十数名も、推進プロジェクト傘下として、設計者達に、先手を打ったシミュレーション技術を会得させると共に、予測型設計の雛形モデル構築に注力させた。
     
  5. 設計部門プロジェクトリーダの過半数は、表面的には、フロントローディング開発体制への移行に同意している。しかし、実質的な開発プロジェクトの進め方は、従来の方式を脱却できず、出図期限を理由に、「作って・壊して・考えよう」の悪循環を抜け出せていない。当然その配下は、リーダの指示に従わざるを得ず、本来問題意識の高い設計者が、深読みを放棄して、試作段階でトラブルを起こすという、モラルハザードが生じている。
     
  6. 小職の傘下で、パイロットプロジェクトを担ったチームは、開発を重ねる毎、成果を上げつつあるが、その成果が画期的でないことと、「元々優秀なやつばかりを集めたチームだから、できて当たり前」と言う異論もあり、その成果を余り評価されない。
     
  7. フロントローディング開発体制移行を、十分に理解しているプロジェクトリーダー傘下の設計者達の中にも、リーダの目を盗み、煮詰め切れていない設計を、あたかも煮詰めた如く、報告、出図してくる、不届き者が少なからずおり、試作段階や量産立ち上げ段階での、開発の足を引っ張る元凶になっている。設計者としてのプロ意識の欠如と言えば、その通りだが、限られた手駒の中では、彼らも戦力として活躍して貰わなければ困る。
     
  8. 論理的に設計作業を進める目的で、先生の「設計思考展開」を導入したが、これも定着しない。先生のご著書を関係者人数分購入して、配布のうえ、グループ分けして、週2回のペースで勉強会を2年余り続けた。元々この手法を使わなくても、論理的に設計を進めてきた一部設計者達は、自分の思考過程をメモ代わりに残したり、部下やチームメンバーに、自分の意図を伝えるツールとして重宝しているが、本当に使って欲しい設計者達が、面倒がって使ってくれない。DRの報告などで強制しても、その場しのぎで泥縄的に、つじつま合わせをするだけで、本来の目的に活用できていない。
     
  9. 先生が連載をされていた「グローバル競争を勝ち抜く “攻め”の設計改革講座」に従い、開発期間、開発に費やした費用、量産立ち上げに費やした費用、出荷後のクレーム対策費用などで、この5年間の取組みの成果を、ある程度定量的に測ったが、全体的に見ると、はかばかしい成果認められない。プロジェクト毎には、極端に良い数字を出している物から、かえって悪くなった物まであり、総合的には失敗と言える。
     

極めて断片的な現状のサマリーですが、数多くの製造業でフロントローディング開発体制確立を支援されてきた先生なら、これだけの情報でも、何が良くないのかを、洞察頂けるのではないかと思います。

この情報の範囲で構いませんので、今後の弊社の進むべき道をご指導賜れますと幸いです。

<後略>

■回答■

まず私の連載を参考にして頂いておるなら、その内容の如何は何とも評価しようがありませんが、取り組むべきアイテムとしては、漏れはないと考えます。

しかし、ご提供頂いた情報だけでは、余りにも現状を推察できる情報が欠如しており、如何に場数を踏んでいるとはいえ、私からのコメントが的はずれに終わる危険性を感じます。かといって、現状を把握できる膨大な情報を頂いても、無料でのサービスコンサルというわけにも行かず、的はずれの場合はご容赦頂くことを前提に、下記する3つの問題点を指摘させて頂きます。

まず起こっている現象から察して、明らかに取り組むべき「フロントローディング開発体制確立」に対する及び腰や無理解が、その根元にあると見えます。大局的に見た総論「フロントローディング開発体制確立」には、異論を唱えようも無く、推進チームの号令に従っていても、それらを具体化する設計の進め方や、設計アプローチ方法などが、それぞれがてんでんばらばらなら、巧く進むわけがありません。

「フロントローディング開発体制確立」に最適・最短に至れる設計の進め方などを、推進チームは優先的に検討・検証して、全体から合意・認知を貰ったうえ、周知徹底することが、取組みへ最低限の手立てだと考えます。恐らく皆さんは、この部分を怠っていませんでしたか。パイロットプロジェクトはそのために行うはずです。

また**さん傘下で、パイロットチームが行った、パイロットプロジェクトの、進め方や成果の分析・水平展開のやり方に問題点を感じます。このプロジェクトは、周りから完全に浮き上がった状態で、その取組みを行っておりませんでしたか。

「元々優秀なやつばかりを集めたチームだから、できて当たり前」の仕事を、優秀な彼らの物差しで遂行したのであれば、一般的な設計者達に水平展開する際に、様々な問題が生ずるはずです。

これまで私が支援を行って来た取組みでは、少なくとも2回目のプロジェクトを回す際には、一般設計者達に、この取組みを水平展開する際に、何か問題が生じないかを、常に当人達に考えさせ、周りからは、この視点からの厳しいチェックを怠らない体勢で、取り組んで参りました。

他にも沢山ありますが、3番目の問題点は、関係者全員への「フロントローディング開発体制確立」への、目的の周知徹底の不足です。自社の状態に僅かでも危機を感じ、「自分たちの会社を強い物にしよう」と言う、僅かな意識さえあれば、改革への取組みに背を向けたり、妨害にも近い行為を繰り広げる訳がありません。

いずれにしろ、原点に立ち戻り、これまでの取組みの何が悪かったのかを、当事者であることを忘れ(脇に置いておいて)て、冷静且つ論理的に振り返ってみるべきです。恐らく上記した以外にもたくさんの、判断ミスや勘違いは見つかると思います。その上で、体勢の立て直しに取組むことをお薦め致します。

当然私どもの支援を、ご依頼頂ければ、短期間で軌道修正・成果会得へと結びつけさせて頂きます。